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第六章 妖の善悪
犬猿の仲?
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「――そろそろ決着をつけませんか?」
「はっ、望むところだ!」
桃華は腰のポーチから形代と呪符を取り出し、修羅は背の大太刀を納刀したまま構えた。
「式神招来『銀狼』!」
「式装顕現『焔刀・罪火』!」
白銀の狼が地を蹴り凄まじいスピードで修羅へ肉薄。
修羅は冷静に、炎を纏った鞘で薙ぎ払った。
銀狼が灼熱の一閃の間合いから飛び退くと――
「土術!」
地面へ放った呪符から土の足場が伸びる。
銀狼はそこへ着地した。
さらに土の塊は銀狼を乗せたまま修羅へ伸びる。
「ちぃっ!」
炎の斬撃がそれを薙ぎ払うが、銀狼は既にいない。
「なに!?」
直撃の寸前で跳び上がっていた銀狼は、修羅の頭上にいた。
しかし、このままでは今度こそ逃げ場はない。
「水術!」
桃華は間髪入れず、数枚の呪符を放っていた。
高威力の水鉄砲が連続して修羅を襲う。
修羅は忌々しげに舌打ちしながらも、太刀を左手に持ちかえ、呪符を握った右腕を横へ突き出す。
「界」
「このおぉぉぉ!」
透明な障壁へ、水の弾丸が激しく打ち付けられ、衝撃が走る。
障壁を維持するために、修羅の呪力が削られていく。
だが、銀狼さえどうにかできれば形勢は大きく変わるのだ。
修羅は障壁を維持しながらも、左の焔刀を頭上へと振り上げた。
「消え失せろ!」
「ギャウゥン!」
「なに!?」
修羅が驚愕に目を見開く。
炎の斬撃が白銀の毛皮を焼く直前、その小さな体に水弾が直撃したのだ。
銀狼は空中で押し飛ばされるも、地面へ激突する寸前で受け身をとってしっかりと着地した。
「ちっ、そういうことかよ」
「武戎くん、油断しましたね」
修羅は忌々しげに呟き、不敵の笑みを浮かべる桃華をにらんだ。
水術の連撃はただの陽動。
本来の目的は、水弾を当てて銀狼を逃がすことだったのだ。
以前戦ったときよりも、彼女は各段に腕を上げているのだと修羅は実感した。
「はっ、おもしれぇ!」
修羅は頬をつり上げ喜々として桃華へと駆け出す。
「もうあなたには負けません!」
桃華も水術で弾幕を張りつつ、修羅の背後の銀狼と挟み撃ちにする。
修羅は人間離れした身のこなしで銀狼の攻撃を避け、水術を焔刀で防ぎつつ急接近。
だが土術の壁が厚い。
さらに周囲で発動する土術が銀狼の足場となり、宙を自在に舞う。
「やるじゃねぇか」
修羅は小さな切り傷を作りながらも、息一つ乱すことなく立ち回っていた。
桃華は高い集中力を見せ、流れるような術さばきで相手の反撃を許さない。
あまりにもハイレベルな戦いに、塾生たちは唖然として言葉が出なかった。
龍二としてもなんだか誇らしい。
「あの二人、凄いね」
いつの間にか龍二の横に立っていたのは、貴船麗羅だった。
彼女は教室での硬い表情ではなく楽しそうに笑みを浮かべている。
思わぬ人物に話しかけられ、龍二は内心ドキッとした。
「あ、あぁ……二人は、塾生の中でもトップクラスの実力だから」
「そうみたいね。嵐堂さんの式神は分かるけど、武戎くんのはいったい……」
「閻魔だよ」
「え、えんま? それって……」
貴船は目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。
それも当然の反応だ。
式神が強力であるほど術者の力の証明となる。
地獄の閻魔大王と言えば、誰もが知るような空想上の存在だ。
かつて犬神に呪われた修羅は、憎しみと復讐にとりつかれ、仇を地獄に落とすという強く歪んだ願いを抱え続けていた。
だからこそ、生み出した式神にもその思想が反映された。
「驚いた……まさかこの塾に、こんな凄い人たちがいるなんて」
「そうだな。偶然に偶然が重なったみたいだ」
「でも、そんな凄い二人は、いったいを言い合っているの?」
「は?」
龍二は思わず気の抜けた声が漏れ、桃華たちのほうへ再び目を向ける。
すると、相変わらず激しい攻防を繰り広げているものの、場違いな叫び声が聞こえてきた。
「だいたいあなたはっ、年上の主に対して礼儀がなっていません!」
「はぁっ!? お前には関係ねぇだろうが!」
「大ありですよ! あなたが龍二さんのそばにいたいのならね!」
「てめぇ……」
龍二は頭を抱えた。
またいつものが始まったと。
どうやら桃華は、龍二へ対する修羅の態度がお気に召さないようだ。
本人は気にしていないし、龍の臣の頭首として威張るつもりもないのだが……
貴船がキョトンと首を傾げ再び聞いてくる。
「あなたの名前が挙がっているけれど、なにを言い合っているの?」
