上 下
19 / 33

19話 各々のスキル

しおりを挟む
 ラーシェの兄に会えることになったが、その前にもう少しだけこの子のことについて知っておきたい。
 所持しているスキルや聖剣の能力など、聞けていないことはまだ沢山ある。
 知っているか知っていないかで、今後の行動に大きく影響してくる。

 だけど、いきなり話せと言ってもせっかく縮まった距離が離れてしまうかもしれない。
 そうならない為にも、まずは自分のことを教えなければ。

 「俺の聖剣……シノヴァクだっけ? これを使っていると、光之王っていうのを使えて身体能力が五倍ほど膨れ上がるんだけど、ラーシェが使ってる剣ってどんな効果があるんだ?」
 「私が使っているウォーリアの剣は、《花の舞》といって剣が軽量化されます。ずっと使うことは出来ませんけど」
  
 やっぱり、聖剣の効果というのは長く続かないんだな。
 続いていてくれれば、どんな依頼も簡単にこなすことが出来るのにな。 
 
 「ミラノ様は何かスキルをお持ちになられていますか?」
 「私のことを馬鹿にしないでよね。ちょっと剣貸して」

 ミラノは俺に手を出しながら、鼻をふんと鳴らす。
 どうやら、スキルを持っているかどうかを聞かれたことが気に食わないらしい。
 魔族の幹部ならば持っていて当たり前ってか?

 俺はその時ふと思った。
 ミラノは確かに魔族の幹部なのだが、その権力はどこまで続くのだろうか。
 この世界には魔物と魔獣が存在しており、その違いは知恵があるかないかだ。
 基本的に魔物が知恵を持つ者たちとして扱われているが、その魔物の中でもいくつかの種族が存在する。
 代表的なのはやはり魔族、それ以外には長耳族エルフ空翼族スカイラルなどがいる。
 その他にも数えきれないほどいるが、正直俺は全ての種族を把握していない。
 数が多すぎるのだ。

 それは置いといて、魔族は世界中に存在している。
 俺達は豪炎の大陸で暮らしているが、氷河の大陸、竜牙の大陸、和神島にも魔族は存在している。
 そう考えると、ミラノは魔族の幹部ではなく、クラティスの支配下に置かれている魔族の幹部と認識を改めた方がいいな。
 
 「ほら」
 「痛っ」

 突然頭に軽い痛みが走り、顔を向けるとミラノが聖剣で俺の頭を突いていた。
 軽くにらみながら剣を受け取り、さっき置いといた場所に立てかけ直した。
 
 ミラノは何故だがニヤニヤしながら椅子から立ち上がると、右の掌を上にして指を軽く折り曲げた。
 いったい何がしたいんだ、と思ったのも束の間。
 手が金色に光り始めたと同時に銀の髪が靡き、光る部分から一本の剣が出現した。
 その剣は、俺が生きてきた中で一番目にしてきた剣で、なんなら今俺の後ろで立てかけてある。
 そう、つまりミラノが出現させた剣は――。

 「シノヴァクの剣がなんで……」

 俺が使う聖剣だったのだ。
 どうしてシノヴァクの剣が二本あるのか。
 常識的に、聖剣は同種は存在せず、その姿も使用者に与える効果も違う。
 よって、今ミラノが握っている剣はシノヴァクの剣であるはずがない。
 そうだというのに、なぜか剣の姿は一緒で見分けがつかないくらいだ。

 「どう? すごいでしょ」
 「本当に凄いです……。いったいどんなスキルなのですか……?」
 「仕方ないから教えてあげる。私のスキルは《創造者クライマー》だよ。触れたものすべてを複製することが出来るんだ」

 なんだそのスキル。
 どう考えても強すぎだろ。
 同じ効果を持つ聖剣は存在しないって言ってたけど、その理屈がミラノのせいで崩壊してしまった。

 「10分くらいか形を保っていられないけどね。はい、じゃあ次ラーシェの番」
 「私ですか」
 「当たり前でしょ。私だけ教えて終わりなんて不公平だからね」
 
 そう言われ納得したのか、ラーシェは立ち上がった。
 しかし、周りをキョロキョロと見て何かを心配しているような感じだった。
 そんなに危険なスキルなのか?

 「少し場所を変えてもいいですか?」
 「いいけど、どうしてだ?」
 「ちょっとスキルを使うには狭いような感じ出して」


 
 ということで、王都から出て少し歩き広い草原までやってきた。
 当然、仮面を被っている。
 周りを見渡すと、魔獣がちらほらと移動しているがこちらに寄ってくる気配がない。
 自分自身がそこまで強くない魔獣だと自覚しているからか、さっきから別の冒険者の方ばかり向かって走っている。
 襲われている冒険者も苦戦しているわけではないし、助けに行く必要はないな。

 「ここならいいでしょう」
 「早く見せてよ」
 「分かりました」

 ラーシェは頷くと、俺達から少し距離を取った。
 次の瞬間、瞬く間に全身が炎で包まれていった。

 スキルが暴走したのかと思い、すかさず水魔法で消火をしようとした。
 しかし、ラーシェを包んでいた炎はあるものへと姿を変えていった。

 「鳥……?」
 「すごい」

 巨大な鳥へと姿を変えた炎は次第に小さくなっていき、それは鎧へとさらに姿を変えた。
 しかし、ただの鎧ではなく、背中からは二つの炎の翼が生えて、鎧になっても燃えたままだ。
 それに加えて、髪の色は紫から燃えるような紅に変化し、瞳の色も同じように変化している。
 このスキルは一体……。

