半妖の陰陽道(覚醒編)~無能と言われた少年は、陰陽師を目指し百鬼夜行を率いる~

高美濃 四間

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第六章 妖の善悪

百鬼夜行・よろずの会

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 琵琶湖周辺の森の奥、ほとんど人の踏み込むことのないそこには、古びた大きなやかたがあった。
 かつては旅館として観光客が訪れていたが、今は妖の棲む魔の巣窟そうくつとなっている。
 百鬼夜行・よろずの会の本拠地だ。
 その日、陰陽庁は彼らの討滅に踏み切っていた。

 ――ドゴォォォォォンッ!

 雷鳴と同時に、館からは眩い雷光が溢れ出し、強大な呪力が発散する。
 同時に、妖たちのおぞましい悲鳴が響いた。

「ギャァァァァァッ!」

「……やれ」

「はっ!」

 太い腕に黄金のいかずちを纏わせたグレースーツの男が下がると、壮年の陰陽技官が目の前で黒こげになっている図体ずうたいの大きい妖へ呪符を放つ。
 そして立てた二本の指を口元へ運び、素早く呪文を唱えた。

「闇より出でし悪なる魍魎もうりょうよ、現世うつしよより退散せよ、天魔覆滅てんまふくめつ

 全身から草木の生えた山犬の妖は、滅法により徐々に崩れ落ちていき、やがてちりと化した。
 それを無感動に眺めていた男がつまらなさそうに鼻を鳴らす。
 短い金髪を逆立てた三十代ほどの男で、鍛え抜かれた肉体が高級そうなグレースーツを内側から押し上げている。
 その全身から溢れ出る覇気は、近寄った者を無意識に委縮させるほどだ。

「今のヤツは?」

「よろずの会・幹部末席の『邪魅じゃみ』で間違いないかと」

「ちっ、ハズレか」

 邪魅とは、森に立ち込めた瘴気が山犬を変異させた妖で、森へ迷い込んだ者を惑わし喰らうという。
 陰陽庁では下級位階に認定されているが、百鬼夜行の幹部というだけあってそれなりに強い。

 しばらく他の陰陽技官たちがよろずの会の残党を滅していき、金髪の男は眉をピクリと動かすと舌打ちした。

「すべての妖気が消えた……コイツらで最後だと? 頭首と他の幹部は逃がしたか」

「申し訳ありません。雷紋局長にご足労頂いておきながら、このような結果になるなんて……」

 金髪の男の名は、雷紋重吾らいもんじゅうご
 陰陽庁・技術局の局長であり神将十二柱の一人だ。
 高位の役職ではあるが、百鬼夜行の幹部を相手取るとなると上級以上の位階と戦うことになるため、どうしても神将の力が必要となる。
 彼は滋賀にある支局の要請を受けて駆けつけたのだ。
 全員が黙り込み重苦しい沈黙が続く中、バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。

「――局長! 倉庫のほうで妖にさらわれていた人たちを発見しました!」

 若い技官が慌てて駆け寄って来る。
 目を向けた雷紋よりも先に支局の指揮官が応えた。

「ご苦労。滋賀で失踪していた人たちで間違いないか?」

「はい、顔写真や身分証の名前と一致しています」

「そうか、これでようやく証拠がそろったな」

 よろずの会は、大蛇や天狗、山の妖など様々な種類の妖が集まって結成された百鬼夜行。
 これまでずっと、人に害を成すことはなかったとして陰陽庁からは特にマークされていなかった。
 また、琵琶湖周辺では長年にわたって失踪事件が続き、警察に調査されてきたもののなに一つ手がかりはつかめなかった。
 そんなあるとき、失踪したのが陰陽技官の家族で、かすかな妖気を感じていたことからよろずの会の関与が浮上したというわけだ。
 ようやく尻尾をつかんだと喜ぶ技官たちへ、雷紋が低い声で告げる。
 
「バカが、幹部上席のしんを逃がしたのは大きいぞ。すぐに天文官に逃げた幹部たちの足取りを調べさせろ!」

「はい!」

 技官たちは慌てて散って行く。
 雷紋は怒りに頬を歪ませ舌打ちすると、無言で館を出るのだった。

 ――後日、よろずの会は越前へ向かった可能性が高いという天文官の見解が示される。 
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