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語り部 ????
しじみのお味噌汁に溺れて死んでしまえ
しおりを挟む「あんたのお父さんって、ジョンなんだって?」
ジョンはアメリカの有名なロックバンドのイケメンギタリスト。
と言っても、既に五十近いんだけど。
しかし。
ハリウッドスターもロックスターも、イケメン達は年齢を重ねても、永年イケメンぶりを誇っていたり、ますますイケメンになったりする。
化け物がウヨウヨしている世界だ。
逆に、全盛期とのあまりの落差に、自分の質素さを棚に上げ、『お気の毒に』と同情を捧げることも、これまたよくある。
まあ、そんなことはいい。
話を戻そう。
目の前の後輩の顔。
異様なイケメン――認めるのも癇に障るが、否定するには整いすぎてる――だから気になるのかと思いきや、初めて見たときの既視感。
あれはジョンだったのだ。
「認知されてねぇ……ませんけどね」
ギロリと一睨みすると、ヤツは眉を上げた。
このオーバーな顔芸がまた、イラっとする。
この業界にはそういう類の人間が多いのも事実だが、かぶれてんじゃねーよ、と嘲笑してやりたい。
一方で、かぶれじゃなくて、ホンモノだと言わんばかりの顔が腹立たしい。
「私生児ってこと?」
「そ。先輩つっこむね。ファン?」
またもやヤツの敬語は、百億光年彼方の銀河団へと投げ捨てられた。
「ファンじゃない」
「ふーん」
興味なさそうに会話を打ち切られる。
そしてしじみの味噌汁を白い陶器のマグカップで啜っている。
ヤツの連日の二日酔いに、仕方なく。そう仕方なく。
あたしはLAにある日系スーパーでフリーズドライ味噌汁を買い求めた。
「会ったことはあるの?」
「ねーよ」
「会いたくないの?」
「まあ……気にならねーってわけじゃねぇけど」
「この世界、どっかで繋がってるわよ。あんたが声上げれば、セッティングしてくれるんじゃない?」
「そこまでは。それより覚えたいこともやりたいこともあるし」
チャラくていけすかない男のくせに、まっとうなことを言うから、まるであたしの方が仕事を忘れた脳みそ空っぽの浮かれ女みたいだ。
「随分、薄情なのね」
これは当てこすりだと、さすがにわかっている。
だけどヤツは特に気にする素振りもなく「アイツが俺のハハオヤを覚えてるとも思えねーし」と言った。
「まさか! いくらスターだって、そこまで――」
「あのさ。夢見てるところ悪いけど。俺ですら、覚えてねぇ女はいるよ。寝たからって相手を全部覚えてられるほど、女のことしか考えてねぇわけじゃねーから」
しじみの味噌汁に溺れて死んでしまえ。
心底そう思った。
(語り部 ????「しじみのお味噌汁に溺れて死んでしまえ」了)
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