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閑話3 狂王に惨殺された異母兄二人と死戦神が憑いてる王太子は早く帰りたい。
2 フリズスキャールヴ王国の好色王子と呼ばれる俺と、ゲルプ王国の好色王子
しおりを挟む俺は今、ゲルプ王国王太子、リヒャード殿下の応接室に、客人として座っているのである。
ゲルプ王国第一王女、エーベル様の婚約者として、ゲルプ王国に招かれたからだ。
「『贄』とな。懐かしい単語が聞こえたな」
そう言って艶やかに微笑んだのは、リヒャード殿下の妃、バチルダ様だ。彼女は神聖アース帝国の皇女でもある。
「のう、リヒャード。わらわは聖女の名を返上して久しいが、しかし」
「ああ。彼が『そう』なのだったな」
バチルダ様の目くばせに、リヒャード殿下は厳めしい顔つきで頷いた。
リヒャード殿下は、どことなく、亡くなった俺の兄上その二――生前は第一王子で王太子だった――を思い起こさせる。
まぁ、ガッチガチに堅苦しいリヒャード殿下よりも、兄上の方がずっと親しみやすいが。
「えっ? なになに? どゆこと? 兄貴とバッチーだけで解決しちゃうの、ずるいっ! 俺にも教えてっ!」
軽薄――ゴホンゴホン。気安い様子で口を開いたのは、ゲルプ王国第二王子、コーエン殿下。
我が婚約者エーベル様の双子の弟でもある。そして好色王子などという不名誉な俗称を世間からつけられている方でもある。俺と同じく。
真実はきっと違うのだろう。俺と同じく。
コーエン殿下もまた、どことなく、亡くなった俺の兄上その一――生前は第二王子だった――を思い起こさせる。
彼はほとんど兄上とキャラが被っている。
「コーエン、あんたもうちょっと落ち着きなって」
呆れ顔を隠さず、またお高くとまったそこいらの王女とは格が違う、優しさ気さくさを見せるのは、我が婚約者エーベル様。
とても可愛い。とても美しい。とても素敵。
オーディン神のせいで、俺の下半身が不埒であるとエーベル様に疑われているらしいと聞いたときは、泣いた。
必死に手紙で否定した。疑いは晴らせていないようだった。泣いた。
「いえ、しかし姉上。僕も気になります」
もじもじと口を開いたのは、ゲルプ王国第三王子、バルドゥール殿下。
俺と同じ年の生まれだそうだ。キャラは俺と被っていない。
ものすごくキラキラしている。絵本の中の王子様といえば、こういう姿だろうといったような。
「バルドゥール……。うむ、そなたの名に関連のあることじゃな」
バチルダ様がニヤリと笑った。
『そうそ! まさしくバルドゥールよな。我に代わって地上を見守っていたのは、我が息子、バルドゥールである!』
オーディン神がこの場の誰の耳にも聞こえない声で叫んだ。
……いや? 一人だけ不審そうに目を細めて、俺の頭上を睨んでいる人間がいるな。
「あのさぁ。ヴォーダン殿下。もしかして、な~んか隠してること、ない?」
コーエン第二王子殿下だ。
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