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52話 王

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 「どこも怪我してない?」
 「ああ、どこも怪我はしてないよ。ミミィは大丈夫か?」
 「……うん、大丈夫だよ」
 「……ならよかった」
 
 なんだかミミィの元気がないように感じる。
 でも無理も無いだろう。
 色々なことが一気に起こったからな。
 
 「ミミィにちょっと聞きたいことがあるんだけど」
 「なにぃ?」
 「実は、ミミィのお父さんにも用があるから案内してもらえないかな?」
 「お父様?お父様なら……」
 「娘を守ってくれたことを感謝する」

 急に横から声をかけられて顔を向けると、俺に跪いているムラルドルがいた。

 「娘って……ミミィの?」
 「そうだ」
 「ミミィって王の娘だから……もしかして獣人の国の王?」
 
 ムラルドルは下を向いたまま黙って頷いた。

 「は?じゃあずっと王を探してるって言ってたのに黙っていたってことか?」
 「相手の目的が何かを知るために黙っていた」

 じゃあ俺とゼーラはずっと、獣人の国の王と言い合いをしていたってことか。
 結構すごいことやっていたんだな。

 「ていうか頭を上げてくれよ。俺もミミィと会えて良かったと思ってるし」
 「そう思ってくれるなら助かる」
 「それに、どちらかと言えば俺たちの方が謝罪しないといけないだろ?建物や兵士を傷つけたんだし」
 「いや、こちらの対応も悪かった。何も説明せず、急に連行したことがこうなった原因でもある」
 「でも兵士達を傷つけたことに違いはないからな」

 前に立つムラルドルから目線を外して、俺が腹を殴った兵士の方へ向かった。

 「さっきはすまなかったな。腹を殴ったりして」
 「やめてくれ。ミミィ様の命の恩人にそんなことをさせられない」
 「命の恩人って……」
 「それに獣人だから人間に比べれて治りも早い。だから気にすることもないさ」
 「そう言ってもらえて助かるよ」

 とにかく丸くおさまってよかった。
 これ以上大きな騒ぎになっていたら、とりかえしがつかなかったかもしれないからな。

 そのあと、この国の王であるムラルドルに場所を移して話そう、と言われ王宮へと向かった。




 王宮の中に入ったと、会議室のような場所で話をすることにした。
 会議室にいるのは俺とゼーラ、ムラルドルに俺を殴った女の四人だ。
 四人が席に座ったのを確認すると、ムラルドルはまた俺に向かって礼を言った。
 
 「ミミィのことを改めて感謝する」
 「当たり前のことをしただけだ。ムラルドル様、質問してもいいか?」
 「様付けなんてやめてくれよ。呼び捨てでいい」
 「わかった。なら俺のこともリウスって呼んでくれ。それで質問なんだが、さっき俺を殴ったやつは何者なんだ?獣人でもないだろ?」
 
 この女はありえないぐらいの戦闘能力を持っている。
 目で追えない程の高速移動に、辺りの建物を空気のみで破壊する攻撃力。
 それにゼーラまでも一瞬で無力化してしまう。
 どう考えても只者ではないだろうな。

 「そうだな。こいつは獣人ではない」
 「なら何者だ?」
 「リウスはこの世界に魔王が四体いるのは知っているよな。こいつはその魔王達の一体だ」

 は?魔王……だと……。
 こいつは上の方の存在だとは思っていたが、まさか魔王だとは……。

 「その通り!私は魔王、グーレ・マーだ!」

 魔王の一体、グーレ・マーは座っていた椅子から勢いよく立ち上がると、腕を高々と突き上げて声を上げた。

 「まあ、自己紹介はこれで終わりだな」
 「まだ私は名乗って――」
 「こいつの名前はゼーラだ。敵に召喚されてその後仲間になった。よし、これで終わりだ。なら話を続けよう」
 「あぁ……」

 すまないなゼーラ。
 今、魔王が目の前にいて少しややこしくなっているのに、お前が話すとさらにややこしいことになるんだ。
 だから許せ。
 
 「それで俺にしたかった話というのはなんだ」
 「ああ、何でここに魔王がいるのかが気になるが、その前にマラオス王国のことを話しておきたい」
 「マラオス王国……」
 「そうだ。それでマラオス王国はこの国、獣人の国に戦争を仕掛けようとしている」
 「あいつらの言うことは本当のことだったのか……」
 
 あいつらってエンファ達のことなんじゃないか?
 それにしても、ミミィとは会えたのにエンファ達とは会えないな。

 「実はミミィと一緒に来た者たちからその話を聞かされてな」
 
 やっぱり、エンファたちのことだな。

 「もしかして、エンファって名乗ってなかったか?」

 やはり知っているのか、俺がそう言った途端に驚いたような表情を見せた。

 「知っているのか?」
 「まあ……出会いは良くなかったけど、今はもうなんともないな。確かファイアーウルフたちもいたんじゃないか?大勢いただろうけど、どうしたんだ?」
 「大勢?」

 今の俺の話におかしなことがあったのか、なぜかムラルドルは顔を顰めると急に真剣な表情になった。

 「大勢と言ったがおおよそ何人くらいだ?」
 「そうだな。確か500人ぐらいはいると思うが、それがどうかしたのか」
 「……ついてきてくれ」
 
 何か嫌な予感がする。
 頼むから皆んな無事でいてくれよ……。

 
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