上 下
89 / 93

88話 魂

しおりを挟む
 「ありがとう……ベルゼルフ。俺、自分の事しか考えてなかった」
 「そうだな。でももう、大丈夫だろ?」
 「あぁ。大丈夫だ」
 「よし」

 ベルゼルフはそう言うと、俺の背中に回していた腕を離して、地面に寝ていたカロスを抱き抱えながら立ち上がった。
 俺を見て軽く笑顔を浮かべると、手を差し伸べてきた。
 その手を取って、俺は立ち上がる。

 「すまない。心配をかけさせてしまった」
 「本当に大丈夫ですか?」
 「大丈夫だ。心配するな」
 
 ミルマは俺に近づいてきて、俺に声をかけてきた。
 こいつは優しいなぁ、カロスが死んでつらいだろうに。
 ミルマはカロスに特訓させられたから、短い間しか関われなかったけど、それ以上の関係を築けただろうからな。

 「あ、紹介します。こいつが俺の妹のヴァミアです」
 「私の兄が世話になったようだな」
 「まさか、お前がミルマの妹だったとはな。あれだけ有名で良くバレなかったな」

 ギルド序列1位のリーダーは当然ながら、それに似合う活躍をしている。
 その分人前に出て、讃えられるわけだから国民全員知っていて当然のレベルだ。
 それなのに、ずっと人型でいてファイアーウルフだとバレなかったのは、なかなかすごい事だと俺は思う。
 
 「何だ。私のことを知っているのか?」
 「俺はお前たちの国に住んでいたんだ」
 「何? それなのにこの国に敵対したのか?」
 「まぁ……そうだけど……」

 ならば許さん、とか言われて剣を抜かれると思いちょっと身構えたが、特に何もされなかった。

 「斬られるかと思った」
 「失礼な奴だな。兄が世話になった奴を斬るなどするはずがないだろ」

 そう言いながら、ヴァミアはため息をついた。

 それにしても、ミルマが妹と再会することができて良かった。
 もしヴァミアがミルマの妹じゃなかったら、敵対していた可能性があった。
 そう思うと結構やばいな。
 魔王を相手にするようなものだからな。

 「リウス様、少しよろしいでしょうか」
 
 ゼーラが背後から俺に近寄り、声をかけてきた。
 俺が振り向くと、両手に大事そうにのせる青く光る球体が乗っていた。
 
 「いいけど……それなんだ?」

 結構強い光で辺りを照らしている。
 それだけ光を放てば当然ながら皆気付き、俺たちの方に目線を向けてきた。

 「これは、カロス様の魂です」
 
 ゼーラのその言葉を聞いた瞬間、俺の心臓の音は一気に加速していった。

 「カロスの……魂……」
 「はい。カロス様に頼まれたのです。我は今から死ぬ。だから、我の魂が削られていくたびに、そのカケラを集めて欲しい。悪魔だから出来るだろう? そう頼まれました」

 これはカロスの魂。
 そう聞いたら、青く光る球体と思っていたものが、一気に別の物に見えた。

 そして、大きな期待が膨らむ。

 「それがカロスの魂ってことは! 蘇らせることも――」

 だが、そんな期待もすぐに消し去られた。

 「いいえ。この場に魂が残っていようとも、死んだものを生き返らせる事はできません。悪魔である私も、時間を操ることの出来る時操の金鳥も」
 「そう……か……」

 それはそうだよな……。
 もし救えるなら、フェイだって救えていた。
 死んだ者が生き返れるなら、一体どれだけの人が悲しまなくて済むだろうか。
 死人が生き返るなんて、そんな都合のいい話が……あるわけがない。

 「死んだものは助ける事はできない。ですが、瀕死になった者を助ける事は可能です」
 「え……?」
 「誰にも直すことが出来ないほどの、あまりに酷い傷を負ったり、不治の病にかかってしまったとしても、このカロス様の魂があれば救うことが出来ます」
 「そうなのか……?」
 「はい。通常の生物の魂は弱すぎて集めることが出来ません。
 ですが、カロス様の魂は強く、これだけのエネルギーが集まっていれば、誰でも救うことだ出来ます。
 我の大切な存在が、これ以上悲しまなくても良いように、こんな我の魂を使ってくれ。そう仰っておりました」
 「凄いな……カロスは……」

 他の命のために、自分の命を犠牲にして守る。
 それなのに、犠牲になった後でも、さらに誰かを救おうとする。
 
 「敵わないな。あいつには」

 ベルゼルフのその言葉に、皆頷いた。
 俺はベルゼルフに近寄って、胸に抱かれているカロスの頭を撫でた。

 カロスにはさよならは言わない。
 俺がカロスに送る言葉は、
 
 「またな」

 いつかまた会う、その時まで。
 

 
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...