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78話 触手

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 「ほら。さっさと死ねよ」

 俺の触手を何とか腹から引き抜き、治療に当たっているセハンに攻撃を畳み掛ける。

 「ちっ! 雑魚のくせに――」
 「雑魚なのはどっちかよく考えろ」

 背中から伸びる触手を上手く扱いながら、奴の心臓を狙って打ち込む。
 だが、なかなか当てることが出来ない。

 ちょこまかと逃げやがって。
 
 「フハハ」
 「何笑っているんだ貴様はぁ!」

 こいつは何を言っているんだろうか。

 今は手が空いているため、余裕を持ちながら自分の顔に手を当てる。

 ほらな。
 やっぱり笑ってなんか――。

 「え……? 俺、笑ってる」

 なぜ笑っているのか、自分でも全く理解ができない。
 周りには敵兵の死体が転がり、シェビーは傷だらけで縛られ、仲間も戦い傷ついている。
 こんな状況で楽しいと思うことなど――

 いや違う。
 俺は、こ・ん・な・状況が、こんな状況だからこそ、

 「楽しいんだ」
 「貴様狂ってやがる!」
 「そうだな。だがお前も狂ってる」
 「ふざけるな! 私は狂ってなどいない!」

 目を充血させ、手から水で剣のようなものを生成して俺の触手を切断した。
 だが俺の触手はすぐに再生して、油断していたセハンの腕を体から吹き飛ばした。

 「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 
 痛みで俺のことが頭の中から消えたのか、なくなった腕を押さえて地面を転がり出した。

 「痛いか? 痛いだろ。それが痛みだ」

 一歩一歩地面を転がるセハンに近づいていき、涙と鼻水で汚す顔を覗き込んだ。

 「あガァ……腕がヤァ……うでゅがぁ……」
 「散々人にやりたい放題やっておいて、お前は痛みに弱いんだな」
 
 こいつにはもっと痛みを味合わせてやりたいが、俺にはそんな時間は残されていないようだ。

 頭がクラクラしてきて、視界がぼやけてしまう。
 
 「じゃあな。セハン。地獄に堕ちろ」

 触手はゆらゆらとセハンの頭まで近づいていき、跡形もなく砕いていった。
 
 しっかりしろ俺の頭……。
 まだやらなくちゃいけないことがあるだろ。

 よろつく足を何とか立たせ、傷だらけで座っているシェビーに歩み寄る。
 セハンが死んだからか、すでにシェビーの拘束は解かれている。

 「おい……大丈夫か……?」
 「大丈夫って言いたいけど……ちょっとやばいかな……へへ……」

 血まみれの顔で俺に笑顔を向けてくる。
 痛みでそんなことをするのにも一苦労だろうに。

 「ちょっと待ってろ。今から俺が治してやる」
 「え? 別にいいよ……だって私よりも傷が――」
 「俺のことは気にするな。俺のせいで傷ついたんだから」

 数秒経つと、血は取れないものの傷は塞がっていき治癒は終了した。

 「よし、これで治ったな」
 「ほんとだ凄い! 全部治ってる!」
 「このくらい余裕……だ……」
 
 やばい……意識が――

 「え? ちょっと大丈夫!?」

 倒れた俺に必死に声をかけてきているが、体が全く動こうとしない。

 「体が動かないだけだから大丈夫だ」
 「全然大丈夫じゃないでしょ!」
 
 魔獣の力を全て回して回復しているが、一向にいい方向へ行かない。
 何故かずっと体は動かないままだ。

 意識が――

 パチンッ!

 「い……てぇ……」

 突然頬に小さな痛みが走り目を開けると、シェビーが俺の顔を両手で挟んだ。
 
 「目を瞑ったらダメ!」
 
 甲高い声が耳に入ってくる。
 だが、おかげで耳が刺激されて脳にまで入ってくる。
 
 「そう……だな……」

 こんな時に気を失おうとするなんて、俺は一体何を考えているんだ。
 とにかく早く回復を進めろ。
 そして戦え。

 もう二度と、仲間を殺されないために。


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