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第一章 聖女の祝福
第五話 第三王子殿
しおりを挟む「ぼくはっ。第三王子、バルドゥール・プリンツ・フォン・ゲルプ=ジっツィーリエンと申しますっ」
翌朝を迎え、朝食を終えると第三王子殿と顔合わせをすることとなった。昨夜の晩餐会には、まだ幼いということで、彼は席につかなかったのだ。
元気いっぱいに挨拶する幼児の瞳は、きらきらとしていて眩しい。まさに光の尊き存在の名にふさわしい。
「丁寧な挨拶に感謝する。わらわは神聖アース帝国第二皇女、バチルダ・ファルツ・プリンツェッシン・フォン・ユグドラシルである」
「ファルツ皇女殿下?」
いとけない第三王子殿が小首を傾げると、その輝かしい黄金の巻毛が窓から差し込む光を弾いた。
「うむ。ファルツ皇女はもう一人、姉もいるからな。バチルダでよいぞ」
「それじゃあ、ぼくもバルって呼んでください。バチルダ皇女殿下!」
「ふふふ。そのように可愛くねだられては、否とは言えぬ。よろしくな、バル」
「はいっ!」
バルの隣に立つ婚約者殿は、自身と同じ色の柔かそうな髪をなでた。バルは婚約者殿を見上げ、きらきらとした目に朗らかな笑顔を向ける。
「兄上もっ! ご婚約なされたのでしょう? 兄上もバチルタ皇女殿下のご尊名をお呼びしましょう」
虚をつかれたように目を丸くした婚約者殿の手は、バルの頭の上でかたまった。
バルはニコニコと婚約者殿を促す。
「さぁ。兄上もお呼びください!」
ギギギ、と油のきれたブリキ人形のようにぎこちなく顔をこちらに向ける婚約者殿は、特に感情をうかがわせず、表情までもブリキ人形のようだ。
「第三王子であるバルがわらわの名を呼び、そなたが呼ばぬようでは不仲を疑われてしまうからな」
「それもそうだな」
口の端のみを吊り上げて笑むと、婚約者殿は小さく息を漏らし、頷いた。
「わらわもそなたの名を呼ぶ方がよいか?」
「そうしてくれ」
「それではリヒャード王太子殿、今後ともよしなに」
すると婚約者殿は、これまで変えることのなかった表情を露骨に歪めた。
「王太子とは呼ばないでくれ」
視線を落とす婚約者殿に、はてこれはどうしたことか、と疑問が浮かぶが、バルのいるこの場で問うことではないだろう。
「心得た。さすれば第一王子殿とも呼ばぬぞ。王太子であるそなたを、あえて第一王子呼ばわりすれば、他意をさぐられるゆえ」
口を開きかけて閉じた婚約者殿のおとがいに扇の先を添え、うつむいた顔を上げるよう促す。
一国の王太子相手に礼儀知らずもいいところだが、婚約者相手に視線を合わせぬ向こうにも咎はある上、何よりウジウジと面倒な人物は好ましくない。
「よいか。リヒャード」
「それでかまわん。バチルダ」
強い語調ときつく寄せられた眉根とは対照的に、アンバーの瞳は揺れていた。
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