半妖の陰陽道(覚醒編)~無能と言われた少年は、陰陽師を目指し百鬼夜行を率いる~

高美濃 四間

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第七章 波乱の予感

極限のイカズチ

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「――ぐあぁっ!」

 龍二は全身水浸しになって、勢いよく暗がりの地面を転がる。
 ひとけのない路地裏へ連れて行かれるなり、水術を叩きつけられたのだ。
 雷紋が水術を突然至近距離で放ち、龍二はなんとか障壁の展開に間に合ったが、それでも圧倒的な呪力に破られ吹き飛ばされた。
 彼は咳き込みながらも立ち上がり、雷紋をにらみつける。

「……いったい、なんだって言うんですか!?」

「黙れ、お前はここで滅する」

「いきなりしかけてきて、ふざけるな! 俺は悪しき妖なんかじゃない! 半妖だ!」

「半妖だろうと、妖は妖だ。滅することに変わりはない」

 雷紋はさげすむような表情に冷たい声で告げ、新たな呪符を取り出す。
 すると、彼の背後で成り行きを見守っている二人の陰陽師のうちの一人が告げる。

「ら、雷紋局長、これはやりすぎでは?」

「うっせぇ、黙って見てろ」

 雷紋は眉をひそめ振り向かずに吐き捨てると、水術を放ってきた。
 龍二も障壁を目の前へ展開する。
 しかし水術の威力は強烈で、無数の細い水弾がいとも容易く障壁を破る。

「がはっ!」

 障壁を貫いた水弾は次々龍二の全身へ打ち付けられ、水撃の雨が止むと同時に膝を地面へ落とす。
 今までに見た桃華や貴船の水術とはあまりにも桁が違う。
 ほんの一瞬で龍二の周囲は水浸しになっていた。
 龍二は肩で息をしながらも顔を上げ、冷徹に見下ろしてくる雷紋をにらみつけた。
 
「どうして、こんなことを……俺は陰陽庁に滅されるようなことはなにもしていない……これは違法じゃないんですかっ!?」

「俺はただ、悪しき妖を滅した。それだけだ。その真偽を確かめる必要など、ありはしない」

 雷紋は眉にしわを寄せ激情を抑えながら告げると、ジャケットから形代を取り出した。
 契約術式……次で決めるつもりだ。
 そのとき、なにかに気付いたのか後ろの陰陽師が呟く。

「銀髪に紅い瞳、そして黒い刀を背負った少年……雷紋局長、もしかすると彼は……」

「……なるほどな、このガキが例の半妖か。それなら、なおさら滅さないといけないな」

 彼らは龍二の正体に気付いたようだ。
 だがそれでも、雷紋は愉快そうに口の端をつり上げ形代に呪力を込め始めた。
 龍の血を継ぐ半妖だから、危険な存在だから、滅するつもりか。
 龍二は突然叩きつけられた理不尽に憤りいきどお、拳を握りしめる。

「式装顕現『迅雷装填じんらいそうてん』」

 次の瞬間、雷鳴が轟くと共に雷紋の全身から雷が迸った。
 彼の纏う雷は周囲の空間を焼き、眩い黄金の雷光を放ちながら波打っている。
 同じ雷の式神を扱う龍二には分かる。
 極限の領域にまで達し、雷を完全に制御化へ置いた術だ。
 その迫力に戦慄するが、今は呆けているヒマはない。

「くっ、天より高覧せし大いなる対極よ――」

「妖が陰陽師の真似事など、図に乗るなよ」

 雷紋は全身に纏う雷を己の右腕へと集中させ、雷光に輝く拳を地面へ叩きつける。
 水術によってできていた水溜まりが弾け、電撃が水面を走り龍二へ迫った。
 障壁の展開をしている隙など、許してはくれない。

「っ! ぐわぁぁぁぁぁっ!」 

 水を伝った電撃は龍二の全身を焼く。
 一瞬で焼き焦がされた彼は、激痛に絶叫しどさりとその場へ倒れ伏した。
 体からはもくもく煙が上がっており、その威力を物語っていた。

「……なに?」

「くっそぉ……」

 一度は倒れたものの、龍二はうめきながらもまだ起き上がろうとする。
 その姿を見て、雷紋は目を見開いていた。
 そして不敵な笑みを浮かべ、新たな形代を握りしめる。

「さすがに妖は頑丈だな! 式術開放『天業雷てんごうらい』!」

 形代を放つと同時に、眩い雷光が生まれた。

「っ!」

 とてつもない熱量。
 まるで、雷を極限まで収束したレーザー。
 その威力は、先ほどの電撃とは比べようもない。
 敵を焼き滅ぼさんとするその一撃は、無慈悲にも龍二へ迫るが、彼も形代を放っていた。

「……式術開放……『雷滅砲』!」

 極大の電撃は宙で激突し、視界は白一色に。
 余波は四方八方へ飛び火し、すべてを焼き尽くす。

 陰陽師たちは慌てて障壁を展開して被弾を防ぐが、雷紋は再び全身に雷を纏うことですべてを無効化していた。 
 視界が明けると、龍二は激しく息を切らせているものの、なんとか膝を立て雷紋を睨みつけていた。
 それを見た陰陽師たちが驚愕に目を見開く。
 
「バカな……いくら加減していたとはいえ、雷紋局長の術を相殺するなんて……」

「まさか、式神と契約しているなんて……それも、とんでもない力だ」

「ごちゃごちゃうるさいぞ」

「「っ!」」

 雷紋がいらただしげに告げ、ギロリと睨みつけると、二人は顔を青くして口を閉ざした。
 そして彼の怒りの矛先は龍二へと向けられる。

「雷の式神だとぉ? ふざけやがって」

 感情の爆発に呼応するかのように、彼の周囲で稲妻が弾け雷鳴を響かせる。 
 龍二は片膝を立て、立ち上がろうとするも力が入らない。

「妖ふぜいが陰陽師の真似事など、虫唾むしずが走るんだよ!」

「違う! 俺は半妖だ!」

「なおさらたちが悪い! 半妖ってのはな、人のように振舞っておきながら、平気で人を裏切る悪しき妖の名だ!」

「ふざけるな! そんな事実、ありはしない!」

「現にあったんだよっ! だから俺は、半妖だろうと容赦しない!」

 雷紋の叫びには、剥き出しの感情が乗っていた。
 激情を理性的に抑えていた先ほどまでとは明らかに違う。
 だが、そんなことを今気にしている場合ではない。
 
「来たれイカヅチ」

 雷紋は再び全身に迸る雷を纏い、駆け出していた。
 急速に龍二へ接近し、自らの手でトドメを刺すつもりか。

「くそぉっ!」

 龍二が覚悟を決めた、そのとき――
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