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第一章 聖女の祝福
第三話 第一王女殿
しおりを挟む「皇女サマ」
振り返ると第二王子殿と第一王女殿が手を繋いで立っていた。
揃いの赤みがかった金髪に、灰青色の瞳。
そっくりの顔に薄萌黄に色を合わせた揃いの衣服。
まるで対の人形のような双子だ。
「お初にお目見え致します。ゲルプ王国第一王女、エーベル・プリンツェッシン・フォン・ゲルプ=ジツィーリエンにございます」
「うむ。わらわは神聖アース帝国第二皇女、バチルダ・ファルツ・プリンツェッシン・フォン・ユグドラシル。
聞き及んでおるだろうが、貴兄の婚約者となった。よろしく頼む」
「勿体なきお言葉、光栄にございます」
「よい。そなた口調を崩せ。わらわが貴国にとって価値のある献上品であるとは限らんのじゃから」
扇で口元を隠しながら第一王女殿に鋭く視線をくれてやると、第一王女殿は隣に立つ第二王子殿を見上げた。
やはり癖なのであろう。終始目を細める第二王子殿は、第一王女殿に手を引かれ、目を瞬いた。
実に愛くるしい、見目のよい双子。
これは民によく愛されていることだろう。
「あの……。さっきはごめんなさい。コーエンがお兄さまの小姓の真似事をしたのは、あたしが言い出したんです」
即座に口調を変える切り替えのよさは好ましい。
「そうか。なにゆえ?」
第二王子殿の乱入について、さして気にもとめぬことであったが、謝罪に訪れたということは、なにがしかの告白をしたいのであろう。
第一王女殿はぎゅっと口を引き結んだ。
「コーエンは……人の機微がよく見えるから……」
「なるほど? 婚約者殿は疎そうであるからな」
先ほども第二王子殿が不在であれば、義務的な話に終始したであろうし、おそらく政治体制の話にまでは及ばなかっただろう。
「ならばわらわはおぬしに礼を言うべきであって、謝罪を受けるには値しないな」
第一王女殿が目を瞬かせ、第二王子殿がニヤリと笑う。
「おぬしらのいたずらに礼を言おう。愉快であったぞ」
「どういたしましてー。皇女サマ、そのエラソーな感じ、俺好きだよ」
「そうか。わらわは好まぬが」
「えっ。俺のこと? それとも皇女サマご自身のこと?」
焦ったような様子を見せる第二王子殿に「おぬしは人の機微に聡いのであろう?」と笑いかけると、不貞腐れたように唇を尖らせた。そして彼の癖として、またもや目を細める。
「……皇女サマ、兄貴のことよろしくね。誰より優しい人だから」
第二王子殿は眉尻を下げ、寂しそうに微笑む。
確約しかねるため、微笑みで返すと、第二王子殿はますます悲しそうに眉を下げた。
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