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57話 破壊
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「さあ、早く教えてくれよ。さもないと――」
「わかったわかった!教えるから!」
兵士は大量の汗を流しながら、自分の胸の前に手を突き出した。
なんだよ。
そんなに怯えるくらいなら俺を煽るようなことを言わずに、最初から教えろよ。
「じ、実は、先に攻撃を仕掛けに行った者から報告があったのです」
「どんな連絡だ?」
「はい、それがファイアーウルフはただの魔獣ではなく、人型魔獣だったと報告があったのです。それで国王様が、奴隷として使うから殺さないように捕獲しろ、と伝えられて作戦が殲滅から捕獲へ変更になったのです」
俺のいた国の王はそこまで腐っていたんだな。
奴隷として使うとか言いやがって……絶対に許せない……!
「ということは誰も殺していないということだな」
「はい」
魔獣の腕を人間の腕に戻すと、兵士は力が抜けたように座り込んだ。
「それにしても、マラオス王国の連中はやばいね。殺そうと思ってけど、利用価値があったので奴隷にしますってことでしょ?」
「本当にふざけている方達ですね。そんな方達は私たち覇獣士が潰してみせましょう」
「そういうことなら、この僕が王の首を取ってみせます」
おいおい、なんであいつらは勝手に話が進んでいるんだ?
まずはファイアーウルフ達の救出が先だろ。
「ちょっと話が進んでいるところ悪いが、先に救出を――」
「敵だーー!!!」
「なんだと!直ちに戦闘準備にかかれ!」
くそ!なんでバレたんだ!
すぐさま後ろを振り返って、力が抜けて座っている兵士の姿を確認した。
「お、俺は違います!」
だが、兵士は焦って首を左右に振った。
それにゼーラが後ろで見張っていたため、コイツが仲間に知らせたという可能性は低いだろう。
ということは、敵に俺たちを感知することのできる力を持っている者が居るのかもしれない。
「いたぞ!」
辺りで見張りを行なっていた兵士たちも、一斉にこちらに向かってきたのか、少しの間で敵に囲まれてしまった。
「おい!仲間が捕まっているぞ!」
「そいつを返せ!」
はぁ?
何が返せだよ。
先に奪ったのはお前達だろ……!
「いや待て!もしかしたらアイツは裏切り者かもしれない!」
「確かにな……! ここでこそこそしていたからな! おい! お前は一体敵に何を喋ったんだ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺は脅されていて――」
「とぼけるな! この付近は魔道士が見張っているんだ! それなのに敵が入って来れるわけはない! お前が誘導したんだろ!」
「だから俺は何も――」
「もういい。裏切り者に用はない」
続々と集まってきた兵士を押しのけて、竜の素材で作ったのか、赤く輝く鱗が見える弓を手にして、顎から長い髭を伸ばす兵士が現れた。
「マッド様! 俺は裏切り者ではありません!」
「黙れ」
マッドと呼ばれた男は、持っていた弓を構えると炎で作られた矢が突然現れて、俺たちに向けて放たれた。
だが、その炎の矢は俺たちに向けられた攻撃ではなく、仲間であるはずの兵士に向けられたものだった。
「マッド……さま……」
俺の後ろで倒れ込んだ兵士の腹には、眩しいほどに光る矢が突き刺さり、大量の血が冷たい地面に流れ出していた。
一体……どういうことだ……。
なんでこいつは仲間に殺されているんだ……?
「これで邪魔者は消えたな」
「邪魔者って……コイツはお前達の仲間だろ……?」
「仲間? 一体なんのことだ。そいつは敵に情報を漏らした裏切り者なんだ。そんなやつは仲間ではない」
俺はその言葉を聞いた途端、なぜか体が震え出した。
俺たちを囲う兵士たちに恐怖しているのではない。
矢を放った兵士に恐怖しているのではない。
俺が恐怖しているのは、仲間を簡単に裏切り者と決めつけて、そして簡単に殺す、そんなことが出来るやつ達の存在が怖い。
「お前に罪悪感は無いのか……?」
「なんのだ?」
「仲間を殺したことへの、罪悪感だ」
「はぁ、お前はまだ理解していないらしい。俺が殺したやつは、敵だ」
そうか……。
今俺の目の前にいる人間は、俺の知っている人間ではないらしい。
だから俺は……
「俺は、お前達が怖くて仕方がないよ」
「わかったわかった!教えるから!」
兵士は大量の汗を流しながら、自分の胸の前に手を突き出した。
なんだよ。
そんなに怯えるくらいなら俺を煽るようなことを言わずに、最初から教えろよ。
「じ、実は、先に攻撃を仕掛けに行った者から報告があったのです」
「どんな連絡だ?」
「はい、それがファイアーウルフはただの魔獣ではなく、人型魔獣だったと報告があったのです。それで国王様が、奴隷として使うから殺さないように捕獲しろ、と伝えられて作戦が殲滅から捕獲へ変更になったのです」
俺のいた国の王はそこまで腐っていたんだな。
奴隷として使うとか言いやがって……絶対に許せない……!
「ということは誰も殺していないということだな」
「はい」
魔獣の腕を人間の腕に戻すと、兵士は力が抜けたように座り込んだ。
「それにしても、マラオス王国の連中はやばいね。殺そうと思ってけど、利用価値があったので奴隷にしますってことでしょ?」
「本当にふざけている方達ですね。そんな方達は私たち覇獣士が潰してみせましょう」
「そういうことなら、この僕が王の首を取ってみせます」
おいおい、なんであいつらは勝手に話が進んでいるんだ?
まずはファイアーウルフ達の救出が先だろ。
「ちょっと話が進んでいるところ悪いが、先に救出を――」
「敵だーー!!!」
「なんだと!直ちに戦闘準備にかかれ!」
くそ!なんでバレたんだ!
すぐさま後ろを振り返って、力が抜けて座っている兵士の姿を確認した。
「お、俺は違います!」
だが、兵士は焦って首を左右に振った。
それにゼーラが後ろで見張っていたため、コイツが仲間に知らせたという可能性は低いだろう。
ということは、敵に俺たちを感知することのできる力を持っている者が居るのかもしれない。
「いたぞ!」
辺りで見張りを行なっていた兵士たちも、一斉にこちらに向かってきたのか、少しの間で敵に囲まれてしまった。
「おい!仲間が捕まっているぞ!」
「そいつを返せ!」
はぁ?
何が返せだよ。
先に奪ったのはお前達だろ……!
「いや待て!もしかしたらアイツは裏切り者かもしれない!」
「確かにな……! ここでこそこそしていたからな! おい! お前は一体敵に何を喋ったんだ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺は脅されていて――」
「とぼけるな! この付近は魔道士が見張っているんだ! それなのに敵が入って来れるわけはない! お前が誘導したんだろ!」
「だから俺は何も――」
「もういい。裏切り者に用はない」
続々と集まってきた兵士を押しのけて、竜の素材で作ったのか、赤く輝く鱗が見える弓を手にして、顎から長い髭を伸ばす兵士が現れた。
「マッド様! 俺は裏切り者ではありません!」
「黙れ」
マッドと呼ばれた男は、持っていた弓を構えると炎で作られた矢が突然現れて、俺たちに向けて放たれた。
だが、その炎の矢は俺たちに向けられた攻撃ではなく、仲間であるはずの兵士に向けられたものだった。
「マッド……さま……」
俺の後ろで倒れ込んだ兵士の腹には、眩しいほどに光る矢が突き刺さり、大量の血が冷たい地面に流れ出していた。
一体……どういうことだ……。
なんでこいつは仲間に殺されているんだ……?
「これで邪魔者は消えたな」
「邪魔者って……コイツはお前達の仲間だろ……?」
「仲間? 一体なんのことだ。そいつは敵に情報を漏らした裏切り者なんだ。そんなやつは仲間ではない」
俺はその言葉を聞いた途端、なぜか体が震え出した。
俺たちを囲う兵士たちに恐怖しているのではない。
矢を放った兵士に恐怖しているのではない。
俺が恐怖しているのは、仲間を簡単に裏切り者と決めつけて、そして簡単に殺す、そんなことが出来るやつ達の存在が怖い。
「お前に罪悪感は無いのか……?」
「なんのだ?」
「仲間を殺したことへの、罪悪感だ」
「はぁ、お前はまだ理解していないらしい。俺が殺したやつは、敵だ」
そうか……。
今俺の目の前にいる人間は、俺の知っている人間ではないらしい。
だから俺は……
「俺は、お前達が怖くて仕方がないよ」
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