【完結】好色王子の悪巧みは魔女とともに

空原海

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閑話3 狂王に惨殺された異母兄二人と死戦神が憑いてる王太子は早く帰りたい。

1 高座の意味

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 小国フリズスキャールヴ。その国名に、全世界を見渡すことのできる高座、という非常に不遜な意を持つこの小国は、荒れに荒れていた。



 ことの始まりは、クソみたいな国王が正妃を軽んじて側妃にうつつをぬかしたことに始まる。

 しばらくそれを静観していた正妃であったが、やがて国王は側妃の生家の傀儡と成り果てた。その行く末を危惧した正妃一派は密かに側妃とその生家に沙汰を下そうとする。が、すんでのところで側妃勢力に情報が漏れ、正妃一派が粛清されることとなった。

 首の皮一枚で逃げおおせた正妃であったが、やはり国の行く末を嘆き、ついには自身の魂を犠牲に悪魔と契約を交わし、身を堕とす覚悟を決めた。国王を玉座から引きずり下ろし、息子の王太子たる第一王子をその座に座らせんと。

 が、しかしどんなにクソでも国王は即位したその日から、この国の守護神に魔の手から守られる。どんなにクソでも。
 守護神よ、もうちょっとちゃんと国を見てくれ。できれば導いてくれ。国を護る神なんだろ。なにしてんだ。

 そんなこんなで頼りにならない守護神に見切りをつけた正妃は、国王の命が無理ならばと。国王の心を惑わす側妃の命を奪うよう悪魔に願った。

 そしてそれは叶えられた。側妃は死んだ。

 だが正妃の魂一つだけでは側妃の生家、その一族郎党を壊滅させるに足らぬと悪魔は死にゆく正妃を嘲笑い、非情に切り捨てる。

 膿を出し切るに至らなかったため、正妃の息子であった第一王子、第二王子は代わりに、正妃が契りを交わしたのとはまた別の悪魔に、その魂を売ることで事を収めようとした。
 というのも、寵愛していた側妃を喪い、怒り狂い復讐に身を落とした国王が、正妃の目の前で自身の血を分けた息子である第一王子と第二王子をなぶり殺せんとしたのだ。ならば、ただいたずらに命を散らすよりは。
 その魂が地獄に落ちようとも国を救うため、死の間際で悪魔に高潔なその魂を捧げることにしたのである。

 どうせ諸悪の根源たる現国王は、全てが終われば玉座から引きずりおろされるは自明の理。ならば腐った貴族達の粛清を。


 決意を固めた二人の王子は蹂躙された。


 そして結果、死んだ二人の王子は側妃腹の弟王子に取り憑いたのである。大陸の唯一神と謳われるオーディンと共に。



 ……ん?
 ちょっと待てよ。
 大陸の唯一神?
 唯一だっつってんのに、なんでこの国、守護神がいるの?
 それは、フリズスキャールヴという国名にヒントがあったりする。

 まぁ、そもそも神はオーディン神以外にも存在するんだけどな。

 オーディン神を大陸唯一神と定める、神聖宗教国、神聖アース帝国。オーディン神教総本山であり、大陸にある数多の小国の宗主国である。
 その帝国側の政治的思惑、利権ってやつで。他の神は大陸において神の地位を認められてないってだけで。
 実際、神はウジャウジャいる。らしい。

 それはおいといて。

 この国だけ、守護神と命名するのを帝国に黙認されてきた理由。それは。


『実際、この国の守護神って眠ってたわれだもんネ』


 もとは第三王子であった王太子ヴォーダン――つまるところ、俺に取り憑いて幾星霜いくせいそう。オーディン神の口調は、下界に毒されまくっていた。
 もとから神とは思えないほどチャラかったけどな。


『なーるぅー。クソの役にも立たなかったウチの国の守護神ってつまり、オーディン様の新たな器? で、本体になるオーディン様は眠りについてたから、この国の危機にぜーんぜん気が付かなかったってわけ!』

『そゆこと。なんじ、話わかるジャン! でもクソの役にも立たないは言い過ぎジャン!』

『アッハハ! そりゃ、しゃーない! だって俺ら、オーディン様が無能なせいで殺されちゃったし!』

『無能言うなって。器に我の魂は入ってないけど、若い神としての体裁はとりあえず整えてあったのよ。それっぽく神らしく、器が仕事してたって』

『えー。でも国が乱れまくったよ? あれで守護神って、やっぱクソの役にも立ってなくね?』

『だってコレ、筋書通りだからさぁ。汝らが殺されて、我がヴォーダンの肉体に入って、力を蓄えたら器に入って復活する。予定調和なのヨ』

『うわっ! オーディン様、ヒッデェ~! 鬼畜!』

『いやいや、これは我が企てたんじゃなくてさぁ……』


 魂のみであるため姿は見えないが、オーディン様と兄上そのいち――といっても、第二王子の方なので、その二と言った方がいいかもしれない――が、指パッチンしたり、ウィンクしつつのベロ出し指バキュンのような、とてつもなく鬱陶しい様子で会話しているイメージが頭に浮かぶ。

 もう一度言う。
 とてつもなく鬱陶しい。

 助け舟を出すように、兄上その二――こちらが第一王子なので、その一だろうか――が口を挟む。


『なるほど。我が国の名は、フリズスキャールヴ。オーディン様が全世界を眺めるための高座がその名の由来でしたね。つまり我が国こそ、オーディン様が地上を見守るための拠り所であったと』

『ん-。まぁそんなとこカナ。拠り所って言われちゃうと、ちょっと違うかもしんないけど』


 再度確認しよう。
 この、あまりにいい加減でチャランポランな台詞を発しているのは、大陸唯一神オーディンである。
 肉体に響き渡る偉大なる神の声でもって、なされているのである。


『あれっ? じゃぁさ、じゃぁさ。オーディン様不在なのに、神聖アース帝国って、なにしてんの? あそこ、総本山だよね? しかもなんかさ、オーディン様の使徒だって言い張ってる聖人がいるらしいじゃん』

『ウンウン、帝国女系皇族のことだネ。あの子達は我の贄なんだよね!』

「贄だと!」


 聞き捨てならない言葉が耳に入り、思わず叫び、立ち上がった。
 視線が一気に集まった。つらい。


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