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第三章 もう一人の半妖
呪力の証明
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開始の合図と共に、時雨が六芒星を境に結界を張った。
遠野が素早く腰のポーチから呪符を取り出し、龍二も真似るように呪符を掴む。
「浄化の焔よ、悪鬼をひとしく焼き祓え」
「天より高覧せし大いなる太極よ、邪気を払いて、畏み申す」
「「急急如律令!」」
遠野が数枚の呪符を投げ、それが火の玉へと変わり龍二へ襲い掛かる。
対して龍二は、前方に呪符をばら撒き障壁を作る。
「ぐぅっ」
精神的な衝撃はあったものの、龍二の障壁は遠野の火術を防ぎきった。
「なんだ、結界は使えるのか? けどそれは、術者の呪力次第で耐久力がまるで違うぞ!」
遠野は攻撃の手を緩めず、連続して呪符を放ってきた。
ひたすら術をぶつけて龍二の呪力を枯渇させるつもりだ。
結んだ印を保持し、衝撃に耐える龍二。
彼の脳裏には、先日の時雨とのやりとりが鮮明に蘇っていた。
『――お前に呪力がないってのは、ただの思い込みだ』
『え? だって、これまで一度も陰陽術を使えたことがないんですよ?』
『それは妖刀に封じられていたからだろ?』
『でも、妖刀に封じられていたのは、妖力だけのはず……』
『少し考えれば分かることだ。龍二、お前は半妖だろ? ならその体からは、呪力と妖力の両方が生じているはずだ。なら妖力だけを封じようったって無理に決まってる。だから、一緒に封じていたのさ』
『じゃあ、俺にも陰陽術が使えるんですか!?』
『鍛錬さえすればな。お前さんは最強の妖の息子かもしれないが、最強の陰陽師の息子でもあるんだ。信じろよ、自分の力を』
遠野による火の連撃が止み、熱気が龍二の頬を撫でる。
顔を上げると、龍二の張った障壁は健在で完全なる防御を成していた。
時雨の言う通りだった。
先ほど遠野も言った言葉の通り、術者の呪力次第で障壁の耐久力は決まる。
だからこそ、火術の連撃程度ではビクともしないこの障壁が呪力の強さの証明。
「俺の攻撃を防ぎ切ったぐらいで、得意げになるなよ。次はお前の番だ。どんな攻撃だろうと俺には通じないぞ!」
遠野が苛ただしげに眉を吊り上げ、挑発してくる。彼は呪符を構えていつでも結界が使える状態だ。
だが龍二には五行の術は一つも使えない。いや、そんなものは最初から斬り捨てているのだ。
龍二は拳を握り、遠野へ向かってまっすぐに駆け出す。
「どうつもりだ!? これは摸擬戦……術比べなんだぞ! ただの喧嘩のつもりだって言うのなら、お前はここに立っていい人間じゃない! 分からないってんなら、俺が陰陽師としてお前を叩き潰す」
遠野は額に青筋を立てて怒りの限り叫ぶと、一枚の呪符を放つ。
「火術!」と唱え炎球を作り出し、迫る龍二の顔面へぶつけようとする。
しかし龍二は、間一髪のところで横へ跳んで回避。
そこへ追撃とばかりに新たな炎球が飛来するが、それもまた横へ転がって回避した。
おそらく、遠くで見守っている塾生たちから見れば、無様な姿だろう。
今まで龍二が見て来た摸擬戦と比べて、野蛮としか言いようのない戦い方だ。
そんな彼を見て、遠野はなにかに思い至ったかのように目を見張った。
「まさかお前……陰陽五行が使えないのか? だから素手で殴りかかる以外に攻撃する術がないのか。それならやっぱり、お前はここにいるべきじゃないんだ!」
怒りのこもったそのまっすぐな言葉が龍二の心に突き刺さる。
見学している塾生たちも顔を見合わせているのがここからでも見える。
それでも龍二は突き進む。
「うおぉぉぉっ!」
