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第二章 百鬼夜行・龍の臣
龍二の決意
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龍二はふと、右横に座る桃華を見た。
「……っく、ぐすん。ひっぐ……」
「だから、なんでお前が泣くんだ」
「だ、だってぇ」
桃華は目に涙を溜めて溢れさせ、鼻を赤くしてべそをかいている。
これは龍二の家の問題で、桃華には直接関係はないはずだが、感受性の豊かな彼女らしい。
龍二はやれやれとため息を吐くと、ポケットから青の無地のハンカチを取り出し差し出した。
彼女は「あ、ありがどうごじゃいまずぅ」と礼を言うと、ぐしょぐしょになった目元を拭う。
そんな姿を横目で見て、龍二は頬を緩め目を閉じる。
逡巡したのち、ゆっくり目を開けると、瞳に闘気を燃やしまっすぐに銀次へ告げた。
「銀次さん俺、決めました。だから――」
両親の想いは痛いほどよく分かった。
二人は心の底から、真に息子の平和を願っていたのだろう。
だが、龍二の中に眠る獰猛な血は既に目覚めてしまった。
銀次はそれ以上言わずとも、彼の意思を察し、妖刀・黒災牙を差し出す。
「分かっているさ。これは元から返すつもりだった。だがそれでも、この刀は抜くべきではない」
「それは、俺がこの力を使いこなせないからですか?」
龍二は横目で桃華の手の包帯を見て、声のトーンを下げる。
彼女を傷つけてしまったという罪悪感がチクリと胸を刺す。
一度目の暴走を考えると、次こそ抑えきれるという自信はない。
「それもある。だが、君の継いだ龍血鬼の血は妖たちにとっても、喉から手が出るほど欲しいものなんだ」
「どういうことですか?」
「君の父はかつて、己の血を仲間に分け与え、最強の百鬼夜行を成した。龍の血というのは、妖に絶大なる力を与える。君がその力を解放するたび、妖たちは血を求めて迫り来るだろう。先日のは突然だったからまだ察知した者は少ないだろうが、既に動き出している者たちもいるはず。次からは、自ら危険を呼び寄せるものと心得なさい。だからこそ、その力はやむを得ないときの守りの力とすべきなんだ」
「でも、これがなければ俺は……」
龍二は目の前に持ってきた鞘を強く握る。
鞘の内側から溢れ出る強大な妖気は、彼を主と認めているようで高揚感を湧き上がらせた。
龍二の身に余る、あまりにも強大な力。
だがそれがなければ、今の彼にはなんの力もない。
「龍二くん、分かってくれ」
「龍二さん……」
「……それでも俺は、戦わなくちゃいけないんだ。母さんの仇を討つために、父さんのことを知るためにっ!」
「――だからこそ、私がいるのだろう?」
思いがけない声が割り込んだ。
中庭に膝をついて異質な存在感を放つ雷丸だ。
顔には呪符が貼られているため、感情は読めないが、その言葉がどういう意味なのかは分かる。
龍二は彼へ真剣な眼差しを向け頷いた。
「……力を、貸してくれないか?」
「鬼屋敷龍二、敬愛する元主との最後の盟約に従い、我――雷丸はあなたを主と認めよう」
「雷丸、ありがとう。銀次さん、俺、強くなりたいです」
「……あの親にしてこの子あり、か。いいだろう。龍二くん、君は自らの意志で前へ進め」
その日、龍二は雷丸と式神契約を交わし、熾烈な陰陽道へと身を投じる決意をするのだった。
「……っく、ぐすん。ひっぐ……」
「だから、なんでお前が泣くんだ」
「だ、だってぇ」
桃華は目に涙を溜めて溢れさせ、鼻を赤くしてべそをかいている。
これは龍二の家の問題で、桃華には直接関係はないはずだが、感受性の豊かな彼女らしい。
龍二はやれやれとため息を吐くと、ポケットから青の無地のハンカチを取り出し差し出した。
彼女は「あ、ありがどうごじゃいまずぅ」と礼を言うと、ぐしょぐしょになった目元を拭う。
そんな姿を横目で見て、龍二は頬を緩め目を閉じる。
逡巡したのち、ゆっくり目を開けると、瞳に闘気を燃やしまっすぐに銀次へ告げた。
「銀次さん俺、決めました。だから――」
両親の想いは痛いほどよく分かった。
二人は心の底から、真に息子の平和を願っていたのだろう。
だが、龍二の中に眠る獰猛な血は既に目覚めてしまった。
銀次はそれ以上言わずとも、彼の意思を察し、妖刀・黒災牙を差し出す。
「分かっているさ。これは元から返すつもりだった。だがそれでも、この刀は抜くべきではない」
「それは、俺がこの力を使いこなせないからですか?」
龍二は横目で桃華の手の包帯を見て、声のトーンを下げる。
彼女を傷つけてしまったという罪悪感がチクリと胸を刺す。
一度目の暴走を考えると、次こそ抑えきれるという自信はない。
「それもある。だが、君の継いだ龍血鬼の血は妖たちにとっても、喉から手が出るほど欲しいものなんだ」
「どういうことですか?」
「君の父はかつて、己の血を仲間に分け与え、最強の百鬼夜行を成した。龍の血というのは、妖に絶大なる力を与える。君がその力を解放するたび、妖たちは血を求めて迫り来るだろう。先日のは突然だったからまだ察知した者は少ないだろうが、既に動き出している者たちもいるはず。次からは、自ら危険を呼び寄せるものと心得なさい。だからこそ、その力はやむを得ないときの守りの力とすべきなんだ」
「でも、これがなければ俺は……」
龍二は目の前に持ってきた鞘を強く握る。
鞘の内側から溢れ出る強大な妖気は、彼を主と認めているようで高揚感を湧き上がらせた。
龍二の身に余る、あまりにも強大な力。
だがそれがなければ、今の彼にはなんの力もない。
「龍二くん、分かってくれ」
「龍二さん……」
「……それでも俺は、戦わなくちゃいけないんだ。母さんの仇を討つために、父さんのことを知るためにっ!」
「――だからこそ、私がいるのだろう?」
思いがけない声が割り込んだ。
中庭に膝をついて異質な存在感を放つ雷丸だ。
顔には呪符が貼られているため、感情は読めないが、その言葉がどういう意味なのかは分かる。
龍二は彼へ真剣な眼差しを向け頷いた。
「……力を、貸してくれないか?」
「鬼屋敷龍二、敬愛する元主との最後の盟約に従い、我――雷丸はあなたを主と認めよう」
「雷丸、ありがとう。銀次さん、俺、強くなりたいです」
「……あの親にしてこの子あり、か。いいだろう。龍二くん、君は自らの意志で前へ進め」
その日、龍二は雷丸と式神契約を交わし、熾烈な陰陽道へと身を投じる決意をするのだった。
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