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気難しいあの人をあっと驚かせるオーパーツを(令嬢視点)
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はっきり言って、彼はとても気難しい人だ。
家の意向で七歳の時に婚約を交わしてからというもの、誕生日の度に贈り物をした。
幼い頃は、わたくしが美しいと心震わせた宝を。
長じてからは、剣を振るう彼のために、新鮮な傷薬を。
わたくしは、恋い慕う彼の前にモジモジと進み出ては、頬を赤らめ、おずおずと手渡す。
けれども、わたくしの選んだ数々の贈り物のどれ一つとして、彼のしかめ面を崩すことはなく、彼の口からは「貴方の真心に感謝する」の一言。
だが、しかし。
「今年こそ! 殿下のお眼鏡に適う贈り物をするのですわ!」
「なんて健気なお嬢様!」
眩い光を放つ、精緻な彫刻を施された、大きな琥珀を頭上に翳し意気込むと、わたくしの背後に控えた侍女が力強く頷き返してくれた。
「ええ、今年こそよ。ああ、長かったわね……」
懇意の商人に探し求めさせた、二つとない貴重な工芸品。誰が目にしても、美しいと認める、一級の芸術品。
うっとりと物思いに耽っている間、わたくしの手から琥珀の彫刻が取り上げられ、侍女が手際よく箱詰めし、美しくリボンをかけた。
リボンはわたくしの瞳の色である琥珀色。
そう。
贈り物の琥珀は、わたくしの瞳の色でもある。
侍女は目元にハンカチを押し当て、「お嬢様のご健闘を祈っております」と送り出してくれた。
馬車の窓から屋敷を振り返れば、門の向こうで侍女が大きく手を振っていた。
本日はご生誕祭に先駆け、招いてくださったお茶会だ。
定例茶会においては、常は殿下の名の元に管理された庭園にて催されるのだが、毎年この日は、庭園ではなく、殿下の私室のうち、応接室に通される。
「お誕生日、誠におめでとうございます」
「ありがとう」
むっつりと不機嫌そうな殿下のお顔に怯みそうになるが、どうにか気を取り直す。
「殿下に贈り物を――」
「ああ」
言葉を遮られ、ぞんざいに手を振られる。
殿下の侍従が進み出て、「失礼致します」とわたくしの手から贈り物を受け取った。
「お前は下がれ」
「しかし――」
「案ずるな。私は大丈夫だ」
渋々といった体で退室した侍従を見送ると、殿下は無言でリボンに手をかけた。
箱を開ける一瞬、手が止まり、息を吸い込んでから開封する。
「こ、これは……!」
殿下の目が驚愕に見開かれる。
「喜んでいただけましたか!」
思わずズイと前のめりになると、殿下は額に手を当て「水晶髑髏……!」と唸った。
「ようやく、貴方からマトモなものを……!」
それきり殿下は咽び泣いた。
(以下ネタバレ補足)
美しいと心震わせた宝=玉虫
新鮮な傷薬=生きたカエル
誕生日の茶会が庭園で行われなくなったのは、令嬢が持ってくるプレゼントに、庭で控える多くの使用人達(特にメイド等の女使用人)が恐れ慄くことのないようにという殿下の気遣い。
そしてその様子を見られることによって、令嬢について、王族の婚約者に相応しくない突飛な令嬢であると流言が出回らないようにするため。
よくわからん虫やら何やらが放たれて庭園を台無しにされるのは困る、という庭師のクレームもあった。
イナゴも「佃煮にするとおいしいのですわ!」と言ってプレゼントしている。
家の意向で七歳の時に婚約を交わしてからというもの、誕生日の度に贈り物をした。
幼い頃は、わたくしが美しいと心震わせた宝を。
長じてからは、剣を振るう彼のために、新鮮な傷薬を。
わたくしは、恋い慕う彼の前にモジモジと進み出ては、頬を赤らめ、おずおずと手渡す。
けれども、わたくしの選んだ数々の贈り物のどれ一つとして、彼のしかめ面を崩すことはなく、彼の口からは「貴方の真心に感謝する」の一言。
だが、しかし。
「今年こそ! 殿下のお眼鏡に適う贈り物をするのですわ!」
「なんて健気なお嬢様!」
眩い光を放つ、精緻な彫刻を施された、大きな琥珀を頭上に翳し意気込むと、わたくしの背後に控えた侍女が力強く頷き返してくれた。
「ええ、今年こそよ。ああ、長かったわね……」
懇意の商人に探し求めさせた、二つとない貴重な工芸品。誰が目にしても、美しいと認める、一級の芸術品。
うっとりと物思いに耽っている間、わたくしの手から琥珀の彫刻が取り上げられ、侍女が手際よく箱詰めし、美しくリボンをかけた。
リボンはわたくしの瞳の色である琥珀色。
そう。
贈り物の琥珀は、わたくしの瞳の色でもある。
侍女は目元にハンカチを押し当て、「お嬢様のご健闘を祈っております」と送り出してくれた。
馬車の窓から屋敷を振り返れば、門の向こうで侍女が大きく手を振っていた。
本日はご生誕祭に先駆け、招いてくださったお茶会だ。
定例茶会においては、常は殿下の名の元に管理された庭園にて催されるのだが、毎年この日は、庭園ではなく、殿下の私室のうち、応接室に通される。
「お誕生日、誠におめでとうございます」
「ありがとう」
むっつりと不機嫌そうな殿下のお顔に怯みそうになるが、どうにか気を取り直す。
「殿下に贈り物を――」
「ああ」
言葉を遮られ、ぞんざいに手を振られる。
殿下の侍従が進み出て、「失礼致します」とわたくしの手から贈り物を受け取った。
「お前は下がれ」
「しかし――」
「案ずるな。私は大丈夫だ」
渋々といった体で退室した侍従を見送ると、殿下は無言でリボンに手をかけた。
箱を開ける一瞬、手が止まり、息を吸い込んでから開封する。
「こ、これは……!」
殿下の目が驚愕に見開かれる。
「喜んでいただけましたか!」
思わずズイと前のめりになると、殿下は額に手を当て「水晶髑髏……!」と唸った。
「ようやく、貴方からマトモなものを……!」
それきり殿下は咽び泣いた。
(以下ネタバレ補足)
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誕生日の茶会が庭園で行われなくなったのは、令嬢が持ってくるプレゼントに、庭で控える多くの使用人達(特にメイド等の女使用人)が恐れ慄くことのないようにという殿下の気遣い。
そしてその様子を見られることによって、令嬢について、王族の婚約者に相応しくない突飛な令嬢であると流言が出回らないようにするため。
よくわからん虫やら何やらが放たれて庭園を台無しにされるのは困る、という庭師のクレームもあった。
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