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7 説明のつかない二人
しおりを挟むハロルドはリナがもしかしたらジャックを想い続けるのをやめようと、はっきり今日諦めるために、こんな茶番を演じているのではないかと思った。そう考えなくては、なにもかもが奇妙でつじつまが合わないのだ。
ジャックとリナがなんと言おうと、リナはずっとジャックを目で追っていた。痛めつけられたような傷ついた瞳でジャックを見ては、寂しそうに微笑んでいた。
そうだ。もちろん、ハロルドはわかっていたのだ。
リナの自分を見つめるうっとりした瞳が、ただの憧れにすぎなかったことを。
「ハロルド様のおっしゃりたいことは、なんとなくわかるわ」
ハロルドは頷いた。やはりリナはジャックの手前、そういうフリを演じただけなのだ。
「でもね、それを言うならハロルド様の今日の行動だって説明がつかないと思うわ」
「それはどういう……?」
リナは少し顔を赤らめて、もごもごと口ごもった。赤い顔のまま、しかし決意した瞳でハロルドを見た。
「あなたはナタリーが好きだったはずなのに、いいえ、今だってそうよ。それなのに、あなたが怒った理由はナタリーじゃなかったんだもの」
「それは……」
ハロルドは反論しかけて止まった。
確かにそうだ。同じく片思いに悩む者としての同調、同情、怒り、哀しみ。それだけではあれほど我を忘れるほど、この自分が怒り狂うなどおかしい。誰にも知られるはずのなかった己の秘密すら知っている、この憎々しいまでに賢い少女が相手で。言うなれば仲間というより、ハロルドにとってリナは弱みを握られた油断ならない敵のようなものだ。
それにリナは自分よりずっと強く賢い女で、そのリナをかばったり同情するなど、むしろマヌケな道化者になるばかりだということをハロルドはよくわかっている。
「ああ……たしかに」
ハロルドは疲れたように大きく息を吐き、唸った。キャンベル家の者としてあるべき姿…はもう、ここまで貧相な姿を露わにされたリナの前では、滑稽でしかないと乱暴に腕と足まで放り出した。
まぶたを閉じたハロルドは、空気が僅かに揺れるのを感じて、リナが笑ったのだと知った。しかしそれほど悪い気はしなかった。
「それにしても、どうやってジャックを懲らしめてやろうかしら。執念深いですって? まったく……。私がどれほどヒドイ目に遭い続けてきてるのか、わかっているのかしら」
ハロルドはリナの言葉にどきりとしたが、何も答えなかった。
リナはもちろん、ハロルドに聞かせるようにひとりごちているのだろうが、それはハロルドをどきりとさせるくらいの意地悪で許そう、ということなのだ。
ハロルドはますます居心地悪く、この恐ろしいほど執念深く頭の切れる、そして寛大な少女に勝ち目はないとリナに背を向けた。
リナがハロルドの顔からずり落ちたタオルを拾って、水の張った盥にもう一度浸し、絞った。
(了)
◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました!
今作は他サイトでシリーズ展開している作品のひとつです。
リナとハロルドのお互い無関心な初対面は「【完結済】ツンデレ属性、俺様傲慢王子は悪役令嬢をつかまえたい!」で果たしています。
こちらも併せてご覧いただけると嬉しいです。
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