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閑話2 狂王に惨殺された異母兄二人と死戦神が憑いてる王太子は早く結婚したい。
1 高座からの景色
しおりを挟む小国フリズスキャールヴ。その国名に、全世界を見渡すことのできる高座、という非常に不遜な意を持つこの小国は、荒れに荒れていた。
ことの始まりは、クソみたいな国王が正妃を軽んじて側妃にうつつをぬかしたことに始まる。
しばらくそれを静観していた正妃であったが、やがて国王は側妃の生家の傀儡と成り果てた。その行く末を危惧した正妃一派は密かに側妃とその生家に沙汰を下そうとする。が、すんでのところで側妃勢力に情報が漏れ、正妃一派が粛清されることとなった。
首の皮一枚で逃げおおせた正妃であったが、やはり国の行く末を嘆き、ついには自身の魂を犠牲に悪魔と契約を交わし、身を堕とす覚悟を決めた。国王を玉座から引きずり下ろし、息子の王太子たる第一王子をその座に座らせんと。
が、しかしどんなにクソでも国王は即位したその日から、この国の守護神に魔の手から守られる。どんなにクソでも。
守護神よ、もうちょっとちゃんと国を見てくれ。できれば導いてくれ。国を護る神なんだろ。なにしてんだ。
そんなこんなで頼りにならない守護神に見切りをつけた正妃は、国王の命が無理ならばと。国王の心を惑わす側妃の命を奪うよう悪魔に願った。
そしてそれは叶えられた。側妃は死んだ。
だが正妃の魂一つだけでは側妃の生家、その一族郎党を壊滅させるに足らぬと悪魔は死にゆく正妃を嘲笑い、非情に切り捨てる。
膿を出し切るに至らなかったため、正妃の息子であった第一王子、第二王子は代わりに、正妃が契りを交わしたのとはまた別の悪魔に、その魂を売ることで事を収めようとした。
というのも、寵愛していた側妃を喪い、怒り狂い復讐に身を落とした国王が、正妃の目の前で自身の血を分けた息子である第一王子と第二王子を嬲り殺せんとしたのだ。ならば、ただ徒に命を散らすよりは。
その魂が地獄に落ちようとも国を救うため、死の間際で悪魔に高潔なその魂を捧げることにしたのである。
どうせ諸悪の根源たる現国王は、全てが終われば玉座から引きずりおろされるは自明の理。ならば腐った貴族達の粛清を。
決意を固めた二人の王子は蹂躙された。
爪を剥がれ、目玉を抉られ、鼻を削がれ、四肢を切り落とされ。
致命傷を避け、幾度も幾度も血まみれの肉塊へ剣を突き刺す国王。狂ったような哄笑をあげ、妻の前で息子を嬲る。その様はさながら悪魔のようであった。事実悪魔に魅入られたのは、国王の周囲の者達ではあったが。
『あんときゃ、マジで痛かったー! 死ぬかと思った』
『いや、死んだけどな』
『ぎゃはは! そうだった!』
うるさい。
黙れ。この死に損な…………っては、いないな。なんだろう。天に召され損ないか? いや、悪魔との契約途中で強引に契約破棄されたのだから、地獄に堕ち損ない? うん? いやでも悪魔は魂を喰らうんだよな? じゃあ魂の喰われ損ないか?
まあ、なんでもいい。とにかくうるさい。
このクソの役にも立たないバカ兄どもが。
面倒なこと全部俺に押しつけて、死んでいきやがって。クソが。
ついでに、しばらく目を離していた隙に王族が悪魔の手に堕ちて、自分では対処しきれなくなったからって、古代の神を俺の魂に捻じ込みやがったこの国の守護神。覚えてろよ。クソが。
加えて、久しぶりの生身だからと調子にのって、好き勝手にこっちの体のっとって、女くどいて回る大陸の唯一神とかいう下劣野郎も、もう一度死ね。クソが。
クソがクソがクソが!
大陸唯一神オーディンのせいで、俺がどう呼ばれているか!
「ゲルプ王国の好色王子コーエンに並び、フリズスキャールヴ王国の好色王子はヴォーダン王太子だな……」なんて言われているんだぞ。
義弟になるかもしれないゲルプ王国第二王子の実情は知らんが、好色王子だと! 女嫌いのこの俺が! 好色王子!
最も絶望したのは、「立太子なさる前までは、潔癖なお方でしたのに……。やはり血は争えませんね……」なんて、溜息まじりに諦念を浮かべた友人の顔だ。
なぜ! なぜだ! なぜ俺を信じない!
おまえは俺の乳兄弟だろう! 俺がどれほどあの父親を憎悪していたか。それはおまえが一番よく知っているじゃないか!
それは俺じゃない! 俺の体だが、それをしでかしたのは俺じゃない!
何が唯一神だ! マジで死ね! クソが!
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