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7話 俺は家畜なんかじゃない

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一時的に冷静さを失ってしまったせいで、魔族の攻撃に反応が遅れてしまった。
 首を狙って振られた刀を、完全に避けることができずに頬に切り傷がつけられた。

 針で刺されたような痛みを感じた直後、頬から一筋の血が流れ出し地面に垂れていく。
 
 「俺の攻撃を避けるか」
 「これでも聖剣使いだからな」

 頬から流れる血を腕で拭きながら、もう片方の手で剣を引き抜き魔族に構えた。
 
 こいつの攻撃は次元が違う。
 今まで戦ってきた相手でも、これほどの強さの奴はいなかった。
 まだ一撃しか受けていないが、それだけでも十分にわかる。
 中途半端な攻撃はしない、一撃一撃が意味のある攻撃。
 こいつほど厄介な奴はいない。
 
 今まで何度か魔王と戦ったが、魔王は脳筋なのか力押しだったため対応することが出来た。
 だが、こいつは戦闘能力が高い上に頭を使う。
 俺も一撃ずつ頭を使って戦わないと、殺される。

 「いくぞ」

 魔族の掛け声と共に、俺も足を吹き込んで接近を試みる。
 守りだけでは当然勝つことはできない。
 強い相手こそ攻めて、相手のリズムを崩さないといけない。
 この考えに至ったために、接近を試みた。
 だが、俺のそんな考えは甘く、気付けば視界から魔族は消えていた。

 消えた……!
 絶対に目を離さないように、まばたきさえしなかったはずなのに!
 それでも、俺の目はあいつを追うことが出来ないのか……!

 一瞬の出来事に思考が停止してしまい、体が止まっていると背後から服が擦れるような音がした。
 その音のおかげで思考停止が解除され、瞬時に後方に体の向きを変えて構えた。

 顔を上げると、魔族は驚いた表情をしながらも刀を振り下ろしていた。
 今度は避けずに、その刀を下から剣で受け止めた。
  
 「く……!」

 なんだこの攻撃。
 重すぎるだろ。
 どうしたらこんな重い攻撃をすることが出来るのか。
 全く魔族という種族はわからない。

 「俺の攻撃を今度は受け止めるか。お前、なかなかやるな」
 「それはどうも……!」
 「だから、ここで殺す」

 魔族は片足を上げて、俺の横腹を思い切り蹴り上げた。
 刀を受け止めているのに精一杯で、蹴りの衝撃を抑えることが出来ずに、壁に背中を打ちつけた。

 「い……たぁ……」

 背中がジンジンと痛みが走る。
 この痛みでは恐らく、骨は折れていなさそうだが、内出血を起こしているかもしれない。

 「聖剣使いでも、たかが人間。魔族よりも体が貧弱なことには変わりない。俺達に勝てると思うなよ」

 そう言いながら、俺に近寄り上から睨み付けてくる。

 そんなこと言われなくもわかってるさ。
 人間は魔族みたいに再生もしないし、生命力も高くない。
 腕を切り落とされて死ぬことだってある。
 人間も再生できるなら、お前達にこれ程苦労はしてねぇよ。

 「お前の国の王も酷い命令をするものだな。死んでこいと言っているようなものだ」
 「だから……ここは俺の意思で来た……。国王は関係ない……」
 
 頭がクラクラするが、なんとか壁に手をついて立ち上がる。
 こんなところで、殺されるわけにはいかない。
 俺はあいつを絶対に殺す。
 父様を殺したやつを、生かしておくことは絶対に出来ない。

 「殺されるというのに、まだお前は国王を庇うのか?」
 「庇ってんかいない……」
 「嘘をつくな。どの国の奴も、国王を必ず庇おうとする。まるで家畜のようだ」
 「俺は……家畜なんか……」
 「そんな家畜みたいに育てる親は、一体どんな奴なのか。お前の父も母もまともではなかったのだろうな」

 は……?
 お前今、なんて言った?

 俺は父様を殺すよう指示したフリュースが、絶望をする顔が見たくてここに来たんだ。
 父様を殺した奴も、必ず殺そうと思っている。
 俺の父様と母様を侮辱する奴は許さない。
 たとえそれが、仲間だったとしても。

 「く……かぁっ……!」
 「ぁぁ……」

 俺は気付けば血まみれになっていた。
 左手で魔族の首を絞めながら持ち上げ、右手で握った剣で魔族の両足と片腕を切り落としていた。
 
 「お前、俺の家族を侮辱することは許さねぇぞ。さっきから、国王を庇うだ、家畜のようだと散々言ってくれたけど、俺は国王を殺そうと思っている。お前が馬鹿にした俺の父様は、国王に殺されたんだよ。人の気持ちもしらねぇで、好き勝手言ってんじゃねぇ」

 俺はさらに強く喉を握りしめ、そのまま地面に叩きつけた。
 このまま心臓を潰してやってもいいが、そのせいで魔王に手を組まないと言われても困る。
 今はこの辺にしておこう。

 剣についた血を払って腰に差した後、巨大な門の前に立った。
 横を見ると、さっきまで余裕そうな顔をしていた3人の魔族が、今は少し険しい顔で俺のことを見ている。
 
 この魔族を倒せてよかった。
 これでだいぶ威圧が出来たはずだ。

 「邪魔しないってことは、入っていいって事だよな」
 
 俺のその言葉に、一人の魔族が足を一歩踏み出したが、俺が睨みつけると歯を食いしばってすぐに立ち止まった。
 
 俺はそれを確認すると、門に手を当てて力を入れる。
 巨大な扉が少しずつ開いていき、そして魔王城の内部を明らかにした。
 
 
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