半妖の陰陽道(覚醒編)~無能と言われた少年は、陰陽師を目指し百鬼夜行を率いる~

高美濃 四間

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第四章 宿怨

仲間

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 太刀と黒災牙が激突する。
 龍二の後方で修羅が地を蹴り、首なしの背後へと降り立った。
 大太刀を振り抜くが、首なしは黒災牙を受け流してその場で一回転。
 龍二と修羅は、互いに対角線を維持しながら斬りかかる。
 
「ふん!」

「はっ!」

 首なしは体を捻って素早く立ち回り、左右から迫りくる刀を冷静に弾いていく。
 龍二の狙いは、首なしの左側。
 腕がないおかげで弱点となったそこを重点的に狙う。
 修羅は地面、壁と縦横無尽に跳ね回り、頭上からの攻撃を繰り出していく。

「!」

 次第に攻撃を受けきれなくなった首なしは、刃を掠め切り傷を作っていく。
 どれだけ彼が冷静に戦おうとも、今の龍二と修羅が相手では手数が足りない。
 それこそ、首なし鬼の位階が上級から下級へと落ちた理由だ。
 とはいえ龍二か修羅、どちらかが太刀の衝撃波で押し飛ばされれば、もう片方が一時的にタイマンとなり、極めて危険。
 二対一でなくなったとき、均衡は崩れる。

「もう、お前の好きにはさせん!」

「死んでも食らいつく!」
 
 息の合った二人の半妖の猛攻は、一縷いちるの隙も作らない。
 ついに、修羅の大太刀が首なしの背を斬った。
 だが首なしは動じず、刀を弾いて隙のできた龍二へ一閃。
 この一撃のためにわざと斬られたのだ。

「くっ!」

 龍二は瞬時に跳び上がり、首なしの頭上へ。
 同時に跳び上がっていた修羅と上空で交差する。
 狙っていたとばかりに、下から太刀を突き上げられるが、修羅が体を捻って大太刀の刀身を盾にする。そのまま壁へ叩きつけられた。
 だが、首なしの反撃はまだ終わっていない。
 素早く身を捻って回転し、背後へ降り立つ龍二を切り払う。

「!?」

 しかし、切り裂いたのは、黒炎によってできた羽織だけだ。
 龍二はその後ろで腰を深く落とし、抜刀術のような体勢をとっていた。
 頭上で修羅と交差した一瞬、彼に蹴り飛ばしてもらい、着地の位置をズラしたのだ。
 首なしは、ひらひらと舞う黒炎の羽織を一瞬で細切れにすると地を蹴り、覇気を纏った鋭い刺突を龍二へ放つ。

「――闇焔・断空」

 太刀の切っ先が龍二の額に当たった瞬間、彼は消えていた。
 漆黒の炎が舞い散るようにゆらめき霧散する。
 次の瞬間、縦一直線に漆黒の軌跡が描かれ、勢い良く発火。
 それは漆黒の炎を纏った刃の一閃だった。
 
「!?」

 その一閃を避けられなかった首なしの右腕が黒い炎を発し、切断されて飛ぶ。
 龍二は刀を振り抜いた姿勢で、彼の後方に移動していた。
 その額からは一筋の血が流れている。あと一瞬でも遅れていたら即死だった。
 龍二は構わず、力の限り叫ぶ。

「仇を討てっ、修羅!」

 対する首なしは、追撃を避けるために慌てて体を回転させ飛び退く。
 だが、空中で振り向いた彼の前には、既に修羅が肉薄し大太刀を振り上げていた。

「これでっ、終わりだぁぁぁぁぁっ!」

 重く力強い一撃は、首なしを左肩から袈裟斬りにした。
 衝撃が突き抜けて強風が吹き荒れ、斜めに切断された首なしは、血をまき散らしながら倒れる。彼は苦しそうに上半身をよじった後、動かなくなり妖気が完全に消失。
 殺気の張り詰めていた路地裏に静寂が訪れた。
 ついに決着がついたのだ。
 
「……」

 龍二は気を落ち着かせるように、ゆっくり呼吸する。
 妖は夜目がきくため意識していなかったが、とっくに日は暮れて夜になっていた。
 彼は手を胸に当てるが、妖気が暴走するような気配はまだない。
 これも、時雨との鍛錬で呪力の制御を学んだおかげかもしれない。
 龍二は黒災牙を握ったまま、修羅の元へ歩み寄った。

「終わったな」

「……」

 修羅は反応せず、ただ無表情で首なしの死骸を見下ろしていた。
 そこにはなんの達成感も歓喜も感じられない。

「修羅……」

「……分かってる。これが憎しみの果てだ。復讐なんてしたところでなにも戻ってこないし、なにも変わらない。でも、それが俺の呪いだ」

 淡々と言う修羅。
 既に犬神化の状態もかなりおさまっており、憎悪の感情が消失しているのだろう。
 だが、また強い憎しみを感じるようなことが起こったとき、彼は今回と同じようにボロボロになるまで戦わなければならない。
 それが犬神の呪いなのだ。
 龍二は悲哀の感情を抱き、頬を歪ませた。

「そうかい。だがお前の戦いは無駄じゃなかった。こいつを生かしていたら、またどれだけの人が死んだか分からないからな」

 修羅は龍二へ目を向け問う。

「お前は本当に鬼屋敷龍二なのか? 雰囲気も口調もまったく別人だ」

「ふふっ、それをお前が言うか」

 龍二は頬を緩ませ薄く笑う。
 妖の姿になって別人のようになるのはお互いさまだ。
 目を丸くしている修羅へ、龍二は言った。

「俺は鬼屋敷龍二だよ。人の姿だろうが、妖の姿だろうが、それは変わらない。そしてそれは武戎修羅、お前も同じだろ?」

「っ!」

 修羅は言葉を失い瞳を揺らす。
 彼は動揺を隠すように、首なしの死骸へ視線を戻すと呟いた。

「……俺には分からない」

「なにが?」

「こいつは俺の恩人の仇で、この戦いは俺個人の事情だ。その事情にお前は関係ない。いくらお前が狙われていたからといって、俺をかばって死にかける理由にはならないはずだ」

「簡単なことだ」

「なに?」

「俺がお前を仲間に……いや、お前と友達になりたかったのさ」

「バカな……そんな理由で……」

「まぁなんだっていいじゃねぇか。さっきは一方的にお前のことを仲間だと言ったが、ちゃんと本心を聞きたい」

 修羅は龍二へ視線を戻す。
 今夜は月が出て少し明るかった。
 
「なぁ、修羅。お前の怒りや憎しみ、すべて俺に分けてくれ。俺も一緒に悩むし、戦うからよ」

 龍二はそう言って頬を緩ませ、手を差し伸べた。
 仲間へ向ける慈愛の眼差しと共に。
 修羅の瞳が揺れる。

「……勝手にしろ」

 そう呟き、修羅は背を向けて続けた。

「俺は恨み辛みを力に変える妖だが、借りは必ず返す人間でもある」

「ふんっ、素直じゃないな」

「うっせぇ、ぶっ殺すぞ」

 そう言って二人は笑い合うのだった。
 まるで、互いの傷を知る旧友のように。
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