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9話 強い人間と弱い人間

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 「まさかお二人だけでクリアされるとは……流石勇者様ですね」

 受付の人にクエストを達成した紙を渡しに行き、報酬を貰った。
 これほどの報酬は、今までに貰ったことがない。
  
 だが、俺は何もやってない。
 ただあの場に立って、見ていただけ。
 神の行いを、見ていただけなのだ。
 
 「全く……晩飯になると思ったが、すっかり夜じゃねぇか」
 「解体作業に時間かかったからな」

 グリールを倒した後、希少部位と食べることが出来そうな部位を切り取り持ってきたが、その作業が結構時間がかかってしまった。
 それに、あの長い帰り道を帰っていたら、遂に夜になってしまったのだ。

 俺たちは付いてしまった血を洗い流すために、風呂屋に向かった。
 流石に、服も体もこのままで宿に戻るわけにはいかない。

 ジューザラスの付いた血と、俺が付いた血。
 付いた血は同じでも、なぜか違うように見えてしまう。





 「いやぁ。さっぱりしたな! 人間の世界の風呂は最高だぜ」
 「向こうと違うのか?」
 「あったりまえだろ。向こうの風呂は最悪だ。本当に風呂かって疑っちまう」
 「そうか」

 夜の人通りは本当に少ない。
 昼間の賑やかさが嘘のようだ。
 どの家の明かりも消えて、暗くなっている。
 グラ達も寝たのだろうか。

 俺は握っている大きな袋を見た。
 この袋の中には、50万セリン入っている。
 これは俺達の報酬金ではない。
 ジューザラスの報酬金だ。
 勇者の俺は、ただ自分の弱さを恨んでいただけだ。
 こんな俺を、雑用に使いたくなるドラウロの気持ちもわかるような気がする。

 「なぁ、ジューザラス」
 「あ? なんだそんな深刻な面して」

 マジかよ。
 俺、今そんな顔してんだ。

 「俺を強くしてくれないか」
 「はぁ? お前を強くするだと? てねぇ、勇者だろ。それ以上強くなってどうすんだよ」

 確かにこれ以上強くなってどうするのか。
 ジューザラスみたいに、凶悪な魔物を倒したいから?
 ドラウロみたいに強くなって、民衆にもてはやされたいから?
 グラのように、死にそうな誰かを助けたいから?
 
 否、否、否。
 全て否。

 俺は……。

 「俺は誰かに助けられてばかりだ。ハーシュに助けられて、グラに死にそうなところ助けられて、ジューザラスにはグリールを討伐してもらって、報酬金を手に入れられることが出来た」

 俺は自分で何もすることが出来ない。
 ただ、勇者という称号を持っている弱い人間だ。
 冒険者より技量はあっても、人間として俺は弱い。

 「俺は自分を変えたいんだ。助けてもらうばかりじゃなくて、誰かを助ける側になりたい。そして、感謝を伝えたい」

 俺はどうして冒険者になろうと思った?
 勇者に選ばれた時、俺はどう思った?

 「人間は強い冒険者になろうと思えばなれるし、強い勇者になろうと思えばなることが出来る。だけど、俺は強い冒険者よりも、強い人間になりたい」

 俺の話をしばらく黙って聞いていたジューザラスは、どこか見ながら呟いた。

 「そうか」
 「ああ」

 弱い人間は……もうやめだ。

 「いいぜ。お前を強い人間にしてやる。だがなぁ、やるのは俺じゃねぇ」
 「え?」
 「俺の部下だ」
 
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