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第六章 妖の善悪
再戦の二人
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龍二がぼんやりと考えながらため息を吐いていると、渦中の貴船と一瞬目が合い、思考を現実へ戻された。
彼女はすぐに目線を前へ戻すが、やはり龍二に対してなにか思うところがあるようだ。
龍二が彼女を熱心に観察していると、横から声をかけられる。
「貴船さん、可愛いですよね」
「あぁ……って、桃華?」
なにも考えずあいづちを打った龍二は、ハッとして横を見る。
桃華がむぅと不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「ずっと貴船さんのことを見てましたね」
「え? い、いや……」
特にこれといった理由はなかったので、龍二はなんと言おうとかと口ごもる。
再び貴船のほうを見ると、彼女はまた質問攻めに対応していた。
「気になるんですか?」
「いや、なんでもないさ」
「ほんとですかぁ?」
桃華が目の前に回って顔を覗き込んで来る。
彼女も整った顔をしているので、龍二は気恥ずかしくなって目をそらす。
「ほんとだよ」
「もぉ、ちゃんと目を見て話してくださいよ!」
「それよりも、明日は摸擬戦の日じゃなかったか?」
龍二は疲れたようにため息を吐き、話をそらすことにした。
「へ? あっ、そういえば!」
「桃華は最近また腕を上げたって講師たちが言ってたぞ。陰陽術のお手本として、俺にも見せてくれよ」
「ふっふーん! 任せてください!」
桃華は得意げな顔で胸を張る。
しかし彼女には悪いが、龍二は貴船の実力のほうが知りたいと思っていた。
翌日、いつも通り陰陽庁の演習室で摸擬戦が行われた。
担当講師が時雨であれば、龍二の鍛錬の成果を確かめるために問答無用で指名してくるが、今はいないため龍二は気を抜いていた。
塾生たちが緊張の面持ちで壁際へ移動すると、講師が対戦の組み合わせを発表する。
「まずは、嵐堂と武戎だ。二名は中央へ」
呼ばれた桃華は、嬉しそうに頬を緩ませガッツポーズをとっていた。
対する修羅も、片頬をつり上げ不敵な笑みを浮かべている。
「げ……」
龍二は頭が痛くなってきた。
確かに式神と契約している二人にかなう塾生はほぼいないため、最適な組み合わせだが、龍二にとってはあまり好ましくない対戦カードだ。
二人に戦う口実を与えたが最後、どうなるか分かったものじゃない。
「どうした龍二。干からびた梅干しみたいな顔して」
「いやどんな顔だよ……」
声をかけてきたのは遠野だった。
心配しているのかふざけているのかは判断が難しい。
「心配か? 武戎のやつ、なにか悪いことでも企んでそうな顔してるけど」
「……いや、大丈夫だろう」
龍二は頬を緩ませて首を横へ振った。
遠野が言っているのは、以前の修羅と桃華の戦いでのことだろう。
確かにあのときは、修羅は感情のコントロールが上手くできず、桃華を必要以上に痛めつけた。
だが今は違う。
桃華は百鬼夜行の一員でもないし、屋敷では事あるごとに修羅と口喧嘩しているが、修羅の中には確かに仲間意識が芽生えているように感じていた。
だからこそ、龍二の大切な人をむやみやたらに傷つけたりしないと信じられるのだ。
「そうか。まあせっかくあの二人が術比べをしてくれるんだから、しっかり学ばないとな」
遠野はそう言って一歩下がり中央を見やる。
修羅もそうだが、以前と変わったのは遠野も同じだ。
今では目の敵にしていた龍二に気さくに話しかけてくるのだから。
話しているうちに、講師の開始の合図が聞こえ、術比べは始まっていた。
彼女はすぐに目線を前へ戻すが、やはり龍二に対してなにか思うところがあるようだ。
龍二が彼女を熱心に観察していると、横から声をかけられる。
「貴船さん、可愛いですよね」
「あぁ……って、桃華?」
なにも考えずあいづちを打った龍二は、ハッとして横を見る。
桃華がむぅと不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「ずっと貴船さんのことを見てましたね」
「え? い、いや……」
特にこれといった理由はなかったので、龍二はなんと言おうとかと口ごもる。
再び貴船のほうを見ると、彼女はまた質問攻めに対応していた。
「気になるんですか?」
「いや、なんでもないさ」
「ほんとですかぁ?」
桃華が目の前に回って顔を覗き込んで来る。
彼女も整った顔をしているので、龍二は気恥ずかしくなって目をそらす。
「ほんとだよ」
「もぉ、ちゃんと目を見て話してくださいよ!」
「それよりも、明日は摸擬戦の日じゃなかったか?」
龍二は疲れたようにため息を吐き、話をそらすことにした。
「へ? あっ、そういえば!」
「桃華は最近また腕を上げたって講師たちが言ってたぞ。陰陽術のお手本として、俺にも見せてくれよ」
「ふっふーん! 任せてください!」
桃華は得意げな顔で胸を張る。
しかし彼女には悪いが、龍二は貴船の実力のほうが知りたいと思っていた。
翌日、いつも通り陰陽庁の演習室で摸擬戦が行われた。
担当講師が時雨であれば、龍二の鍛錬の成果を確かめるために問答無用で指名してくるが、今はいないため龍二は気を抜いていた。
塾生たちが緊張の面持ちで壁際へ移動すると、講師が対戦の組み合わせを発表する。
「まずは、嵐堂と武戎だ。二名は中央へ」
呼ばれた桃華は、嬉しそうに頬を緩ませガッツポーズをとっていた。
対する修羅も、片頬をつり上げ不敵な笑みを浮かべている。
「げ……」
龍二は頭が痛くなってきた。
確かに式神と契約している二人にかなう塾生はほぼいないため、最適な組み合わせだが、龍二にとってはあまり好ましくない対戦カードだ。
二人に戦う口実を与えたが最後、どうなるか分かったものじゃない。
「どうした龍二。干からびた梅干しみたいな顔して」
「いやどんな顔だよ……」
声をかけてきたのは遠野だった。
心配しているのかふざけているのかは判断が難しい。
「心配か? 武戎のやつ、なにか悪いことでも企んでそうな顔してるけど」
「……いや、大丈夫だろう」
龍二は頬を緩ませて首を横へ振った。
遠野が言っているのは、以前の修羅と桃華の戦いでのことだろう。
確かにあのときは、修羅は感情のコントロールが上手くできず、桃華を必要以上に痛めつけた。
だが今は違う。
桃華は百鬼夜行の一員でもないし、屋敷では事あるごとに修羅と口喧嘩しているが、修羅の中には確かに仲間意識が芽生えているように感じていた。
だからこそ、龍二の大切な人をむやみやたらに傷つけたりしないと信じられるのだ。
「そうか。まあせっかくあの二人が術比べをしてくれるんだから、しっかり学ばないとな」
遠野はそう言って一歩下がり中央を見やる。
修羅もそうだが、以前と変わったのは遠野も同じだ。
今では目の敵にしていた龍二に気さくに話しかけてくるのだから。
話しているうちに、講師の開始の合図が聞こえ、術比べは始まっていた。
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