上 下
22 / 93

21話 豪炎

しおりを挟む
 カロスは飛んでくる炎の槍を、氷の槍で迎え撃ち消滅させた。

 ふむ、我の氷の槍と炎の槍が相打ちになるとはな。我が本気で作っていないにしろすごい力だ。

 もしかしたらコイツがそうなのかもしれない……。

 「では勝手にだが確かめさせてもらう!」

 カロスはミルマの周りを目視できるギリギリの速さで走ると何か空中にをばら撒き始めた。

 「これは一体……!」

 ミルマは空中に漂うものに警戒をすると、素早く防御体制になった。

 「火怒羅ひどら・守」

 すると、ミルマの背中から赤くどろっとした何本もの触手が出現し、ミルマを包み込んだ。

 「炎を放出せず体内で圧縮し、物体を生成し防御に徹するということか?だがそれでは我の攻撃を防ぐことはできないぞ」

 カロスの攻撃の影響によりあたりの気温か一気に下がり、息を吸えば肺が凍るほどの寒さになった。

 「氷桜」

 直後、空中に漂っていたものが、急速に回転を始めた。

 「それは我がばら撒いた細かい氷だ。それを回転させることにより触れただけでその部分を切り落とすほどの威力になる。小僧、氷だからといって甘く見るなよ」

 空中で高速に回転し、刃のように変化していった氷はミルマを覆う火怒羅を襲っていった。

 「ちょ!?これ死んじゃうって!!!」

 赤い触手が次々と切断されていき、中にいたミルマが見えるほどになった。

 「火怒羅・攻!」

 ミルマがそう叫ぶと、刻まれていった触手が一つの塊になっていき、赤い体を持つ巨大な大蛇に変化した。

 「そうか、さらに形を変えるか」

 大蛇に変化した触手は細かい氷の刃を喰らっていき、空中から次々と消し去っていった。

 「ほう、まさか我の氷桜を喰らってもなにも影響がないとは。だがな……」

 大蛇は刃を喰らって空中を這っていき、首が切断された。

 「な……!?」

 ミルマから出現した触手は、首を切られたことのより崩壊していき、姿を消した。

 「なんで急に首が……」

 なにが起こったのか理解ができず、ミルマは呆然と立ち尽くした。
 
 「お前は勘違いをしていたようだ」

 「勘違い?」

 カロスはミルマの側まで近づくと、今なにが起こったのか説明を始めた。

 「そうだ。我が使った【夜桜】という技はただ高速に回転し、刃のようになるわけではない」

 「……?」

 「氷はどんなものにでも形を変えることができる。だから目視できないほどの大きさにし、それを連結させる」

 カロスの説明を聞くなり、段々とミルマ表情を変えていった。

 「そしてそれを細かく振動させ……」

 「それで火怒羅の首を切断した……ということですか……?」

 それを聞くなりミルマは下を向き、暗い声で話し始めた。

 「俺には妹がいるんです。いや……いたんです。俺なんかよりも圧倒的に強くて、火怒羅をうまく使いこなせていました。妹だったらもしかしたらカロス様ともっといい勝負が出来ていたかもしれません……。妹は強かったこともあり、この村の付近に人間が近づくたびに、この村を守るものとして戦いに行っていました。でも……」

 少し離れた場所で戦いを見ていたフェイは、静かにミルマの隣に歩みを寄った。

 「でも、ある日……妹は……冒険者に殺されました……。でも俺が実際に見たわけではありません。他にその場にいた仲間からの報告で知りました。ファイアーウルフはあまり個々が強いわけではないので陣形を組んで戦います。ですが妹は何故か強かったので他の仲間が隣で陣形を組んで戦うなかで、単独で戦っていました。でもそれが原因で上位の冒険者と遭遇してしまった時に対処することができず……そいつに妹は殺されました……」

 ミルマの目から涙が滲み出て、頬を伝って地面に落ちた。

 「なぜなのでしょうか……。なぜ……妹は殺されなければならなかったのでしょうか……。なぜ誰も妹を助けてはくれなかったのでしょうか……。なぜ俺は……俺は弱いのでしょうか!!!」

 ミルマは濡れた顔を上げ、涙が溜まった目でカロスを見た。

 「お前は強い」

 「俺は強くなんかないですよ……」

 「だがお前は我と戦うことができた。だからお前は強い」

 「俺は強くなんかない!!!大切な存在を……家族を……守りたい存在を守ることができない力なんて……なにも強くない!!!」

 「ミルマ……」

 フェイは瞳に涙を浮かべ、何かを悔やむような顔をして拳を握った。

 「なんで……俺は火怒羅が使えてしまうのでしょうか……。もし俺に、この力が使えなかったらこんな思いをしなくてよかったかもしれない。俺は弱いから仕方がなかった、って俺自身に言い聞かせることが出来たかもしれない。でも……俺は妹と同じ力を使うことができた。それなのにも関わらず、俺が弱かったせいで妹と同じ場所に立てずに、守ることができなかった!!!だから俺は……強くなんかありません……」

 ミルマはそう言い切ると強く拳を握り、手から血を流した。

 「ミルマよ……」

 カロスは突然口を開くと、空中に2メートルはある数本の氷柱を出現させた。

 「我ともう一戦だ」

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...