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73話 失われた記憶
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「お前……何してんだ……?」
自分の腹を刺した人物の顔を見ながら、口に溢れる血を垂らしながら言葉を発した。
だが、返事が返ってくる様子はない。
「何で俺たちを攻撃するんだよ!」
「仲間じゃねぇのかよ!」
周りを見渡せば、彼方此方あちらこちらで怒声が飛びかっていた。
仲間に攻撃をされたのは、この者だけでは無かった。
突然、後ろから背中を斬られる者。
首を刎ねられる者。
斬られるギリギリで気付き、なんとか自分の剣で攻撃を受け止めた者。
なぜか仲間に攻撃されるという現象が一斉に発生し、兵士達はすでに取り返しのつかないほどの混乱に陥っていた。
「クフフフ……。素晴らしいですねぇ。人数がいればいるほど面白くなる」
「テメェ何しやがった!」
どこからか声が聞こえ、ゼーラは笑みを浮かべたまま答える。
「いいでしょう。教えて差し上げます。私は貴方達のお仲間を支配させて戴きました。私に対する恐怖や、先程の仲間同士の言い合いで生まれた怒り。そこに私の影・が侵食していったのです。さぁ、私からのプレゼント、是非堪能して下さい。クフフフ……」
ゼーラは侵食を止める様子はなく、ただただ仲間同士で殺し合う光景を楽しんでいた。
「おいおい、お仲間を置いてどこいってたんだよ~?」
「ヴァミアは仲間ではない。勘違いをするな」
リウス達のところから戻った後、カロスはまたヴァミアに加わって戦闘を始めたが、戦況は一向に良くなる気配はない。
傷を治してもらい、万全な状態になってもだ。
一体どうすればコイツに勝てるのだ……?
指を鳴らせば一瞬で別の場所に移動することが出来る。
これでは真正面から攻撃したら、ほとんど躱されてしまう。
どうにかしてコイツに勝つ方法を……
「ヴァミア!」
「……?」
どこからか突然聞こえた声に、皆一瞬意識をその声の主に向けた。
「ミルマではないか」
その場にいる者の視線が一斉に集まり、そこにあったのは、もういないと思っていた妹を探すミルマの姿だった。
「兄……さん……?」
一度足りとも相手に向けて警戒を解かなかったヴァミアは、必死な顔で駆け寄るミルマを見て、全ての意識をそこに向けた。
「やっと……会えた……」
ヴァミアから火怒羅が消滅し、剣を地面に落としながら瞳から涙を流した。
「……」
完全に無防備なヴァミアを今攻撃すれば、グラファは間違いなく仕留めることが出来る。
それにも関わらず、なぜか2人の様子を真顔で見つめたまま攻撃をしようとしない。
あいつ……なぜ攻撃をしないのだ?
どう考えても今が絶好のチャンスのはず……。
だが、攻撃しないということは何か理由があるのか。
どちらのせよ油断しているグラファを、我が仕留めて仕舞えば――
「なぁ、氷結の白狼」
「なんだ……?」
背を向ける敵を、確実に殺しに行くために地面を踏み込んで仕掛けようとした瞬間、グラファは背を向けたまま声を発した。
さっきとは異なる声の発し方、まるで過去を思い出すような……
「あの2人はどれだけ離れていても忘れずにいた。
だがお前はどうだ。俺のことを本当に忘れたのか?」
奴は何を言っているのだ……。
さっきも同じようなことを……。
「本当に? 本当にか? 本当に俺のことを忘れたのか?」
「言ったはずだ。我は貴様のことなど覚えていないと」
「……そうか。残念だな。俺の力には誰も抗うことはできないか」
「貴様はさっきから何を――」
「思い出せないのなら仕方がない。俺が思い出させてやる。また絶望に暮れるがいい」
そしてグラファは振り返り、カロスに向けて腕を前に出すと、どこまでも透けるような一つの石を取り出した。
その石を見た途端、カロスは今までにないほどの衝撃を受けた。
「さぁ、思い出せ。絶望の記憶を引き出せ」
「その石は……」
なぜ奴が持っている……?
あの石は、カロス様の前の魔獣の王の石だぞ……。
それなのに何故あいつが……!
……っ!
なんだ……?
