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09 ハーレム要員とお揃い

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「早紀ちゃんもサイズ、確かめた方がいいんじゃない?」

「い、いいっ! 大丈夫」


 あたしがぶんぶんと首を振ると、美香は「そんでも、買ってからサイズ違う、なんてことなったら、めんどくさいじゃん。ねぇ?」と、お姉さんに同意を求めた。
 お姉さんは「そうですね」と同意しながら、困惑した表情で、あたしに目線を送ってきた。
 あたしは小さく頷く。

 このお姉さんは、ひと月前のクリスマスシーズンで、あたしのリングサイズを知っている。
 例えそのときのことを、記憶していなくても、クリスマス時期の売り上げ表や顧客リストに、あたしのリングサイズは記録されているはずだ。


「あ、でも、サイズは前後2サイズまででしたら修正できますので……ご購入されて一年以内でしたら、前後1サイズ無料でお直しもできますよ」


 にこっと営業スマイルで応じるお姉さんに、内心感謝する。
 美香は「そんなもんかー」と納得したようなしていないような顔で「確かめるだけなのに……」と独りごちた。

 美香を横目に、「別々で、ラッピングしてください」とお願いすると、お姉さんは営業スマイルで応えた。


「お友達とお揃いのリングなんて、素敵ですね」


 美香は焦ったように顔を赤くして「そうなのっ! 私ら、仲良しなの、ね! 最近友達同士でお揃いのリングするの、流行ってるんだよ! ホントのホント、ただの友達同士だからっ!
「あっ! おねーさん、ジュエリー扱っとるんだから、そこんとこ、ちゃんと知っとかないとだよ! 知らないと損するからね! 女の子同士、仲良くするの、不思議でもなんでもないんだから!」


 お姉さんは呆気にとられたように「そうですか……」と頷いた。そしてすぐに切り替わる営業スマイル。

 ジュエリーショップから解放されると美香は、半額セール中のマフラー、手袋売り場を指さした。


「このまえ、コッチ戻ってそうそう寝込んだ時、パパ、ものすごく心配してて……。半額だし、バレンタインにちょうどいいなって」


 あたしが延々とガラスケースにしがみついている間に、美香は既にめぼしい商品にあたりをつけていたようだった。
 迷うことなく、カラフルなマフラーを手に取る。ファッションに詳しくないあたしでも、ぱっと見て、すぐにどこのブランドのものかわかった。
 美香の手には、鮮やかなマルチストライプ柄のマフラー。


「これなら、女でも男でも、どっちでもいいじゃん? パパがいらないって言っても、私が使えるし」


 そう言って、美香はあたしの首にマフラーを巻いた。


「うん、やっぱり女の子でも似合う!」


 美香が首を傾げる。


「っていうより、早紀ちゃんだからかなぁ」


 美香はマフラーを巻いたあたしを、今度は鏡越しで眺める。


「ほっそい首~」


 美香がマフラーに手をかけ、両サイドをひっぱる。うっと、息がつまる。


「早紀ちゃんだったら、簡単にいくんだろうな……」


 物騒なことを考えていそうな美香に、鏡越しで視線を向ける。
 美香はしばらくじっと鏡の中のあたし、というよりマフラーの巻き付いた首とマフラーを、虚ろな目で見ていた。


「卓ちゃんは……そううまくいかないよね……」


 美香ったらどうしたの、と笑ってみようとして、やめた。声が震えそうだった。
 左手の薬指に、痛みが走ったような気がした。

 レジへ向かおうとする美香にトコトコついていく。

 美香の横顔には、未だ表情が浮かんでいなかった。
 無表情のまま、レジカウンターにマフラーを置く美香。かん高い声の店員さんから、「税込みで7,980円でございます」と告げられると、美香はお財布をバッグから抜き出す。
 ラッピングもしていない紙袋を受け取り、「ありがとうございました」の声を背中にすると美香は口を開いた。


「実はこのマフラー。ほんとは卓ちゃんにプレゼントしたいなって、思って。去年……十月の末頃かな。見てたものなの」


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