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28話 依頼について

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 俺たちが受けた依頼内容は、針千獣という厄介な魔獣な討伐だ。
 全身は毛で覆われていて、四肢は丸太のように太く、鋭い牙が生えている。
 この魔獣の名の通り、全身の毛は針のように硬く、刺さってしまえば返しが付いているため、中々抜くことができない。

 この魔獣を見かけたら、まず逃げろと言われているくらいだ。
 つい最近、針千獣を甘く見て近づいた冒険者が、全身に毛が刺され大量出血で死亡という悲惨な事件が起きてしまった。
 その事件はどう考えても冒険者が悪いのだが、もしそれが冒険者以外だったら取り返しがつかない。
 だから、そうならない為にも、街周辺に住み着いている針千獣も討伐依頼が出されているのだ。

 「でさぁ、どこにいるの? なんとか獣ってやつ」
 「ここら辺だったはずですよ。そう紙にも書いてありましたし」
 「その情報が間違ってなければいいけどな」
 「そういえば、聖剣使いってバレなくて良かったね。ここってヴァラグシア王国の領内だから、見つかってたらやばかったんじゃないの?」
 「間違いなくやばい。俺は一応追放されてる身だし」

 俺は聖剣使いになってから、自分から依頼を受けに行ったことがなかったせいで知らなかったことなのだが、どうやら依頼を受けるには冒険者でないと駄目らしい。
 俺は聖剣使いであり、冒険者ではない為、依頼を自分で受ける事はできないのだ。
 そういうことで、今回は俺とミラノがラーシェの同伴者となって依頼を受けている。
 もし、俺たちが冒険者だったならば、冒険者ギルドが報酬などを均等に割り振ってくれるらしいが、俺たちの場合は全てラーシェに報酬が渡される。

 自分たちで割り振れということらしい。
 
 「全然見つからないじゃん。早く暴れたかったのに――いたぁ!」

 突然飛び跳ねて走り去っていたミラノの先を見る。
 すると、確かに目標のがいた。
 それも三体も。
 
 どうやら情報は合っていたようだ。
 
 「急いでミラノさんを追いかけましょう」
 「そうだな。何か問題が起こる前に――」

 しかし、俺たちの心配を他所に、ミラノはすでに入っていた。
 自分の世界に。

 「岩を砕き全てを飲み込む。その神秘の力を我に与えよ。水竜渦天ドラゴンロード

 ミラノが詠唱を終えた直後、地面が少し振動を始めた。
 それと同時に、六つの水の竜巻が発生し、予測不能な動きをしながら針千獣に襲い掛かっていった。
 竜巻は容赦なく三体の獣の巨体を巻き込み、何十メールと巻き上げる。
 激しい渦の中で何度も回転し、凶器の毛が抜け落ち巨体は地面に思い切り叩きつけられた。

 「ギュギャァッ!」

 短く、しかし苦しむが伝わってくる悲鳴らしきものを上げながら、その命は散っていった。

 「俺たちが心配することは何も無かったな」
 「そう……ですね……」

 満足げな表情でミラノは歩いてくると、両手を腰に当てて胸を張った。

 「どう? 私強いでしょ!」
 「はいとしか言えませんよ。それに何本も渦をさせるなんて凄いですね」
 「でしょでしょ!」

 通常の人間がドラゴンロードを使うと、一本の渦しか出すことが出来ない。
 しかし、ミラノは複数の渦を出現させることが出来た。
 なぜ出来たのかという話だが、単純な話でただミラノの魔力量が多いからだ。

 火魔法の初級魔法である火炎の矢ファイアアローで言えば、一般的な魔力量を持つ冒険者が放てば、大体15本くらいの矢が出現して相手に向かっていく。
 それに対して、その倍の魔力量を持っている者が使えば、それに合わせて矢の数も倍に、飛んで行く速度も倍になるのだ。

