79 / 93
78話 触手
しおりを挟む「ほら。さっさと死ねよ」
俺の触手を何とか腹から引き抜き、治療に当たっているセハンに攻撃を畳み掛ける。
「ちっ! 雑魚のくせに――」
「雑魚なのはどっちかよく考えろ」
背中から伸びる触手を上手く扱いながら、奴の心臓を狙って打ち込む。
だが、なかなか当てることが出来ない。
ちょこまかと逃げやがって。
「フハハ」
「何笑っているんだ貴様はぁ!」
こいつは何を言っているんだろうか。
今は手が空いているため、余裕を持ちながら自分の顔に手を当てる。
ほらな。
やっぱり笑ってなんか――。
「え……? 俺、笑ってる」
なぜ笑っているのか、自分でも全く理解ができない。
周りには敵兵の死体が転がり、シェビーは傷だらけで縛られ、仲間も戦い傷ついている。
こんな状況で楽しいと思うことなど――
いや違う。
俺は、こ・ん・な・状況が、こんな状況だからこそ、
「楽しいんだ」
「貴様狂ってやがる!」
「そうだな。だがお前も狂ってる」
「ふざけるな! 私は狂ってなどいない!」
目を充血させ、手から水で剣のようなものを生成して俺の触手を切断した。
だが俺の触手はすぐに再生して、油断していたセハンの腕を体から吹き飛ばした。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
痛みで俺のことが頭の中から消えたのか、なくなった腕を押さえて地面を転がり出した。
「痛いか? 痛いだろ。それが痛みだ」
一歩一歩地面を転がるセハンに近づいていき、涙と鼻水で汚す顔を覗き込んだ。
「あガァ……腕がヤァ……うでゅがぁ……」
「散々人にやりたい放題やっておいて、お前は痛みに弱いんだな」
こいつにはもっと痛みを味合わせてやりたいが、俺にはそんな時間は残されていないようだ。
頭がクラクラしてきて、視界がぼやけてしまう。
「じゃあな。セハン。地獄に堕ちろ」
触手はゆらゆらとセハンの頭まで近づいていき、跡形もなく砕いていった。
しっかりしろ俺の頭……。
まだやらなくちゃいけないことがあるだろ。
よろつく足を何とか立たせ、傷だらけで座っているシェビーに歩み寄る。
セハンが死んだからか、すでにシェビーの拘束は解かれている。
「おい……大丈夫か……?」
「大丈夫って言いたいけど……ちょっとやばいかな……へへ……」
血まみれの顔で俺に笑顔を向けてくる。
痛みでそんなことをするのにも一苦労だろうに。
「ちょっと待ってろ。今から俺が治してやる」
「え? 別にいいよ……だって私よりも傷が――」
「俺のことは気にするな。俺のせいで傷ついたんだから」
数秒経つと、血は取れないものの傷は塞がっていき治癒は終了した。
「よし、これで治ったな」
「ほんとだ凄い! 全部治ってる!」
「このくらい余裕……だ……」
やばい……意識が――
「え? ちょっと大丈夫!?」
倒れた俺に必死に声をかけてきているが、体が全く動こうとしない。
「体が動かないだけだから大丈夫だ」
「全然大丈夫じゃないでしょ!」
魔獣の力を全て回して回復しているが、一向にいい方向へ行かない。
何故かずっと体は動かないままだ。
意識が――
パチンッ!
「い……てぇ……」
突然頬に小さな痛みが走り目を開けると、シェビーが俺の顔を両手で挟んだ。
「目を瞑ったらダメ!」
甲高い声が耳に入ってくる。
だが、おかげで耳が刺激されて脳にまで入ってくる。
「そう……だな……」
こんな時に気を失おうとするなんて、俺は一体何を考えているんだ。
とにかく早く回復を進めろ。
そして戦え。
もう二度と、仲間を殺されないために。
0
お気に入りに追加
1,087
あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる