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第四話 シャルロッテの当惑

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 シャルロッテは婚約者であるフレデリックが、いつからか自分を蔑んだ目で見てくるようになったことに気が付いた。
 幼いときに婚約が決まり、離れた国に住まうため、そう頻繁に会うことは叶わなかったが、手紙や贈り物を欠かさず、たまの逢瀬では心からの思慕をフレデリックに伝え、誠心誠意、婚約者として相応しくあるよう努めていた。
 婚約当初は、フレデリックもシャルロッテに好意を向けていた。
 シャルロッテが微笑みかければ、フレデリックも嬉しそうに笑い、シャルロッテに手を差し出し、手を繋いで歩いたこともあるし、シャルロッテが別れを惜しんで目に涙を滲ませると、フレデリックは「また手紙を書くよ」と言って、それから恥ずかしそうにシャルロッテの頬に口づけをした。

「早く君が僕の国へ嫁いできてくれればいいのに」

 そう言っていた。

 シャルロッテは幼い恋心を大切に育てていた。
 年に一度か二度、たまに会えるのを待ちわびて、会えない日はある日の婚約者の姿を胸に、いつか隣に立つ時、相応しくあろうと努力し、会えた日には恋心を隠すことなく正直に、しかし恥ずかしそうに精一杯愛の言葉を紡ぐ。

 何がいけなかったのだろう、とシャルロッテは悩んだ。
 王太子であるフレデリックに相応しくあるよう努めているつもりだったが、フレデリックの目からは、年下のシャルロッテは将来の王妃に相応しい教養がまだ身についていないように見えたのかもしれない。
 帝国と王国では、習慣も礼儀作法も異なることがある。王国の作法ではみっともないと見なされる何かをしてしまったのかもしれない。
 あるいは隠すことなく伝えていた思慕が、女の身でふしだらでいやらしく思われたのかもしれない。
 シャルロッテは離れているからこそ、素直に伝えなければ、すれ違ってしまうと考え、恥ずかしい気持ちを飲み込み、精一杯愛を伝えていたが、それがはしたないと言われれば、確かにありのまま剝き出しの好意をぶつけるのは、淑女らしくない。
 それがフレデリックの気に障ったのだろうか。

 シャルロッテはフレデリックを慕っていた。
 政略結婚ではあるけれど、愛し愛され、互いに尊重しあう。そんな婚姻関係を築きたいと願っていた。
 夫となる王太子を王太子妃として公私ともに支え、いずれ国王となったときは王妃として隣に立つに相応しくあろう、それから夫が公務から離れたときは、妻として寄り添い、疲れを癒し、喜びも悲しみも共に分かち合う。そんな未来を夢見ていた。
 しかしその思いをそのままにフレデリックに訴えることは、皇女としてはしたないというのなら、フレデリックの望むように振舞おうと、シャルロッテは婚約者としての距離を少し遠くに置くことにし、礼儀作法に則り、皇族らしく王国王太子に接することにした。

 フレデリックはシャルロッテをますます疎んじるようになった。
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