「さ、さぁ……」
頬を引きつらせながらも、とりあえずごまかすことにした。
「はっ、望むところだ!」
桃華は腰のポーチから形代と呪符を取り出し、修羅は背の大太刀を納刀したまま構えた。
「式神招来『銀狼』!」
「式装顕現『焔刀・罪火』!」
白銀の狼が地を蹴り凄まじいスピードで修羅へ肉薄。
修羅は冷静に、炎を纏った鞘で薙ぎ払った。
銀狼が灼熱の一閃の間合いから飛び退くと――
「土術!」
地面へ放った呪符から土の足場が伸びる。
銀狼はそこへ着地した。
さらに土の塊は銀狼を乗せたまま修羅へ伸びる。
「ちぃっ!」
炎の斬撃がそれを薙ぎ払うが、銀狼は既にいない。
「なに!?」
直撃の寸前で跳び上がっていた銀狼は、修羅の頭上にいた。
しかし、このままでは今度こそ逃げ場はない。
「水術!」
桃華は間髪入れず、数枚の呪符を放っていた。
高威力の水鉄砲が連続して修羅を襲う。
修羅は忌々しげに舌打ちしながらも、太刀を左手に持ちかえ、呪符を握った右腕を横へ突き出す。
「界」
「このおぉぉぉ!」
透明な障壁へ、水の弾丸が激しく打ち付けられ、衝撃が走る。
障壁を維持するために、修羅の呪力が削られていく。
だが、銀狼さえどうにかできれば形勢は大きく変わるのだ。
修羅は障壁を維持しながらも、左の焔刀を頭上へと振り上げた。
「消え失せろ!」
「ギャウゥン!」
「なに!?」
修羅が驚愕に目を見開く。
炎の斬撃が白銀の毛皮を焼く直前、その小さな体に水弾が直撃したのだ。
銀狼は空中で押し飛ばされるも、地面へ激突する寸前で受け身をとってしっかりと着地した。
「ちっ、そういうことかよ」
「武戎くん、油断しましたね」
修羅は忌々しげに呟き、不敵の笑みを浮かべる桃華をにらんだ。
水術の連撃はただの陽動。
本来の目的は、水弾を当てて銀狼を逃がすことだったのだ。
以前戦ったときよりも、彼女は各段に腕を上げているのだと修羅は実感した。
「はっ、おもしれぇ!」
修羅は頬をつり上げ喜々として桃華へと駆け出す。
「もうあなたには負けません!」
桃華も水術で弾幕を張りつつ、修羅の背後の銀狼と挟み撃ちにする。
修羅は人間離れした身のこなしで銀狼の攻撃を避け、水術を焔刀で防ぎつつ急接近。
だが土術の壁が厚い。
さらに周囲で発動する土術が銀狼の足場となり、宙を自在に舞う。
「やるじゃねぇか」
修羅は小さな切り傷を作りながらも、息一つ乱すことなく立ち回っていた。
桃華は高い集中力を見せ、流れるような術さばきで相手の反撃を許さない。
あまりにもハイレベルな戦いに、塾生たちは唖然として言葉が出なかった。
龍二としてもなんだか誇らしい。
「あの二人、凄いね」
いつの間にか龍二の横に立っていたのは、貴船麗羅だった。
彼女は教室での硬い表情ではなく楽しそうに笑みを浮かべている。
思わぬ人物に話しかけられ、龍二は内心ドキッとした。
「あ、あぁ……二人は、塾生の中でもトップクラスの実力だから」
「そうみたいね。嵐堂さんの式神は分かるけど、武戎くんのはいったい……」
「閻魔だよ」
「え、えんま? それって……」
貴船は目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。
それも当然の反応だ。
式神が強力であるほど術者の力の証明となる。
地獄の閻魔大王と言えば、誰もが知るような空想上の存在だ。
かつて犬神に呪われた修羅は、憎しみと復讐にとりつかれ、仇を地獄に落とすという強く歪んだ願いを抱え続けていた。
だからこそ、生み出した式神にもその思想が反映された。
「驚いた……まさかこの塾に、こんな凄い人たちがいるなんて」
「そうだな。偶然に偶然が重なったみたいだ」
「でも、そんな凄い二人は、いったいを言い合っているの?」
「は?」
龍二は思わず気の抜けた声が漏れ、桃華たちのほうへ再び目を向ける。
すると、相変わらず激しい攻防を繰り広げているものの、場違いな叫び声が聞こえてきた。
「だいたいあなたはっ、年上の主に対して礼儀がなっていません!」
「はぁっ!? お前には関係ねぇだろうが!」
「大ありですよ! あなたが龍二さんのそばにいたいのならね!」
「てめぇ……」
龍二は頭を抱えた。
またいつものが始まったと。
どうやら桃華は、龍二へ対する修羅の態度がお気に召さないようだ。
本人は気にしていないし、龍の臣の頭首として威張るつもりもないのだが……
貴船がキョトンと首を傾げ再び聞いてくる。
「あなたの名前が挙がっているけれど、なにを言い合っているの?」
「さ、さぁ……」
頬を引きつらせながらも、とりあえずごまかすことにした。
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