上 下
9 / 33

9話 俺と父様

しおりを挟む
 「クリム、剣はこうやって振るんだ」

 俺の剣術は父様に教えてもらった。
 父様は国王だったため、多忙な日々だったがそれでも空いている時間は、俺の勉強に付き合ってくれたり、剣の振り方、魔法の使い方を教えてくれた。
 母様は俺が5歳くらいの時に病気で亡くなってしまい、その時に初めて父様の涙を見た。
 
 母様を亡くしたのに、今までと同じように国民と接して、仕事をこなした。
 それでも、悲しみがなくなったわけではない。
 夜になって父様の部屋に行くと、小さな声で泣いているのが聞こた。

 誰にも計り知れないほどの悲しみを抱えながら、今までと同じように接する父様を、俺は心から尊敬していた。
 いつか必ず、父様のような人になると心に誓っていた。
 
 それから、ほとんど毎日のように剣術を教えてもらった。
 足の動かし方、腰の使い方、腕の使い方、剣の角度、攻撃パターン、剣に関することだけでも、数え切れないほどのことを教えてもらった。

 父様の剣術は、勇者にも匹敵するほど凄いものだった。
 勇者と聖剣使いの違いを簡単に説明すると、勇者は大きな功績と上げたもので、聖剣使いは名前の通り聖剣を扱う者のことだ。
 勇者の使用する武器は皆違うが、大抵剣を使う。
 国王でありながら、それ程の剣の腕前を持つ者はなかなかいない。
 父様はそれ程凄い人だったのだ。

 そんな父様に10年近く指導してもらえたおかげで、俺は相当な技量を習得することができた。
  
 そしてある日、俺の元に一通の手紙が届いた。
 その手紙には、聖剣使い選抜対象者に選ばれたと書かれていて、日時と場所が書かれていた。
 そして当日、書かれていた場所に向かうと、500を超える人数がいた。
 聖剣使いが選ばれるのを見ようと、集まってきていたのだ。

 その人達をかき分けて、前に立っていた騎士に手紙を渡すと、待機場所に案内された。
 そこにはすでに5人いて、俺は最後の1人だった。

 「只今より、聖剣使いの選抜を始める!」

 その声と共に、人々は大声をあげて盛り上がり、熱を膨らませていった。

 俺たちはまた騎士に連れられて、人々の前にやってきた。

 「この中から聖剣使いが選ばれるのか」
 「でも子供ばっかりだな」
 「バカ! それでも俺達より強いんだぞ!」
 「俺達の方が弱いって、なんか悲しいな……」

 勝手に何やら言っているが、殆どの会話は俺の耳には入ってこなかった。
 俺を含めて選抜対象者は、目の前の岩に刺さっている金に輝く聖剣に釘付けだった。
 聖剣は神によって作られた剣だとされている。
 本当に神が作ったのか知らないが、この剣に不思議な力が込められているのは事実だ。
 
 この剣を絶対に引き抜く。
 そのことしか、俺の頭にはなかった。
 
 「では始める」

 1人の騎士の声と共に、1番左に立っていた奴が岩を登り剣に手をかけた、足を踏ん張って両手で思い切り引っ張る。
 だが、剣はびくともしない。
 これが聖剣か。

 「次!」

 2人目も同じように岩に登っていき、剣を握る。
 だが、抜けない。

 「次!」

 同じように合図が出されるが、3人目も抜くことができなかった。
 そして、4人目も、抜けなかった。

 「次!」

 そして俺の番が来た。
 岩に手をかけて登っていく。
 少し大きな岩だが問題ない。

 足をかける場所を見つけて、さらに登っていく。
 それを繰り返していくうちに、金に輝く剣の姿が明らかになった。
 岩を問題なく登りきり、聖剣に手をかける。
 両足と両腕に力を入れて、強く引っ張る。

 「え?」

 だが、聖剣はびくともしなかった。
 何度引っ張っても全く動かない。
 本当に抜けるのか? 
 と思ってしまうほどだ。

 「もういいか?」
 
 騎士がそう聞いてくるが、俺はもう少しだけ待ってくださいと言って、剣を引っ張り続けた。

 動かない。
 びくともしない。
 俺じゃダメなのか?
 俺は聖剣使いにふさわしくないのか?
 もしこの剣に認められなかったら、父様に合わす顔がない。
 俺の額から汗が流れていく。
 そうしてだ!
 あれだけ長い時間、父様に稽古をつけてもらったのに!
 何が駄目なんだ!
 俺じゃ……俺じゃ聖剣使いには――。

 『肩の力を抜いて』
 「誰だ?」

 突如声が聞こえ、俺は後ろを振り返るがそこには下で騒ぐ人々しかいない。

 気のせいか。

 俺はそう思い、もう一度力を入れる。

 『ほら。また肩に力が入ってる。だから力を抜いてって、言ってるでしょ?』

 そう耳元で囁かれるような気がしたと思ったら、次は肩に手を当てられている感覚があった。

 「さっきから誰だ」
 『そんなことどうでもいいでしょ。ほら。力を抜いて、剣を引っ張るだけ』 
 「そんなことして抜けるか」
 『聖剣を手に入れたくないの?』

 俺はそう聞かれ黙ってしまった。

 『ふふふ。やっぱり欲しいのでしょ? だったら、私の言った通りに肩の力を抜いて、心を落ち着かせて、引っ張ればそれでいい』

 俺は言われた通りにすればいいか悩んだ。
 なぜなら、これだけ力を入れても抜けないのに、逆に力を抜いて引いても抜けるわけがない。
 でも、どうせこれ以上力を入れても抜けそうにないし、言われた通りにしてみるか。

 心を落ち着かせるために、深く息を吸って吐いた。
 それを何度か繰り返し、肩を回す。

 そして、体の力を抜き剣を握りしめる。
 
 『今よ』

 その声と同時に、剣を引っ張った。
 すると、今までにないような感覚が体に走った。
 剣がぐらっと揺れたかと思うと、そのまま上に上がって剣が抜けた。

 「え……抜けた……」
 『ふふふ。やっぱり言った通りでしょ? またね』

 そう言い残すと、俺の背後から気配が消えた。

 俺が呆然としているのに反し、人々は大声で騒いでいた。
 それに気がつくまで、しばらく時間がかかった。




 
 「父様! ただ今戻りました!」
 「おお! クリムっ!」
 
 すっかり城内は祝いムードになっていた。
 
 多くの人に囲まれていた父様は、俺の姿を見ると笑いながら歩み寄ってきた。
 
 「父様……俺……俺……」
 
 父様は、俺の身長に合わせるようにしゃがみ込むと、俺を力強く抱きしめた。
 
 「お前は俺の誇りだ。本当によくやったな」
 
 そしてその時、父様の涙をもう一度見た。



 
 父様のあの時の笑顔と、涙は俺は死ぬまで忘れない。
 もう一度父様の笑顔を見たい。
 だが、俺のそんな願いは、一生叶うことはない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

処理中です...