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第三章 もう一人の半妖
龍二の術
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「界っ!」
合わせるように龍二が呪符を放ち障壁を展開して炎球を無効化。
油断していた遠野は、次の一撃を考えていない。
その一瞬の隙で、龍二は彼の懐へ入り込み、その頬へ左ストレートを打ち込む。
「界!」
「ぐっ!」
しかしすんでのところで、遠野は一歩下がり障壁を展開。
龍二の拳は硬く透明な壁に阻まれる。
宙で止まった拳の先で、遠野がバカにするかのような薄ら笑いを浮かべていた。
龍二はそれでも諦めず、左の拳を引いて右を突き出す。
「ふんっ、何回やっても無駄――なにっ!?」
遠野の表情が驚愕に歪む。
龍二が突き出したのは拳ではなく、掌に乗せた呪符。
しかし相手の障壁がある限り、攻撃は届かない。
だからこその、『会心の一手』。
「界っ!」
「バカな!?」
龍二は右手の呪符を、遠野の障壁に密着させた状態で障壁を発動させ、互いの呪力による干渉を引き起こす。
結界で結界を中和したことにより、互いの障壁は消滅。
そしてそれを狙っていたとばかりに、引いていた龍二の左の拳が再び打ち込まれる。
「はぁっ!」
「ぐはっ!」
渾身の一撃は見事に遠野の頬にヒットし、彼を大きく後退させた。
さすがに体格が良いだけあって、倒れることなく数歩下がって立ち止まる。
喧嘩に明けてくれていた頃の龍二なら、そのまま回復の隙を与えずノックダウンまでもっていくところだが、これは術比べ。
相手の術を破り一矢報いたのだから、野暮な真似はしない。
龍二が後退して距離をとり、息を整え冷静な面持ちで遠野を見据えていると、彼はよろけながらも両足で踏ん張り、悔しげに顔を歪めた。その右頬は赤く腫れている。
「くそっ、屈辱だ! お前なんかに術を破られるなんて!」
「まだ、なにか言いたいことはあるか?」
「当たり前だ! お前は、無能だからって自分から逃げたんだろ!? それがまた戻って来て、のうのうとしてやがる。陰陽師の世界ってのは、そんな甘いもんじゃないんだよ! 一度も逃げずに、辛くても努力し続けてきた俺たちがバカにされているようで、我慢ならないんだ!」
龍二は目を見開く。
ようやく遠野の本心を聞くことが出来たような気がした。
これが彼の……いや、周囲の塾生たちが思っていることなのか。
一度逃げた人間が、また戻って来てなにも変わらずのうのうと過ごしている。
それが逃げずに必死に食らいついて来た彼らにとって、侮辱に感じたのだろう。
龍二は頭を下げた。
「すまない」
「……なんのつもりだ?」
「あんたたちのことをバカするつもりなんてなかったんだ。でも、あんたたちの陰陽師としてのプライドを傷つけてしまったのなら、謝らせてくれ」
「そんなもん、今更なんの意味もねぇよ。だから、お前は俺が叩き潰す。二度と戻って来る気がおきないようになぁ!」
遠野は両手に一枚ずつ呪符を持ち、交差するように龍二へと放った。
ありったけの呪力が込められ、術の発動と共に梵字が赤く輝く。
だが先ほどまでと違い、もう片方の呪符は緑に輝いていた。
「木は火を生ず、木生火っ!」
「っ!?」
今回のは明らかに炎球の勢いが強かった。
陰陽五行の相生を活かした火術と木術の合わせ技だ。
木術は基本、自然の恵みによる自然治癒力の向上に使われることが多いが、火術と共に使うことで炎の威力を底上げすることができる。
これまでの摸擬戦では、彼が木術を使うところなど見てこなかっただけに、強烈な奇襲。
だが龍二も、退くわけには……負けるわけにはいかない。
遠野には遠野のプライドがあり、龍二には龍二の強くならなければならない理由がある。
だから本気の奇襲には、全身全霊を込めた奇襲で応える。
「すまない遠野。それでも俺は、負けるわけにはいかない!」
「なにっ!? それは!?」
龍二は懐から一枚の形代を取り出し投げ放った。
それは呪符とは違い、人形の形に切り抜かれており、式神を使役する者が扱う札だ。
「雷丸、俺に力を貸してくれ――式術開放『雷滅砲』!」
突如、形代に流し込まれた呪力が稲妻を放ち、凄まじい雷鳴を轟かせた。
視界は眩い光に覆われ、チリチリという空気のひりつきが痛いほど肌を叩く。
龍二が式神の術として放ったそれは、巨大な電撃の杭となって、燃え盛る炎球をいとも簡単に打ち消した。
それだけでなく、唖然とする遠野の身を滅ぼさんと凄まじい勢いで迫る。
すべてが一瞬で、誰もが唖然とその決着を見守るしかなかった――
合わせるように龍二が呪符を放ち障壁を展開して炎球を無効化。
油断していた遠野は、次の一撃を考えていない。
その一瞬の隙で、龍二は彼の懐へ入り込み、その頬へ左ストレートを打ち込む。
「界!」
「ぐっ!」
しかしすんでのところで、遠野は一歩下がり障壁を展開。
龍二の拳は硬く透明な壁に阻まれる。
宙で止まった拳の先で、遠野がバカにするかのような薄ら笑いを浮かべていた。
龍二はそれでも諦めず、左の拳を引いて右を突き出す。
「ふんっ、何回やっても無駄――なにっ!?」
遠野の表情が驚愕に歪む。
龍二が突き出したのは拳ではなく、掌に乗せた呪符。
しかし相手の障壁がある限り、攻撃は届かない。
だからこその、『会心の一手』。
「界っ!」
「バカな!?」
龍二は右手の呪符を、遠野の障壁に密着させた状態で障壁を発動させ、互いの呪力による干渉を引き起こす。
結界で結界を中和したことにより、互いの障壁は消滅。
そしてそれを狙っていたとばかりに、引いていた龍二の左の拳が再び打ち込まれる。
「はぁっ!」
「ぐはっ!」
渾身の一撃は見事に遠野の頬にヒットし、彼を大きく後退させた。
さすがに体格が良いだけあって、倒れることなく数歩下がって立ち止まる。
喧嘩に明けてくれていた頃の龍二なら、そのまま回復の隙を与えずノックダウンまでもっていくところだが、これは術比べ。
相手の術を破り一矢報いたのだから、野暮な真似はしない。
龍二が後退して距離をとり、息を整え冷静な面持ちで遠野を見据えていると、彼はよろけながらも両足で踏ん張り、悔しげに顔を歪めた。その右頬は赤く腫れている。
「くそっ、屈辱だ! お前なんかに術を破られるなんて!」
「まだ、なにか言いたいことはあるか?」
「当たり前だ! お前は、無能だからって自分から逃げたんだろ!? それがまた戻って来て、のうのうとしてやがる。陰陽師の世界ってのは、そんな甘いもんじゃないんだよ! 一度も逃げずに、辛くても努力し続けてきた俺たちがバカにされているようで、我慢ならないんだ!」
龍二は目を見開く。
ようやく遠野の本心を聞くことが出来たような気がした。
これが彼の……いや、周囲の塾生たちが思っていることなのか。
一度逃げた人間が、また戻って来てなにも変わらずのうのうと過ごしている。
それが逃げずに必死に食らいついて来た彼らにとって、侮辱に感じたのだろう。
龍二は頭を下げた。
「すまない」
「……なんのつもりだ?」
「あんたたちのことをバカするつもりなんてなかったんだ。でも、あんたたちの陰陽師としてのプライドを傷つけてしまったのなら、謝らせてくれ」
「そんなもん、今更なんの意味もねぇよ。だから、お前は俺が叩き潰す。二度と戻って来る気がおきないようになぁ!」
遠野は両手に一枚ずつ呪符を持ち、交差するように龍二へと放った。
ありったけの呪力が込められ、術の発動と共に梵字が赤く輝く。
だが先ほどまでと違い、もう片方の呪符は緑に輝いていた。
「木は火を生ず、木生火っ!」
「っ!?」
今回のは明らかに炎球の勢いが強かった。
陰陽五行の相生を活かした火術と木術の合わせ技だ。
木術は基本、自然の恵みによる自然治癒力の向上に使われることが多いが、火術と共に使うことで炎の威力を底上げすることができる。
これまでの摸擬戦では、彼が木術を使うところなど見てこなかっただけに、強烈な奇襲。
だが龍二も、退くわけには……負けるわけにはいかない。
遠野には遠野のプライドがあり、龍二には龍二の強くならなければならない理由がある。
だから本気の奇襲には、全身全霊を込めた奇襲で応える。
「すまない遠野。それでも俺は、負けるわけにはいかない!」
「なにっ!? それは!?」
龍二は懐から一枚の形代を取り出し投げ放った。
それは呪符とは違い、人形の形に切り抜かれており、式神を使役する者が扱う札だ。
「雷丸、俺に力を貸してくれ――式術開放『雷滅砲』!」
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視界は眩い光に覆われ、チリチリという空気のひりつきが痛いほど肌を叩く。
龍二が式神の術として放ったそれは、巨大な電撃の杭となって、燃え盛る炎球をいとも簡単に打ち消した。
それだけでなく、唖然とする遠野の身を滅ぼさんと凄まじい勢いで迫る。
すべてが一瞬で、誰もが唖然とその決着を見守るしかなかった――
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