13 / 16
13 ハーレム要員と別れ話(1)
しおりを挟む使い道が無くなったかに思われた悠のタオルだけど、
実はあれから大活躍している。
抜いた翌日に何気なくタオルを嗅いでみたら、全く匂いがしなかったのだ。
『えっ、フェロモンって一晩で香りが飛ぶの?!』
ってメチャクチャ焦っちゃったんだけど、さらに翌日、ダメ元で匂いを嗅いでみたら、かすかに香りが嗅ぎ取れたんだよな。
あの時はまじで安心した。
もちろんβとして生きたいなら、このまま香りを感知出来ないほうがいいに決まっている。
でも悠の匂い自体は好きなんだよなぁ。
Ωは嫌だけど、嗅ぎたくなるこの気持ちはどうしたらいいんだ?
そんな感じでそこから検証を繰り返してみた結果、どうやら体調によって嗅覚に変化があるってことに気がついた。
はっきり分かっているのは、悠のフェロモンを取り入れた後に抜くと、Ω値がリセットされるというか、βとして安定するっぽい。
とにかく悠のフェロモンに身体がまったく反応しなくなる、ってことだけは確かだ。
なんでこうなるのかは俺にもよく分かってねーけど、抜くと安定するんだからそういうものなんだろう。
抜かなくてもリセットされる時もあるから、ホルモンバランスも関係あったりすんのかな?
そういえば前回トイレで抜いた次の日に、近くに悠がいても柔軟剤の香りしか嗅ぎ取れなかった気がする。
悠も俺からは汗の匂いしか感じとれなかったと言っていたし、多分この考察で間違いないと思う。
後は本当に日によってバラバラで、ある程度感じとれる日もあれば、ほとんど感じ取れない日もあったりするし。
そんな俺の最近の日課は、学校に行く前に悠のタオルの匂いを嗅ぐことからスタートしている。
匂いで自分の体調の変化も分かるので、今や俺の立派な健康バロメーター代わりと言ってもいい。
毎朝嗅いでいるせいか、最近だとテレビを見ている時やバイトから帰ってきた時にも、何となく匂いを嗅がないと落ち着かなくなってきた。
癖みたいなものなんだろうけど、手元についつい引き寄せてしまう。
タオルに依存しすぎている自覚はあるけど、嗅いでると落ち着くんだから仕方ないじゃん。
もちろん匂いがしない日もあるけど、とりあえずあの優しい肌触りを感じたくなってしまうんだ。
そんな感じで大事に大事にタオルを使っていたのに。
───やられたっ!
その日バイトから帰ってきた俺はいつも通り、ベッドの上に置いてあるタオルに癒やされようと鼻を近づけて……固まった。
わなわなとした怒りが湧いてくる。
(……あいつぅううう!!)
湧き立つ怒りのまま自室のドアを力任せにバンっと開けると、そのまま居間でテレビを見ている姉ちゃんに詰め寄った。
「姉ちゃんっ! 何で俺のタオルから、洗濯物の匂いがしてんだよ!」
洗剤の香りしかしなくなったタオルを、姉ちゃんに向けて突き出してやる。
(朝に嗅いだ時はちゃんと香ってたのに…!!)
俺がこんなに腹を立てているってのに、当の姉ちゃんはケロッとした顔をしている。
お前、どんだけ罪深い事をしたのか分かってないだろっ!
「そりゃそうでしょ。今日有給で休みだったから、朝のうちに洗濯したもん」
「はぁっ!! 何でベッドの上に置いてたコレが洗濯されてんだよっ!」
「何でって、あんた最近ちょこちょこテレビ見ながらそれ弄ってたじゃん。枕カバー洗うついでに、一緒に洗っといたの。いいかげん洗わないと汚いんだから、ちゃんと洗濯に出しなさいよね」
俺が悪いみたいに言ってんじゃねーよっ!!
「アホ──っ、汚いとか言うな!俺にとっては大事なものなんだぞっ」
「何怒ってんのよ? 高そうなタオルだったし、心配しなくても傷まないようにちゃんとネットには入れといたけど?」
「そういう事を言ってるんじゃねぇよっ!!」
アホッ、姉ちゃんのどアホーー!
これを嗅がされた時の俺の気持ちなんて、姉ちゃんにはきっと一生理解なんて出来ねーんだっ。
洗剤の香りに全部消されてしまった消失感ときたら……。
そう、相棒を失った時はこんな気持になるのかと思うほどの、深い悲しみだったんだぞ!
まさかこんなにも早く相棒を失う日が来るなるなんて、思わねーじゃん。
それくらい大事なモノだったっていうのに!
俺、明日からどう生きていけば良いのか、もう分かんねぇよっ。
タオルを握りしめたまま涙ぐむ俺の姿を、姉ちゃんがポカンとした顔で見上げてくるけど、お前なんかもう知らねぇ!
しばらくは口も聞いてやんねぇからなっ!!
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
大人への門
相良武有
現代文学
思春期から大人へと向かう青春の一時期、それは驟雨の如くに激しく、強く、そして、短い。
が、男であれ女であれ、人はその時期に大人への確たる何かを、成熟した人生を送るのに無くてはならないものを掴む為に、喪失をも含めて、獲ち得るのである。人は人生の新しい局面を切り拓いて行くチャレンジャブルな大人への階段を、時には激しく、時には沈静して、昇降する。それは、驟雨の如く、強烈で、然も短く、将に人生の時の瞬なのである。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる