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6 アイ・アム・ユア・ファーザー……?
しおりを挟むメイベルの母親が亡くなって喪が明けるのも待たず、葬儀の翌日に父親が屋敷に招いたのは、愛人とその子供。
両親は典型的な政略結婚で、愛はなく、互いに愛人を抱えていた。
父親は婚姻前から関係のあった身分の低い女を愛人として囲い、愛人との間にはメイベルと一つと年の変わらない娘を儲けていた。
母親は父親とは異なり、一人を愛人として長く扱うのではなく、その相手は日ごとに替わると陰口を叩かれるほど。
肺結核によって亡くなったものの、梅毒に侵されていたのだなどと死した後も揶揄される始末。
そんな不埒な女の娘だと、メイベルもまた色眼鏡で見られてきた。
噂好きの社交界から。道徳を重んじる保守的な面々から。そして血を分けた父親からも。
それだから、正式な婚姻を為せない程に身分の低い愛人と、その娘。二人を父親が屋敷に入れても、非難の声は上がらなかった。
「いえ。アタシとしても、王子(クズ)と妹(クズ・パートツー)がまとまることには、おめでたいばっかりで、なんら異論はないんですけど」
「大ありだよ」
王子は露骨に表情を歪めた。めちゃくちゃ嫌そう。
メイベルの前では普段、天使のような顔を崩さない王子の、嫌悪と侮蔑の浮かんだ歪みきった顔つき。メイベルの胸はトゥンクと高鳴った。
あらやだ悪役っぽい殿下も素敵ね。あばたもえくぼである。
王子はメイベルにニッコリと微笑みかけ、表情を取り繕ったあと、顎に手を当て思案し始めた。
「メイベルの妹の、ええと、なんだっけな……アナキンだっけ……?」
いやいや。待って待って。メイベルの妹はアナベルであってアナキンじゃない。
なんなの、そのダークサイドに墜ちたジェダイ、後の暗黒卿みたいな名前。シュコーシュコーって息してそう。
「アイ・アム・ユア・ファーザー……?」
おそるおそる問いかけるメイベル。今の世代で元ネタ知ってる子っているのかな。
だがサラはチッチッチッと指を振った。
「いえ、アタシとしては『穴金』ですね。元ネタは『穴』に『金タマ』っていう――」
王子が慌ててサラの口をふさいだ。何を言い出すんだコイツ。
そもそも『アナベル』の名前が、どうやったら『穴金』になるんだ。
サラと王子が目を合わせる。王子の手がゆるんだその隙をついて、サラが王子から離れる。
王子の「待てこら!」という制止の声を振り切り、サラはメイベルの背後に回り、メイベルの両肩に手を載せた。
「だってホラ、『ベル→鐘→金』っていう。ねっ!」
ねっ! じゃない。
「コホン。まあアナキンの名前はいいとして」
だからアナキンじゃないって。
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