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閑話2 狂王に惨殺された異母兄二人と死戦神が憑いてる王太子は早く結婚したい。

3 早く結婚したい

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 俺の名ヴォーダンは、唯一神オーディンの別名だ。狂王であった父が命名した。
 そしてその名の由来は、生誕時に神官が余計な神託など下しやがったせいだ。俺が大陸における唯一神、オーディンの生まれ変わりだと。

 断じて、生まれ変わりではない。
 この国の守護神が、荒れ果てたこの国の惨状の始末に負えなくなって、死したオーディンの魂を無理やり俺の魂に刻み込んだだけ。完全なる後付けだ。

 そしてその神官は、そんなくだらない神託をしている余裕があったのなら、なぜ父が国を乱すことを予言しなかったのだ。
 国王に逆らえなかった?
 王におもねるしか能のない神官など百害あって一利なし。教会諸共滅んでしまえ。ついでにこの国の守護神も滅んでしまえ。



 しかしそんな忠臣や俺の思惑をよそに、頭上で第一王子、第二王子であった兄の亡霊が呑気に語らっている。


『うんうん。まぁ、酒と女と戦が男の夢かどうかはともかく。オーディン様がヴォーダンに代わって女遊びするのは、俺もさんせ~い! 女遊びする中で情報も抜けるし、もしかしたら人脈も築けるかも? うまくやらないと逆効果だし、王太子のやることじゃないけど。あはっ』

『確かに。女遊びの激しい王太子など、父を思えば不安でしかないな』

『そこはオーディン様、うまくやってねー』

『うむ。任された』

『あと俺らもこの国に行く末が気になるから、まだヴォーダンのそばで見守ってたい! まだ天上アスガルドには連れてかないでー。戦士の館ヴァルハラもノーセンキュー』

『そうだな。それにヴォーダンはまだ幼い。父も母も失い、後ろ盾も心許ないだろう。俺達が傍で見守ってやるからな』


 いや。一刻も早く、アスガルドに昇ってくれ。


『王太子としての心得については、王太のこの俺が直々に授けてやろうではないか』

『ぎゃは! 王太だって! 兄上ってば、お茶目!』

『ふふ。そうか? いやぁ。生きてる間はジョークも言えん政情だったからな。死してようやく生きた心地になったものだ』

『死んでるけどねー!』

『まさしく』


 くっだらねぇえええええええええええええ!


『あっ。あと側妃殿下の生家が裏で繋がっていた家ね。あれ、ゲルプ王国の公爵んとこもそうらしいよ?』

『ああ、そういえばあの悪魔ベルゼブブがほざいていたな。そのせいで母上と契った悪魔アスモデウスは我らの相手をしなかったようだが』

『って言っても、結局こうして契約破棄されちゃったけどねー。なんか死に損?』

『仕方あるまい。あの悪魔ベルゼブブもオーディン様と正面から衝突するわけにはいかなかったのだろう』

『ヴォーダンの中にオーディン様、入っちゃったもんねー』

『オーディン様の入ったヴォーダンを連座で処するなど、さすがに無理があるからな』

『馬鹿者。人間二人の魂を引き換えに、側妃一族郎党根絶やしに、など、そもそもあのベルゼブブ二枚舌が叶えるわけがなかろう。どうせ契約に抜け道があったはずだ。お前達は奸計に弄されたのだ』

『あっ。やっぱり? なんかおかしいと思ったんだよねー』

『まあ、駄目元だったからな。どうせ死ぬなら、程度のものでしかない』


 兄上方。生前よりずいぶんと朗らかですね。頭に花咲いてるんじゃないのか。いや。死んだら花も咲かないか。


『でもさ。その例のゲルプ王国の公爵家。なんでも第二王子の婚約者の生家だったっけ? あれ? ヤバくない? まだ側妃殿下生家一族の尻尾掴めてないのに』

『ゲルプ王国第二王子の伝手を頼られると、面倒なことになるな……』


 第二王子って。例のゲルプ王国の好色王子などと呼ばれている王子ではないか。
 しかもこの度婚約者となった第一王女エーベルの双子の弟王子。情緒の欠片もない奇天烈な詩を書いてよこす五歳年上の王女の、その双子の弟。

 まぁ、あの王女の詩はちょっと面白かった。荒み切った心がちょっと和む。
 しかしその双子の弟王子の婚約者が、死んだ側妃クソババア生家と繋がっているとは。これまた面倒なことこの上ない。

 あの側妃殿下クソババアの連座で、俺も粛清してくれればよかったのに。正妃殿下。どうして俺を見逃したのですか……。

 我が子同然に可愛がってくださった正妃殿下。憎い女の胎から生まれた俺に、兄上達へするのと変わらぬ慈愛を注いでくださった。あのお方がいてくださったからこそ、この国はなんとか体裁を保っていられたのに。


 ていうか、慕っていた家族が皆死んだのに、俺だけこのクソみたいな国で生き残れって、残酷です。正妃殿下。
 正妃殿下は悪魔にその魂を喰われ、二度とお目にかかることはできないし、兄上達はいずれアスガルドに昇ってしまう。

 ――俺も一緒に死にたかった。

 そんなことは、父に嬲り殺された兄上達の前で、王族の端くれとしても、一言だって言えやしないけど。



『案ずるな。お前達の母親の契った悪魔はその公爵家の没落に向けて動いている。とはいえ、悪魔は契約を結ばぬ限り、直に干渉はできぬ。ゆえにゲルプ王国第二王子に働きかけ、断罪するようだ。よってあれらは国外に逃れることは叶わぬ。国内にあるのならば、我の力の及ぶところ』


 それほど自慢げに語るのならば、今すぐあの腐った一族を粛正してくれ。


『しかし我も暇ではない。まずは女子と戯れてからだな……』


 マジで。死んで。


『まあよいではないか。これも汝が婚姻する迄のことである。許せよ』


 ああ、早く結婚したい。





(閑話 「狂王に惨殺された異母兄二人と死戦神が憑いてる王太子は早く結婚したい。」 了)
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