【完結】好色王子の悪巧みは魔女とともに

空原海

文字の大きさ
上 下
43 / 45
閑話3 狂王に惨殺された異母兄二人と死戦神が憑いてる王太子は早く帰りたい。

1 高座の意味

しおりを挟む



 小国フリズスキャールヴ。その国名に、全世界を見渡すことのできる高座、という非常に不遜な意を持つこの小国は、荒れに荒れていた。



 ことの始まりは、クソみたいな国王が正妃を軽んじて側妃にうつつをぬかしたことに始まる。

 しばらくそれを静観していた正妃であったが、やがて国王は側妃の生家の傀儡と成り果てた。その行く末を危惧した正妃一派は密かに側妃とその生家に沙汰を下そうとする。が、すんでのところで側妃勢力に情報が漏れ、正妃一派が粛清されることとなった。

 首の皮一枚で逃げおおせた正妃であったが、やはり国の行く末を嘆き、ついには自身の魂を犠牲に悪魔と契約を交わし、身を堕とす覚悟を決めた。国王を玉座から引きずり下ろし、息子の王太子たる第一王子をその座に座らせんと。

 が、しかしどんなにクソでも国王は即位したその日から、この国の守護神に魔の手から守られる。どんなにクソでも。
 守護神よ、もうちょっとちゃんと国を見てくれ。できれば導いてくれ。国を護る神なんだろ。なにしてんだ。

 そんなこんなで頼りにならない守護神に見切りをつけた正妃は、国王の命が無理ならばと。国王の心を惑わす側妃の命を奪うよう悪魔に願った。

 そしてそれは叶えられた。側妃は死んだ。

 だが正妃の魂一つだけでは側妃の生家、その一族郎党を壊滅させるに足らぬと悪魔は死にゆく正妃を嘲笑い、非情に切り捨てる。

 膿を出し切るに至らなかったため、正妃の息子であった第一王子、第二王子は代わりに、正妃が契りを交わしたのとはまた別の悪魔に、その魂を売ることで事を収めようとした。
 というのも、寵愛していた側妃を喪い、怒り狂い復讐に身を落とした国王が、正妃の目の前で自身の血を分けた息子である第一王子と第二王子をなぶり殺せんとしたのだ。ならば、ただいたずらに命を散らすよりは。
 その魂が地獄に落ちようとも国を救うため、死の間際で悪魔に高潔なその魂を捧げることにしたのである。

 どうせ諸悪の根源たる現国王は、全てが終われば玉座から引きずりおろされるは自明の理。ならば腐った貴族達の粛清を。


 決意を固めた二人の王子は蹂躙された。


 そして結果、死んだ二人の王子は側妃腹の弟王子に取り憑いたのである。大陸の唯一神と謳われるオーディンと共に。



 ……ん?
 ちょっと待てよ。
 大陸の唯一神?
 唯一だっつってんのに、なんでこの国、守護神がいるの?
 それは、フリズスキャールヴという国名にヒントがあったりする。

 まぁ、そもそも神はオーディン神以外にも存在するんだけどな。

 オーディン神を大陸唯一神と定める、神聖宗教国、神聖アース帝国。オーディン神教総本山であり、大陸にある数多の小国の宗主国である。
 その帝国側の政治的思惑、利権ってやつで。他の神は大陸において神の地位を認められてないってだけで。
 実際、神はウジャウジャいる。らしい。

 それはおいといて。

 この国だけ、守護神と命名するのを帝国に黙認されてきた理由。それは。


『実際、この国の守護神って眠ってたわれだもんネ』


 もとは第三王子であった王太子ヴォーダン――つまるところ、俺に取り憑いて幾星霜いくせいそう。オーディン神の口調は、下界に毒されまくっていた。
 もとから神とは思えないほどチャラかったけどな。


『なーるぅー。クソの役にも立たなかったウチの国の守護神ってつまり、オーディン様の新たな器? で、本体になるオーディン様は眠りについてたから、この国の危機にぜーんぜん気が付かなかったってわけ!』

『そゆこと。なんじ、話わかるジャン! でもクソの役にも立たないは言い過ぎジャン!』

『アッハハ! そりゃ、しゃーない! だって俺ら、オーディン様が無能なせいで殺されちゃったし!』

『無能言うなって。器に我の魂は入ってないけど、若い神としての体裁はとりあえず整えてあったのよ。それっぽく神らしく、器が仕事してたって』

『えー。でも国が乱れまくったよ? あれで守護神って、やっぱクソの役にも立ってなくね?』

『だってコレ、筋書通りだからさぁ。汝らが殺されて、我がヴォーダンの肉体に入って、力を蓄えたら器に入って復活する。予定調和なのヨ』

『うわっ! オーディン様、ヒッデェ~! 鬼畜!』

『いやいや、これは我が企てたんじゃなくてさぁ……』


 魂のみであるため姿は見えないが、オーディン様と兄上そのいち――といっても、第二王子の方なので、その二と言った方がいいかもしれない――が、指パッチンしたり、ウィンクしつつのベロ出し指バキュンのような、とてつもなく鬱陶しい様子で会話しているイメージが頭に浮かぶ。

 もう一度言う。
 とてつもなく鬱陶しい。

 助け舟を出すように、兄上その二――こちらが第一王子なので、その一だろうか――が口を挟む。


『なるほど。我が国の名は、フリズスキャールヴ。オーディン様が全世界を眺めるための高座がその名の由来でしたね。つまり我が国こそ、オーディン様が地上を見守るための拠り所であったと』

『ん-。まぁそんなとこカナ。拠り所って言われちゃうと、ちょっと違うかもしんないけど』


 再度確認しよう。
 この、あまりにいい加減でチャランポランな台詞を発しているのは、大陸唯一神オーディンである。
 肉体に響き渡る偉大なる神の声でもって、なされているのである。


『あれっ? じゃぁさ、じゃぁさ。オーディン様不在なのに、神聖アース帝国って、なにしてんの? あそこ、総本山だよね? しかもなんかさ、オーディン様の使徒だって言い張ってる聖人がいるらしいじゃん』

『ウンウン、帝国女系皇族のことだネ。あの子達は我の贄なんだよね!』

「贄だと!」


 聞き捨てならない言葉が耳に入り、思わず叫び、立ち上がった。
 視線が一気に集まった。つらい。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの瞳に映る花火 〜異世界恋愛短編集〜

恋愛
中世ヨーロッパ風の架空の国で起こるヒストリカルラブロマンス。恋愛以外のジャンルもあります。 ほのぼの系、婚約破棄、姉妹格差、ワガママ義妹、職業ものなど、様々な物語を取り揃えております。 各作品繋がりがあったりします。 時系列はバラバラです。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙は結之志希様(@yuino_novel)からいただきました。

断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった

Blue
恋愛
 王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。 「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」 シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。 アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。

転生先は殺ル気の令嬢

豆狸
恋愛
私はだれかを殺ルのも、だれかに殺ラレルのも嫌なのです。

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

処理中です...