上 下
3 / 93

3話 恐怖と勇気

しおりを挟む
 「じゃあ行くぞ」

 「ワン!」

 俺たち...と言っても人間一人と犬一匹だが、さっき簡単な採取クエストを受注してきた。

 クエストの内容は“マキキノコを十本収穫”という内容だ。実に簡単な内容だ。

 マキキノコは森の奥にしか生えていないが、ちょうど魔獣の出没エリア外だ。

 つまり場所も最適だ。

 このクエストを達成したら二日分の食料を手に入れられるだけの報酬が手に入る。

 「よし、頑張るぞ!」

 「ワオ、ワウォーーーーーン!!!」










 

 「よっしゃーー!これで七本目!」

 「ワンワン!」

 「お!そっちにもあったか!」

 今俺たちは森の中でマキキノコの採取を行っているのだが、なんとも幸運なことが起こった。

 なんとカロスはマキキノコを匂いで見つけ出すことができるのだ。

 「本当に助かるな!」

 「ワン!」

 俺が褒めるとカロスは尻尾がちぎれそうなほどの勢いで振っている。

 今頃なんだけどなんでこんなに俺に付き纏うのだろうか?俺って動物に好かれや...

 「ウゥゥゥゥ~~ワンワン!!!」

 「ん?どうした?」

 俺の後ろにいたカロスを見ると向こうの茂みを見ながら吠えていた。さらにただ吠えるだけでなく威嚇までしていた。

 「何かいるのか...?」

 俺は恐る恐る、茂みに近寄って何がいるのか確かめてみることにした。
 
 「ウゥゥゥゥ~~」

 「わかったから落ち着けって」

 俺は唸るカロスを落ち着かせようとして後ろを向き声をかけた。
  
 そしてカロスが唸る原因を確かめようともう一度前を向いたとき、“そいつ”と目があった。

 「ッッ!!!」

 俺は急いで体を反転させてカロスを抱き抱えた。

 「逃げるぞ!」

 俺はカロスを抱いたまま全力で森の中を駆け抜けた。

 「なんでだよ!なんでだ!なんであいつらが...!」

 「グガァァァァァァァァァァ!!!」

 俺の疑問に答えるかのように“アイツ”は雄叫びを上げた。

 「なんでだ!ここは出没エリア外のはずだ!なのにどうして“ファイアーウルフ”がここにいるんだよ!!」

 ファイアーウルフ、それは火を操る魔獣。

 体が赤く光り、まるで奴ら自身が火のような体をしている。

 並の冒険者なら軽い怪我を負うかもしれないが、特に問題のないぐらいのレベルである。

 一匹だけなら、の話だ。

 ファイアーウルフは知性が高く自分たちが弱いと理解している。

 そのためほとんどの場合が群れで生活している。

 どれだけ弱くても数がいればたまったもんじゃない。数の暴力というものだ。

 「グガァァァァァァァァァァ!!!」

 「ワウォォォーーーーーン!!!」

 さっきの雄叫びに反応して他のファイアーウルフも雄叫びをあげだした。

 多分仲間に集合をかけているのだろう。

 やばい...!こいつらに囲まれたらもう終わりだ!

 俺は剣術をほとんど使うことができない。

 さらに言えば魔法もほとんど使うことができない。

 「なんで俺は戦闘に役立つ魔法を一つも使えないんだよ!」

 「グガァァァァァァ!!!」

 俺はすでに後ろも左右もファイアーウルフに囲まれていた。

 「やばいやばいやばい...!」

 もっと速く...もっともっと...ッッ!?