「くっ、いい加減にしろ!」
まっすぐ駆け出して来た龍二へ、遠野は再び火術を放つ。
それと同時に――
遠野が素早く腰のポーチから呪符を取り出し、龍二も真似るように呪符を掴む。
「浄化の焔よ、悪鬼をひとしく焼き祓え」
「天より高覧せし大いなる太極よ、邪気を払いて、畏み申す」
「「急急如律令!」」
遠野が数枚の呪符を投げ、それが火の玉へと変わり龍二へ襲い掛かる。
対して龍二は、前方に呪符をばら撒き障壁を作る。
「ぐぅっ」
精神的な衝撃はあったものの、龍二の障壁は遠野の火術を防ぎきった。
「なんだ、結界は使えるのか? けどそれは、術者の呪力次第で耐久力がまるで違うぞ!」
遠野は攻撃の手を緩めず、連続して呪符を放ってきた。
ひたすら術をぶつけて龍二の呪力を枯渇させるつもりだ。
結んだ印を保持し、衝撃に耐える龍二。
彼の脳裏には、先日の時雨とのやりとりが鮮明に蘇っていた。
『――お前に呪力がないってのは、ただの思い込みだ』
『え? だって、これまで一度も陰陽術を使えたことがないんですよ?』
『それは妖刀に封じられていたからだろ?』
『でも、妖刀に封じられていたのは、妖力だけのはず……』
『少し考えれば分かることだ。龍二、お前は半妖だろ? ならその体からは、呪力と妖力の両方が生じているはずだ。なら妖力だけを封じようったって無理に決まってる。だから、一緒に封じていたのさ』
『じゃあ、俺にも陰陽術が使えるんですか!?』
『鍛錬さえすればな。お前さんは最強の妖の息子かもしれないが、最強の陰陽師の息子でもあるんだ。信じろよ、自分の力を』
遠野による火の連撃が止み、熱気が龍二の頬を撫でる。
顔を上げると、龍二の張った障壁は健在で完全なる防御を成していた。
時雨の言う通りだった。
先ほど遠野も言った言葉の通り、術者の呪力次第で障壁の耐久力は決まる。
だからこそ、火術の連撃程度ではビクともしないこの障壁が呪力の強さの証明。
「俺の攻撃を防ぎ切ったぐらいで、得意げになるなよ。次はお前の番だ。どんな攻撃だろうと俺には通じないぞ!」
遠野が苛ただしげに眉を吊り上げ、挑発してくる。彼は呪符を構えていつでも結界が使える状態だ。
だが龍二には五行の術は一つも使えない。いや、そんなものは最初から斬り捨てているのだ。
龍二は拳を握り、遠野へ向かってまっすぐに駆け出す。
「どうつもりだ!? これは摸擬戦……術比べなんだぞ! ただの喧嘩のつもりだって言うのなら、お前はここに立っていい人間じゃない! 分からないってんなら、俺が陰陽師としてお前を叩き潰す」
遠野は額に青筋を立てて怒りの限り叫ぶと、一枚の呪符を放つ。
「火術!」と唱え炎球を作り出し、迫る龍二の顔面へぶつけようとする。
しかし龍二は、間一髪のところで横へ跳んで回避。
そこへ追撃とばかりに新たな炎球が飛来するが、それもまた横へ転がって回避した。
おそらく、遠くで見守っている塾生たちから見れば、無様な姿だろう。
今まで龍二が見て来た摸擬戦と比べて、野蛮としか言いようのない戦い方だ。
そんな彼を見て、遠野はなにかに思い至ったかのように目を見張った。
「まさかお前……陰陽五行が使えないのか? だから素手で殴りかかる以外に攻撃する術がないのか。それならやっぱり、お前はここにいるべきじゃないんだ!」
怒りのこもったそのまっすぐな言葉が龍二の心に突き刺さる。
見学している塾生たちも顔を見合わせているのがここからでも見える。
それでも龍二は突き進む。
「うおぉぉぉっ!」
「くっ、いい加減にしろ!」
まっすぐ駆け出して来た龍二へ、遠野は再び火術を放つ。
それと同時に――
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