この謎の違和感は。
前にも同じような状況になった気がするぞ……。
魔獣の王を失って、そしてふらふらと彷徨い……我は……。
自分の腹を刺した人物の顔を見ながら、口に溢れる血を垂らしながら言葉を発した。
だが、返事が返ってくる様子はない。
「何で俺たちを攻撃するんだよ!」
「仲間じゃねぇのかよ!」
周りを見渡せば、彼方此方あちらこちらで怒声が飛びかっていた。
仲間に攻撃をされたのは、この者だけでは無かった。
突然、後ろから背中を斬られる者。
首を刎ねられる者。
斬られるギリギリで気付き、なんとか自分の剣で攻撃を受け止めた者。
なぜか仲間に攻撃されるという現象が一斉に発生し、兵士達はすでに取り返しのつかないほどの混乱に陥っていた。
「クフフフ……。素晴らしいですねぇ。人数がいればいるほど面白くなる」
「テメェ何しやがった!」
どこからか声が聞こえ、ゼーラは笑みを浮かべたまま答える。
「いいでしょう。教えて差し上げます。私は貴方達のお仲間を支配させて戴きました。私に対する恐怖や、先程の仲間同士の言い合いで生まれた怒り。そこに私の影・が侵食していったのです。さぁ、私からのプレゼント、是非堪能して下さい。クフフフ……」
ゼーラは侵食を止める様子はなく、ただただ仲間同士で殺し合う光景を楽しんでいた。
「おいおい、お仲間を置いてどこいってたんだよ~?」
「ヴァミアは仲間ではない。勘違いをするな」
リウス達のところから戻った後、カロスはまたヴァミアに加わって戦闘を始めたが、戦況は一向に良くなる気配はない。
傷を治してもらい、万全な状態になってもだ。
一体どうすればコイツに勝てるのだ……?
指を鳴らせば一瞬で別の場所に移動することが出来る。
これでは真正面から攻撃したら、ほとんど躱されてしまう。
どうにかしてコイツに勝つ方法を……
「ヴァミア!」
「……?」
どこからか突然聞こえた声に、皆一瞬意識をその声の主に向けた。
「ミルマではないか」
その場にいる者の視線が一斉に集まり、そこにあったのは、もういないと思っていた妹を探すミルマの姿だった。
「兄……さん……?」
一度足りとも相手に向けて警戒を解かなかったヴァミアは、必死な顔で駆け寄るミルマを見て、全ての意識をそこに向けた。
「やっと……会えた……」
ヴァミアから火怒羅が消滅し、剣を地面に落としながら瞳から涙を流した。
「……」
完全に無防備なヴァミアを今攻撃すれば、グラファは間違いなく仕留めることが出来る。
それにも関わらず、なぜか2人の様子を真顔で見つめたまま攻撃をしようとしない。
あいつ……なぜ攻撃をしないのだ?
どう考えても今が絶好のチャンスのはず……。
だが、攻撃しないということは何か理由があるのか。
どちらのせよ油断しているグラファを、我が仕留めて仕舞えば――
「なぁ、氷結の白狼」
「なんだ……?」
背を向ける敵を、確実に殺しに行くために地面を踏み込んで仕掛けようとした瞬間、グラファは背を向けたまま声を発した。
さっきとは異なる声の発し方、まるで過去を思い出すような……
「あの2人はどれだけ離れていても忘れずにいた。
だがお前はどうだ。俺のことを本当に忘れたのか?」
奴は何を言っているのだ……。
さっきも同じようなことを……。
「本当に? 本当にか? 本当に俺のことを忘れたのか?」
「言ったはずだ。我は貴様のことなど覚えていないと」
「……そうか。残念だな。俺の力には誰も抗うことはできないか」
「貴様はさっきから何を――」
「思い出せないのなら仕方がない。俺が思い出させてやる。また絶望に暮れるがいい」
そしてグラファは振り返り、カロスに向けて腕を前に出すと、どこまでも透けるような一つの石を取り出した。
その石を見た途端、カロスは今までにないほどの衝撃を受けた。
「さぁ、思い出せ。絶望の記憶を引き出せ」
「その石は……」
なぜ奴が持っている……?
あの石は、カロス様の前の魔獣の王の石だぞ……。
それなのに何故あいつが……!
……っ!
なんだ……?
この謎の違和感は。
前にも同じような状況になった気がするぞ……。
魔獣の王を失って、そしてふらふらと彷徨い……我は……。
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