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82話 憎しみ
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「がハァ……っ!」
黒く染まる氷がグラファの腹を貫通する。
「一体何が……?」
グラファは混乱する。
あとほんのちょっとの距離で殺せたのに、今は何故か立場が逆転してしまっている。
何故あの速さで背後に回り込んだのに反応されたのか。
全く意味がわからない。
「意味がわからないか?」
先とはまるで違うカロスに睨まれる。
嗚呼、そうだ。
俺は冷静さを失っていたのだ。
それ以外に俺が攻撃をくらうことなど考えられない。
冷静さを取り戻せ。
でないと勝てるものも勝てん。
グラファは大きく息を吸い、指をスッと下に下ろし体に突き刺さる氷を折った。
こんな傷なんてすぐに癒える。
そう考え、傷のことを頭に隅に置いてカロスから距離を取る。
「なんだ? 逃げるのか」
「逃げるわけないだろう。ついつい感情的になってしまったが、今は冷静さを取り戻した。これで、お前はもう、勝てない」
そして笑う。
どうやってあいつらを殺してやろうか。
この俺を侮辱したことを後悔させて――
「――!?」
気づいた時にはすでに遅かった。
ヴァミア達に視線をやっていた時に、漆黒のその巨体が鋭い牙を剥いて目の前にい・た・。
速すぎる……!!!
回避するためには指を鳴らすしかない。
そう考えたグラファは、右手指を動かして音を鳴らす――寸前で右の肘から先を喰い千切られた。
「あががぁぁぁぁぁぁああかぁぁ!!!」
いくらグラファと言えど、無くなった部位を再生することはできない。
ただただ、灼熱のような痛みが神経を通って脳に送られていく。
「ふざけやがってぇ!」
顔を涙や涎でぐちゃぐちゃにしながら残った左手で指を鳴らし、離れた場所に移動する。
まだまだ足りんぞ。
貴様はこれからもっと苦しむのだ。
我命に変えたこの力で……!
血に染まったような瞳で、少し離れた場所で止血するグラファを睨んでいるとベルゼルフがとぼとぼと歩いて近づいてきた。
「カロス……何だよな……?」
「そうだが」
「その姿……どうしたのだ? 一体何を……」
「その話は今話すべきではない。今はあいつを殺すことだけを考えろ」
「わかった……」
そんな言葉でベルゼルフが納得できるわけがなかった。
何故カロスがこんな姿になってしまったのか。
共に長い時間を過ごしたベルゼルフでさえ、わからない。
一体何が、カロスを変えてしまったのか。
「死ね」
カロスの瞳が赤く光る。
途端、地面から漆黒の氷の鎖が地面から突き出て、蛇のように素早くグラファに迫っていった。
貴様を苦しめて、苦しめて、苦しめてやるぞ。
痛みで意識がカロスから逸れている為、己に迫ってきている鎖の存在に気付かない。
もし気付いていれば、結末は変わっていたかもしれない。
「お、あっ! くそ! 離せ!」
グラファの手足は、一瞬で鎖が絡み付いていき空中に吊し上げられた。
だがそれでも余裕傷な表情を浮かべる。
やつは馬鹿だ。
俺に左手はまだ残っているんだぞ。
この手の指を鳴らせば俺は――
「だから、こうするのだ」
グラファの心の声が聞こえていたかのようにカロスは反応し、それと共に鎖も変化していった。
「え? お、おいおいおいおいおいおい。待てよ待てよやめろやめろやめ――」
左腕の鎖の絡みつく強さが次第に増していき、そして岩をも砕く強さにまで変化した。
当然、そんな強さのものに絡みつかれて無事なわけがない。
ゴギっ、と鈍い音を立てると共にグラファの顔がみるみる変わっていく。
「それで終わりではないぞ」
だが、鎖の絡み付く強さは全く弱まらない。
逆にさらに強くなっていっている。
そんな鎖に人間の腕が耐えられるはずもなく、グラファの絶叫と共に肘から先が切り落とされた。
「おお……これまた凄い……」
ベルゼルフ微妙に引き気味に感心する。
「感心するのは早いぞ」
「え?」
「こんなことで奴は倒せないからな」
そうだ。
まだ終わらない。
終わらせない。
我の憎しみが、消えるその時まで。
黒く染まる氷がグラファの腹を貫通する。
「一体何が……?」
グラファは混乱する。
あとほんのちょっとの距離で殺せたのに、今は何故か立場が逆転してしまっている。
何故あの速さで背後に回り込んだのに反応されたのか。
全く意味がわからない。
「意味がわからないか?」
先とはまるで違うカロスに睨まれる。
嗚呼、そうだ。
俺は冷静さを失っていたのだ。
それ以外に俺が攻撃をくらうことなど考えられない。
冷静さを取り戻せ。
でないと勝てるものも勝てん。
グラファは大きく息を吸い、指をスッと下に下ろし体に突き刺さる氷を折った。
こんな傷なんてすぐに癒える。
そう考え、傷のことを頭に隅に置いてカロスから距離を取る。
「なんだ? 逃げるのか」
「逃げるわけないだろう。ついつい感情的になってしまったが、今は冷静さを取り戻した。これで、お前はもう、勝てない」
そして笑う。
どうやってあいつらを殺してやろうか。
この俺を侮辱したことを後悔させて――
「――!?」
気づいた時にはすでに遅かった。
ヴァミア達に視線をやっていた時に、漆黒のその巨体が鋭い牙を剥いて目の前にい・た・。
速すぎる……!!!
回避するためには指を鳴らすしかない。
そう考えたグラファは、右手指を動かして音を鳴らす――寸前で右の肘から先を喰い千切られた。
「あががぁぁぁぁぁぁああかぁぁ!!!」
いくらグラファと言えど、無くなった部位を再生することはできない。
ただただ、灼熱のような痛みが神経を通って脳に送られていく。
「ふざけやがってぇ!」
顔を涙や涎でぐちゃぐちゃにしながら残った左手で指を鳴らし、離れた場所に移動する。
まだまだ足りんぞ。
貴様はこれからもっと苦しむのだ。
我命に変えたこの力で……!
血に染まったような瞳で、少し離れた場所で止血するグラファを睨んでいるとベルゼルフがとぼとぼと歩いて近づいてきた。
「カロス……何だよな……?」
「そうだが」
「その姿……どうしたのだ? 一体何を……」
「その話は今話すべきではない。今はあいつを殺すことだけを考えろ」
「わかった……」
そんな言葉でベルゼルフが納得できるわけがなかった。
何故カロスがこんな姿になってしまったのか。
共に長い時間を過ごしたベルゼルフでさえ、わからない。
一体何が、カロスを変えてしまったのか。
「死ね」
カロスの瞳が赤く光る。
途端、地面から漆黒の氷の鎖が地面から突き出て、蛇のように素早くグラファに迫っていった。
貴様を苦しめて、苦しめて、苦しめてやるぞ。
痛みで意識がカロスから逸れている為、己に迫ってきている鎖の存在に気付かない。
もし気付いていれば、結末は変わっていたかもしれない。
「お、あっ! くそ! 離せ!」
グラファの手足は、一瞬で鎖が絡み付いていき空中に吊し上げられた。
だがそれでも余裕傷な表情を浮かべる。
やつは馬鹿だ。
俺に左手はまだ残っているんだぞ。
この手の指を鳴らせば俺は――
「だから、こうするのだ」
グラファの心の声が聞こえていたかのようにカロスは反応し、それと共に鎖も変化していった。
「え? お、おいおいおいおいおいおい。待てよ待てよやめろやめろやめ――」
左腕の鎖の絡みつく強さが次第に増していき、そして岩をも砕く強さにまで変化した。
当然、そんな強さのものに絡みつかれて無事なわけがない。
ゴギっ、と鈍い音を立てると共にグラファの顔がみるみる変わっていく。
「それで終わりではないぞ」
だが、鎖の絡み付く強さは全く弱まらない。
逆にさらに強くなっていっている。
そんな鎖に人間の腕が耐えられるはずもなく、グラファの絶叫と共に肘から先が切り落とされた。
「おお……これまた凄い……」
ベルゼルフ微妙に引き気味に感心する。
「感心するのは早いぞ」
「え?」
「こんなことで奴は倒せないからな」
そうだ。
まだ終わらない。
終わらせない。
我の憎しみが、消えるその時まで。
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