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5 クソはお前だクソ女!

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 そもそもキャンベル家は昔から王家に不敬だった。

 そもそも王家の青い血が途絶えたのはキャンベル家のせい。
 あの極悪魔女、姦婦ナタリー・キャンベルが国王を誑かしたせいで、十一代国王が臍を曲げて純血主義を厭い、愚かな男の八つ当たりで他国の血を混ぜるようになって、純然たる王族特有の青い血が発現しなくなった。
 もはや王家に青い血が発現しないどころか、臣下である貴族達より薄い始末。

 全てはキャンベル家のせい。
 ネモフィラがユーフラテスの嫁に素直にならないのも、キャンベル家のせい。

 逃げ出したネモフィラ絶対許さん。地の果てまで追いかけてやる!

 キャンベル家ぶっ潰して……やりたいけど武力ありすぎてぶっ潰そうとしたら隣国に寝返っちゃうか、もしくは隣国への防壁がなくなっちゃって、ぶっ潰せないから、とりあえず魔女ナタリー・キャンベル探しとこ。そうしとこ。
 なんかまだ生きてるって噂あるし。

 そういうわけでユーフラテスは約百五十年前の魔女ナタリー・キャンベルの暮らすボロ屋を探し出し、見つけるなり躊躇なく襲撃した。
 なんという八つ当たり。これは理不尽。

 ナタリーには共に暮らす家族が三人居た。

 第十一代国王レオンハルトの生まれ変わりであり、今は医者もどきの平民レオン。
 こいつはレオンハルト元国王陛下の生まれ変わりであることを納得していない。ナタリーの恋人ではない。

 次にレオンハルト元国王陛下とナタリーの間の子、リナ九歳。
 なぜ約百五十年前の子供が今まだ九歳なのかは色々事情があるのだが、ユーフラテスには関係のないことなので、放っておく。
 ちなみにこの子がネモフィラの言う、「乙女ゲーム」の「ヒロイン」である。
 さてユーフラテスは、九歳のヒロインと、ある意味運命的な出会いを果たしたわけだ。

 恋に落ちたか?! ユーフラテス!

 ――まぁ、落ちない。当然ながら、恋に落ちない。
 なんたって相手は九歳だもの。
 ユーフラテスは十八歳だもの。
 ロリコンじゃないのだもの。
 ユーフラテスとヒロインの関係は、シンプルに加害者と被害者の関係。

 それからレオンの――第十一代国王陛下ではなく医者もどきの方――血の繋がらない弟、ジャック十歳。
 実はこの子もめんどくさい前世絡みの事情があったりするのだが、今のところユーフラテスには関係がないので、これまた捨て置く。

 まぁそんな感じで、ちょっぴり複雑な疑似家族として幸せに平和に暮らしていた。

 そこを突然わけのわからない理由でわけのわからないやつが襲撃してきたのである。
 これはレオンもリナもジャックもめっちゃ怒っていい。
 ナタリーはもちろん怒った。大激怒だ。

 捕らえられたナタリーは、反撃の機会を虎視眈々と狙っていた。
 他三人は子供二人と大人一人に分かれて逃げ、再会を待った。

 しかしそんなことは知らないユーフラテスは調子に乗った。

 ――よっしゃナタリー捕まえた!
 王家から奪った青い血の能力吸い取ってやる!

 しかし能力の扱い方など、青い血が薄れて久しい王家には遠の昔にその指南書も失われている。

 ナタリーを捕らえて三年ほどは、ナタリーの身の内にある青い血の力をどうにか引き出せないかとあれこれ奮闘した。

 王侯貴族に従おうとしない自由気ままな魔術師に対し、百五十年前の魔女がいるという彼らの知的好奇心、探究心をくすぐって収集をかけてみたり。
 そうして集まった彼らに、ナタリーの能力の解析を頼み、最終的にはナタリーの全能力を奪い王家に青い血を復興させることを目論んだり。

 しかしそれらは一つも叶うことはなかった。

 ユーフラテスは考えた。
 青い血そのものを抜いてみようか! と。

 抜いた血をその後どうするつもりだったのか、それはユーフラテスに尋ねたところで答えは返ってこなかっただろう。
 おそらく何も考えていない。

 ――体から血を抜けばいいか。

 あれ、ナタリー・キャンベルの体がみるみる若返っていく……おや?
 血を抜いて力を奪うはずが……うおおおおお殺られてしまう!
 むしろナタリー・キャンベルさん、戦闘力あがっちゃいましたね。参ったなこりゃハッハッハ。

 ユーフラテス完敗である。

 奇襲をかけ捕らえたはずのナタリーの反撃を受け、ボコボコにされた。容赦なく。
 まあ当然である。

 ナタリーにボコボコにされ、好きな女の子には優しくしなさい、意地はってないで素直に愛の告白しなさいと説教され、ユーフラテスは渋々の体でネモフィラを迎えに行った。

 説教で済ますなんてナタリー優しい。
 ユーフラテスが昔の恋人レオンハルトの子孫で、そのユーフラテスの婚約者がナタリーの子孫だから温情をかけたわけだが。

 ちなみに既に自由の身、ナタリーは高見の見物である。

 こっそり上空からバカ王子とバカ辺境伯令嬢――ナタリーの子孫である――の様子と、またそんな茶番劇より何より愛おしい子供たちの成長した懐かしい姿を眺めていた。
 これはまた別のお話し。



 さてそうしてネモフィラを迎えに行ったユーフラテスの前で、ネモフィラは乙女ゲームのヒロインと何やら対話をしていた。


 そしたらネモフィラのアホが、ユーフラテスのことクソって言ってる!

 クソはお前だクソ女!


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