【完結】ダフネはアポロンに恋をした

空原海

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第三章 ゥオットゥォウスゥワァーン、ドワヨッ!

00 未来より

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「ゥオットゥォウスゥワァーン、ドワヨッ!」


 もしあなたが、初めて会った人に、こう言われたら。あなたはなんて答える?

 相手は、美形の外国人男性。金髪碧眼。
 目がつぶれるんじゃないかっていう、とんでもなくキラキラ眩しいスターオーラを、あたり一面に撒き散らす。

 外国人の、しかも男性の年齢なんて、見た目じゃわからない。
 だから、パッと見た感じ。うーん。
 ハリウッドスターが一番映画で活躍しているくらいの年齢って感じかな。
 その曖昧な答えはなに、と突つかれたら言葉に詰まるけど。

 だって本当に年齢がわからない。の彼は、いったい何歳だったんだろ?
 まぁ、スマホで調べたら、すぐにわかるはず。
 WikipediaやIMDbにでも、きっと載っているはずだから。
 彼の名前――普段は使わないミドルネームまで載っているんじゃないかな――と、生年月日と。経歴だとか色々。

 ほとんど稼働していないインスタやフェイスブック、ツイッターの公式アカウントもある。
 ファンによるアカウントは、彼の写真が大量に貼り付けられて、頻繁に更新されている。

 とにかくカッコいいことは確か。
 なんというか、別世界の人。同じ人間なのかな? って思うような。
 外国人だから、とかじゃなく。顔貌かおかたちが整っているから、というだけでもなくて。

 立ち姿。その醸し出す、圧倒されるような空気。
 ゆったりと堂々として鷹揚で。だけど古めかしい感じではなく、大人の男性の色香がちゃんとあって、自信に満ち溢れている。
 それでいて無邪気な少年のような。

 彼はきっと、胸を温め、思わず笑ってしまうような、嫌らしい感じじゃないやり方でくすぐってくるような、なにか特別な香りを漂わせているに違いない。
 だってこんなに派手なムキムキ男、全然タイプじゃないはずだし、もっと現実的で地に足のついた、自分だけの特別な人は、他にちゃんといる。
 だからこれは浮気心でもなんでもなく、彼がそういう香りの持ち主のせい。
 そんな風に、心の内で言い訳をする女性は多いはず。

 屈託のない笑顔は、海沿いの陽気な太陽の光を、たっぷりと注がれ続けているような気分にさせる。
 それに仕草。
 耳や頬、眉や鼻、口に触れたり。まるで見せびらかすかのような、太くて逞しい腕を組んだり。だって腕を組まなくても、肩から肘にかけての二の腕が、その彫刻のような顔より太そう。
 それから会話の中で、指揮者よろしく左右に振られる手だとか。
 知らないうちに、目が惹き寄せられている。そんなふう。

 つまりは、スター。正真正銘のロックスターだ。

 日本での知名度はそこまで高くないけど、洋楽好き、映画好きなら誰もが、彼の作った楽曲を一度は聞いたことがあると思う。

 そんな人に「ゥオットゥォウスゥワァーン、ドワヨッ!」って、満面の笑みで話しかけられたら。
 しかもなんだか、後光まで差して見える。そんな状況。
 あなたはどうする?

 オドオド戸惑って、「誰か助けてくれる人はいない?」って、あたりを見渡す?
 「え? なに? なんて言った?」って聞き返す?
 「ヤベェ。関わりたくない」って無視を決め込む?
 「人違いです」そう言って、きっぱり断る?
 それとも「はいはい! よくわかんないけど、カッコいいですね! 写真一緒に撮ってください、あとサインもください」ってミーハーにはしゃぐ?

 あたしだったら、どうするかな。
 最初は、キョロキョロと「あたしに話しかけてる? 第二のスターが後ろから登場するなんてことはない?」って周囲を確認するかも。
 それで、誰もいなかったら、戸惑いながら聞き返す。「もう一度おねがいします」って。
 だってなんて言ったのかわからないんじゃ、どうしようもない。 

 最初、なんて言ったのかわからなかった。
 同じ台詞を繰り返されて、ようやく聞き取れた。意味がわかった。
 いや。聞き取れなくても、本当はわかっていた。
 わかっていたけど。

 なんて返すのが、正解なんだろう?
 どう返してもらいたかったのかな?

 ――あたしに言われた言葉では、なかったけどね。



 あたしは誰か?
 あたしの名前は、結城ゆうき 未来みく。生後8ヶ月の女児。
 まさか8ヶ月の赤ん坊が、こんなことを考えているわけじゃない。それはない。

 もしあたしが、父さんの代わりにその場にいたら、こう考えたかなって、それだけ。

 そしてあたしの一人語りは、ここでオシマイ。
 次の話からは、バブバブ言うだけの乳幼児に戻る。
 バブバブの他に、そろそろ、「まんま」ってあたしが発声して、「ママって言った!」「いや違う。ママって言葉は、うちでは使ってねぇだろ。今のは『マンマ』。メシのことだ」って、母さんと父さんが言い争う頃かも。

 そういえば、このとき。父さんと母さん、けっこう本気でケンカしていた気がする。
 母さんが顔を真っ赤にして泣きそうになって、父さんが慌てて。
 結局涙をこらえきれなかった母さんが、あたしを抱きしめながら、ぽろぽろと涙をこぼすもんだから、父さん、必死になってなだめていた。
 父さんは母さんの肩を抱こうとしたけど、「やだ……やだ、やめて。たかしさんの……ばかっ」って言われちゃって。今度は父さんまで泣きそうになって。

 何やってんだかって呆れちゃった。 

 赤ん坊のあたしが言った意味?
 そんなの忘れた。
 でもまぁ、父さんの言う通り、『ママ』って単語は、それほど耳にすることはなかったかも、ね。

 うん。まぁ、こんな感じの家。

 それから、あたしがこういう女のコだって、どうか覚えておいて。
 話を聞いてくれてありがとう。

 父さんと母さんをよろしく。
 いろいろ欠点もあるけど、彼らはとてもいい人間。娘のあたしが保証する。
 それじゃ。





 ――もうしゃべらないよ!

 いい? ここから先は、あたしは赤ちゃん。
 こんな風に戻ってはこない。どんなに待っていてくれても。
 次の話からは、母さんが主人公だよって伝え忘れていたから、大慌てで戻ってきただけ。
 了解した?
 それじゃあ、本当にサヨナラ。

 ちょっと待った。やっぱり最後に、もう一つお願い。

 赤ちゃんのあたしにも、優しくしてね。ときどきは遊んであげて。きっと喜ぶ。
 大人達の会話が熱中しすぎて、放っておかれているときがあるはず。
 そのときは「みくちゃんを忘れないで!」って、父さんと母さんに教えてくれる? よろしくね。

 あれ。お願いが二つになっちゃった。
 父さんと母さんのことをよろしく頼んだことも入れたら、三つだ。

 たくさん頼みすぎた? そんなことないでしょ?
 まぁ、いいよね。


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