 「私のスキルは《不死鳥フェニックス》です」
 「フェニックス……」
 「絶対強いじゃん! 私も欲しい!」
 「確かにこのスキルは強いですよ。実際、このスキルのおかげで国を滅ぼすことが出来ましたし」
 「うわぁ」

 燃え盛る炎を見てミラノは目を輝かせながら、小走りで近づいて行った。
 ラーシェの周りをぐるっと一周し、翼の部分や炎の鎧をまじまじと見た。
 そして触った。

 「あ」

 なんとミラノは炎の中に手を突っ込んだのだ。
 何の躊躇いもなく、それも笑顔で。
 狂気だ。
 どうせ燃えても再生できるからと思っているのかもしれないが、俺だったら絶対に手を入れない。
 普通に燃えたくないし。

 しかし、そんな俺の考えとは逆にミラノの手は一切燃えていかなかった。
 それどころか、翼を動かして遊んでいる。

 「なんで燃えてないの? 魔族は炎耐性とかあったか?」
 「ないよ」
 「じゃあなんで燃えてないんだよ」
 「確かに私の体は燃えていますが、この炎に触れたからと言って体が燃えてしまう訳ではありません。私が燃えろと思えば燃えますが、そう思っている限り燃えることはないのです」
 「へぇ、凄いな。不死鳥ってことは、どれだけ傷を負っても死ぬことはないってことか?」
 「死んだことがないのでわかりませんが、多分普通に死ぬと思いますよ。傷の治りはとても早いですが」
 
 傷の治りが早いか。
 それは滅茶苦茶いいな。
 俺も早く治るんだったら、傷のことを考えずに戦うことが出来る。

 「一回腕を切断されてしまったことがあるのですが、10秒後には再生していました」

 想像していた傷とは全く違ったわ。
 剣で切られた深い傷とかって思ってたけど、腕が切断されたとは思わなかった。
 それに、10秒で再生できるって相手は絶望だな。
 頭とかを切り落とさない限り、致命傷にはならないんだし。

 絶対にラーシェとは戦いたくない。
 持久戦に持ち込まれて負けてしまう未来が見える。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜

サメ狐
ファンタジー
———力を手にした少年は女性達を救い、最強の組織を作ります! 魔力———それは全ての種族に宿り、魔法という最強の力を手に出来る力 魔力が高ければ高い程、魔法の威力も上がる そして、この世界には強さを示すSSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fの9つのランクが存在する 全世界総人口1000万人の中でSSSランクはたったの5人 そんな彼らを世界は”選ばれし者”と名付けた 何故、SSSランクの5人は頂きに上り詰めることが出来たのか? それは、魔力の最高峰クラス ———可視化できる魔力———を唯一持つ者だからである 最強無敗の力を秘め、各国の最終戦力とまで称されている5人の魔法、魔力 SSランクやSランクが束になろうとたった一人のSSSランクに敵わない 絶対的な力と象徴こそがSSSランクの所以。故に選ばれし者と何千年も呼ばれ、代変わりをしてきた ———そんな魔法が存在する世界に生まれた少年———レオン 彼はどこにでもいる普通の少年だった‥‥ しかし、レオンの両親が目の前で亡き者にされ、彼の人生が大きく変わり‥‥ 憎悪と憎しみで彼の中に眠っていた”ある魔力”が現れる 復讐に明け暮れる日々を過ごし、数年経った頃 レオンは再び宿敵と遭遇し、レオンの”最強の魔法”で両親の敵を討つ そこで囚われていた”ある少女”と出会い、レオンは決心する事になる 『もう誰も悲しまない世界を‥‥俺のような者を創らない世界を‥‥』 そしてレオンは少女を最初の仲間に加え、ある組織と対立する為に自らの組織を結成する その組織とは、数年後に世界の大罪人と呼ばれ、世界から軍から追われる最悪の組織へと名を轟かせる 大切な人を守ろうとすればする程に、人々から恨まれ憎まれる負の連鎖 最強の力を手に入れたレオンは正体を隠し、最強の配下達を連れて世界の裏で暗躍する 誰も悲しまない世界を夢見て‥‥‥レオンは世界を相手にその力を奮うのだった。              恐縮ながら少しでも観てもらえると嬉しいです なろう様カクヨム様にも投稿していますのでよろしくお願いします

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最弱の職業【弱体術師】となった俺は弱いと言う理由でクラスメイトに裏切られ大多数から笑われてしまったのでこの力を使いクラスメイトを見返します!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
俺は高坂和希。 普通の高校生だ。 ある日ひょんなことから異世界に繋がるゲートが出来て俺はその中に巻き込まれてしまった。 そこで覚醒し得た職業がなんと【弱体術師】とかいう雑魚職だった。 それを見ていた当たり職業を引いた連中にボコボコにされた俺はダンジョンに置いていかれてしまう。 クラスメイト達も全員その当たり職業を引いた連中について行ってしまったので俺は1人で出口を探索するしかなくなった。 しかもその最中にゴブリンに襲われてしまい足を滑らせて地下の奥深くへと落ちてしまうのだった。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...