 「ていうか、もう依頼達成しちゃったけどどうするの? 全然時間経ってなくない?」
 「ミラノが一瞬で倒しちゃったからな」
 「私の凄さが分かったね」

 しかし、本当にどうしようか。
 今戻ったところで、多分ラーシェのお兄さんは帰って来てないだろうし。
 また依頼を受けに行くか。
 でもそうすると、今度は逆にお兄さんを待たせてしまうかもしれない。
 それは失礼だ。
 
 んー。
 長い間待つことになるかもしれないけど、一旦笑うピエロの本部に戻るか。

 と、俺の中で今後の動きが決まった時、ミラノが肩を叩いて来て遠い山を指差した。

 「ねえ。魔獣か何かの鳴き声が聞こえなかった?」

 その方向を見てみるが、姿どころか鳴き声さえ聞こえない。

 「別に何も。どうせ発情期の魔獣が騒いでるんだろ」
 「発情期って……。流石にそうだとしても大声で叫ばなくない? 凶暴な魔獣に自分の位置を知らせることになっちゃうんだよ?」
 「そんなこと言われても、聞こえなかったものは聞こえなか……聞こえた」
 「私も聞こえました」

 そして俺は、嫌な予感がした。
 
 「竜種……じゃないよな」
 
 竜種だった場合、俺達なら倒せないことはない。
 しかし、無傷で済むことは恐らく無理だ。
 それだけ竜種は強い。

 「でも竜種だったらそれだけ手ごたえがあるよ」
 「こんな時に手ごたえを求めようとするな。とにかく一旦戻ろう。厄介な魔獣に襲われたら面倒くさい――」
 「もう遅いよ」
 「え?」

 俺の返事に応えるように、俺の後ろをミラノは顎でくいっと指した。

 「だってほら」

 俺とラーシェは、それにつられて後ろを振り返る。

 「ちょっとあれは流石に……」
 「俺達生きて帰れるか……?」

 この時期になると、魔獣達は群れを作る。
 その理由は、子孫を残すためだ。
 オスを筆頭に数匹のメスで構成される魔獣の群れは、通りかかる者すべてを敵とみなし命を奪うまで襲い続ける。
 弱い魔獣の群れならば討伐すれば良いのだが、もしそれが竜種だったらどうするのか。
 答えは簡単。
 死を受け入れるだけ。

 しかし、幸いなことに竜種が群れを作ることは滅多にない。
 稀に、本当に稀に群れを作り繁殖をするのだ。

 そして、少し離れた場所からその「稀」が俺達へと向かって来ていた。
 中々出来ない体験だ。

 「数は七体か。逃げた方がいいんじゃないか」
 「多分、ここまで近づいて来られていると、逃げるのは不可能だと思います」
 「じゃあ……戦うしかないってことか」
 「残念ながら」
 
 ラーシェは《不死鳥フェニックス》を発動し、俺も聖剣を手に取り《光之王》を発動する。
 体力の消耗が激しくなってしまうとは言えど、使わなかったら喰われる未来しか見えない。
 七体なんていう数の竜種は相手にしたことないが、ここは聖剣使いとして負けるわけにはいかない。
 だって負けたら死ぬもん。

 「ミラノ、ビビッて逃げるなよ」
 「私クラティス様の幹部だよ? 怒らせた時のクラティス様を一回見た人なら、怖いものなんて無くなっちゃうよ」
 「……何したんだよ」
 「冬の時期に風呂場を水魔法で凍らせて、そこにクラティス様を閉じ込めた」
 「今生きてるだけ感謝しとけ」

 そんな冗談を交わしている間に、竜達との距離はだいぶ縮まった。
 物理的に。
 完全に奴らは俺達を捉えている。
 逃がしてくれるつもりもなさそうだ。

 「行くか」

 各々戦闘態勢に入り、一歩目を踏み出した――。
 直後、先頭にいた竜に何かが落下し、血しぶきを上げることなく灰となり姿が消滅していった。

 

 
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