 俺は周りに意識をとられすぎて足元が良く見えてなかったらしい。

 大きな石につまずき、派手に地面を転がった。

 「グガフッッ!!」

 地面を転がるたびに体を走り抜ける痛みのせいで口から変な声が発生した。

 勢いがありすぎて転がり続け、ようやく止まった場所は森の開けた場所だった。

 「だい...じょうぶ...か?」

 俺は痛みのせいで言葉にならないような声で胸に抱いていたカロスに話しかけた。

 「クゥゥ~ン...」

 よかった。俺は石に躓いて転がる瞬間に急いでカロスを胸に抱き庇った。

 カロス少し怪我を負っているが軽傷のようだ。

 「さあ...早く逃げるんだ...。あいつらが来る前に...」

 「グルルルルッッッ!!!」

 「グガアッッ!グガッッッ!!!」

 しかし時はすでに遅かった。

 俺たちは何十匹にも及ぶ数のファイアーウルフに囲まれてしまった。

 考えろ...考えるんだ...!今の俺に何ができる...!このボロボロの俺に何が...!

 どうにかしてカロスだけでも...!

 そうだ...!

 「カロス!よく聞くんだ。今から俺は囮になって向こう側まで走る。ファイアーウルフの注意が俺に向いてる間に俺が走った反対側に走るんだ。わかったな」

 「クゥゥ~ン...」

 「お前ならきっとできる。もしかしたら俺が抱いて走るよりもカロスが単独で走った方が逃げれたかもな。」

 俺は怖くて強張りそうな顔を必死で笑顔に変えて冗談を言った。

 「じゃ、ちょっくら囮になってくるぜ」

 俺は痛みで悲鳴を上げる体を無理矢理立ち上がらせて、右手を高く空に突き上げた。

 「俺を喰えるもんなら食ってみろぉぉぉーーーーー!!!!」

 俺の声に全てのファイアーウルフの注意がこっちに向いた。

 「クッ!」

 俺は恐怖で体固まりそうになるのを脳が拒否し、代わりに全力で走れという命令が脳から体に伝わった。

 「こっちにこいやぁぁぁぁーーーーー!!!」

 「「「グガァァァァァァァァァァ!!!!」」」

 「今だ!逃げろーー!!!」

 俺の声が届いたのかカロスは俺と反対側に走りだした。

 そうだ...それでいい...

 カロス、お前とは本当にちょっとしか一緒に過ごさなかったけど...今までで一番楽しい時間だったよ。

 次は俺みたいな貧乏人に近づかずにもっとお金持ちに近づけよ...じゃあな...。

 俺にあっという間に追いついてきたファイアーウルフたちが一斉に飛びかかってきて、俺に牙を向いた。

 もうすぐくるであろう強烈な痛みに備えるべく強く目を瞑った。

 「グワァァァァァァァァァァーーーーー!!!」

 しかしいくら待てどその痛みは襲ってこなかった。

 俺は何が起こったのか恐る恐る目を開けると俺を襲おうとしていたファイアーウルフは俺を襲うのを急遽やめ、ファイアーウルフたちの何十倍もの雄叫びを上げる方へと視線を向けていた。

 俺もファイアーウルフたちと同じ場所に視線を向けた。

 そして今度こそ俺の体は恐怖で動かなくなった。

 俺の視線の先には、体毛が綺麗な銀色で覆われ、周りが凍るほどの冷気を放っている狼がいた。

 それもただの狼ではない。

 体長が十メートル、高さが五メートルにも及ぶ巨大狼が俺の前に姿を現していた。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

討伐師〜ハンター〜

夏目 涼
ファンタジー
親の勧めで高校進学を黒主学園に決めた増田 戒斗。 しかし、学園に秘密があった。 この学園は実は討伐師になる為の育成学校という裏の顔があったのだ。何も知らずに入学した戒斗が一人前の討伐師になる為に奮闘するストーリー。 「小説家になろう」にも掲載作品です。 

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

召喚勇者は魔王と放浪する事になりました。

いけお
ファンタジー
異世界に召喚された勇者と目の前に立ちふさがった筈の魔王との放浪生活。 発端はこの魔王が原因だった!? 行き当たりばったりで話は進んでいきますが、ご容赦ください。

処理中です...