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閑話1 耳年増王女の文通
1 喧嘩を売られました
しおりを挟むゲルプ王国第一王女エーベルは、神と悪魔の板挟みになる運命だった。
嫁ぎ先とされる国で起こった凄惨な事件。
それらの始まりは人間の業であったが、引き金を差し出し惑わせたのは旧き悪魔であり、撃たれた贄の周囲でおこぼれに集ったのは大悪魔に堕ちた蠅の王で、そしてまた贄となった魂を憐れみ憤ったのはまだ若い神だった。
しかしエーベルにしてみれば、そんな事情は知ったこっちゃないのである。
つまりこの度婚約者である彼の国の王太子殿から受け取った手紙について、目を通した瞬間、エーベルの口からもれたのは「はぁあ? 喧嘩売ってんの? こいつ」であった。
まず冒頭から酷い。
時候の挨拶も何もない。その上、突然の呼び捨てに突然の思想否定。しかも上から目線でこちらを嘲ってるときた。
オイコラ、お前は王太子かもしれないが、こちらとて王女なんたぞ。
国同士の力関係を鑑みても、国内荒れまくってるお前んとこより、裕福で安定してるゲルブ王国の方が大陸において絶対に発言力も軍事力もあるからな。
舐めとんのか。ああん?
『エーベルは庶子差別撤廃を目指しているそうですね?
でもね、人間ってそんなに綺麗なままじゃいられないんですよ。
だから規則で縛る必要がある。
我が国がゲルプ王国のように正妃を一人と定め、庶子に継承権を認めない国であったなら、正妃様は冤罪をきせられて不名誉な死を授かることもなかったし、兄上達も血の繋がった父親に惨殺されることはなかった。
エーベルの義姉殿も庶子の異母姉に長年立場を追われていたらしいじゃないですか。
ゲルプ王国がもし庶子に継承権を与えていたのなら、エーベルの義姉殿は今、生きておられたでしょうか?』
これである。
原文ママである。こうして見たら、宛名に差出人の名前すら書いてなかったわ。
ちなみにこれが婚約者として初めて交わした手紙だ。
なんなのこれ。これが婚約者同士の手紙なのか。
私生児、庶子の非嫡出子差別撤廃は確かに目指してはいるけど、正妃・側妃問題で複雑で凄惨な王族事情を背景に持つ婚約者に対して、無神経にも名乗りをあげた記憶はない。
『これからよろしくね』みたいな、当たり障りのない挨拶程度しか手紙に書いていない。
お前の複雑な生育環境には心中お察し申し上げますだが、察してチャン、構ってチャンでチラ見してくんじゃねぇよ。
あとヘクセはまだ義姉じゃないし、なんなら今も迫害されてるからな。それに関しては力及ばずでごめんなさい。
エーベルは手紙を放り投げ、椅子の背に凭れかかった。ぐでーっと腕を投げ出す。後ろで控える侍女がそんなエーベルの様子に「どーしたんですかぁー? 王子様からのお手紙ですよねー。お返事かえってきて、よかったですねー」とお気楽な声をかけてくる。
返事がかえってこないかもしれない、みたいな発言が気にかかるが、まぁいい。
「あたし、この王子様とうまくやってけんのかしら……」
ポツリとボヤくと、この部屋にいるはずのない人物の声がした。
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