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8 「お姉さまばっかりズルいわ」妹があらわれるまで

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 この国の二大勢力。王家と神殿。
 国王と神殿長によって、権力が二分されていたと前述したものの、実のところその比率は大いに偏りがあった。
 天秤はどちらに傾いでいたのか。
 賢明なる読者諸君のことだ。すでにおわかりのことだろう。

 読者諸君とか言っちゃった。偉そう。めっちゃ偉そう。何様だ。
 すみません。ちょっと調子に乗りました。許してくだせぇ。お願いします。土下座しますから。
 うーん。足が痺れた。親指を重ね合わせてモゾモゾするといいって本当? 都市伝説? いやそれ土下座じゃなくて正座じゃん。

 話を戻そう。

 この国の最大権力。それは神殿長にあった。
 女神教は国教であり、国外の大陸を統べていたわけではない。
 だが聖職叙任権は国王にはなく、完全に神殿長が把持していた。

 その上、ちょっとでも神殿に気に入らない政策を王家が取ろうものなら――ちなみに一応は中央集権化された絶対君主制である――「きみきみ、破門しちゃうよ?」と脅される。けっこう露骨。
 そうなれば王は三回まわってワンと鳴くのである。屈辱。

 そういえば悪友の地球人から、似たような話を聞いた。カノッサの屈辱。あんな感じになったらたまらない。
 雪降る中、裸足で断食に祈祷って、それはもうツラたん。ツラみの極み。

 そんなわけで、この国の王太子とメイベルの婚約は、神殿側が本格的な王家掌握に向けて、第一歩を踏み出したというわけだ。

 これまでなぜ王家主軸とプレナ家主軸との婚姻関係が結ばれなかったか。
 それはこの国が小国であったため、国内で争っている余裕はなかったからだ。
 内部でゴチャゴチャしている隙に攻め込まれたら最悪である。王家掌握どころの話じゃない。国そのものがなくなっちゃうもんね。
 ひいては女神教も解体され、国民はすべて改宗させられるだろう。

 神殿関係者がどうなるかなんて、想像するだに恐ろしい。
 邪教だの悪魔崇拝だの。迫害だの弾劾だの。
 追放で済めばいいけど、火炙りにされちゃうかも。おそろしや。
 なんたって女神教は、この国独自の宗教で、他国の人間はまったくもって全然信仰していない。

 そんな状態でどうして神殿がそこまで権力を有していたのか。
 うん。そこはスルーしてほしい。
 国民のほとんどが狂信者だったんだよ。きっと。そんなかんじ。

 そういった経緯で、神殿側は王家がせっせと他国との繋がりを結び、外交によって国を安定させていくのを生ぬるく見守っていた。
 王家が力を持ちすぎないよう、ところどころで茶々を入れながら。うわぁ。すげぇ厭らしい。

 そして悪魔が来りて笛を吹く。時は満ちた。
 そういうことだった。

 めちゃくちゃ政略的な婚約だった。
 王家は承諾せざるをえなかった。やっぱり屈辱。
 そんなの王子がメイベルに悪感情を持つのは当然じゃん?

 だがしかし、王子はメイベルを気に入り、メイベルもまた王子を気に入った。
 王子は少し気弱なお坊ちゃん。素直で穏やかな気質だった。
 メイベルはちょっとばかりエキセントリックなお嬢ちゃん。素直で朗らかな気質だった。
 幼い婚約者二人は、二人して逆境に負けない真っ直ぐさがあった。

 よかったじゃん。平和だ。

 そう。平和だったのだ。
 アナキン・スカイウォーカー――じゃなかった。アナベル・プレナが現れるまでは。


「お姉様ばっかりズルいわ。私だって王子様と結婚したい!」


 こうして役者はそろったのである。


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