半妖の陰陽道(覚醒編)~無能と言われた少年は、陰陽師を目指し百鬼夜行を率いる~

高美濃 四間

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第一章 封印されし血統

遺言

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 ――龍二――

 体の感覚がなく、静かな光の世界。
 今度は確かに聞こえた。
 もう二度と、聞けないと思っていた優しく懐かしい声が。

(……母さん?)

 ――龍二、ごめんね。今まで辛かったよね――

 母、月菜はなぜか申し訳なさそうに言う。
 なぜ彼女が謝るのか、龍二には理解できない。
 すべては自分が無能だったからいけないのだ。
 その悲痛の嘆きが伝わったのか、母は強く否定する。

 ――違う。あなたは無能なんかじゃない。そう思わせてしまったのは、私たちのせいなの――

(……私たち?)

 その言葉に違和感を覚えた。
 しかし次の言葉に意識を持っていかれる。
 
 ――あなたの力は強大過ぎた。だから封じたの――

(どうして?)

 ――こんな力を持っていたら、きっと危険な争いに巻き込まれる。あなたにはただ平和に暮らして、幸せになってほしかった。でも、そのせいであなたが自分の無力さを悲観し、苦しんでいたことも知っているわ。本当にごめんなさい――

 龍二の力は封じられているのだと明かされた。
 それは、息子を守ろうとする母の強い意志によるもの。
 ならそれを責めることはできない。
 しかし龍二は問わねばならなかった。
 
(じゃあ、なんで今更になって……)

 ――もう、私ではあなたを守れない。だから、あなたの力を返すわ。でも、この刀を抜く日が来ないことを心から願ってる。どうか幸せになって、龍二――

 その言葉を最後に、再び龍二の意識は暗転し、ゆっくり目を開けると先ほどと同じ場所にいた。
 既に刀を支えにして立ち上がっていた。
 雷光に跳び退いていた牛鬼も、またこちらへ向かって走り出している。
 桃華が後ろで逃げるように言っているが、聞くわけにはいかない。 
 
「ありがとう、母さん」

 穏やかな表情で呟くと、左手で鞘を押さえ、右手で柄を強く握る。
 その瞬間、全身に流れる血が沸騰するかのような感覚を覚えた。
 眠っていたものが呼び覚まされる、そんな感覚だ。
 そうこうしているうちに、牛鬼はすぐ目前まで迫っていた。

「ありがとう……そしてごめん。今の俺に必要なのは、ただ力。それがなければ、幸せなんて掴みとれないから」

 握る手に力を込める。
 全身に纏う気を一点に集めるように。
 傷の痛みはいつの間にか引いていた。
 鞘と柄に貼られていた無数の呪符が黒い炎を発し、燃え始める。
 
「龍二、さん? いったいなにが……」

「下がってろ」

 背後の桃華へ告げると、龍二は雄たけびを上げた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 彼の全身からドス黒いオーラが湧き上がり、空気を一変させる。
 全身を駆け巡る血が熱い。
 体が内側から燃えているようだ。
 黒の覇気はその勢いを強め、やがて刀を封じていた呪符が燃え切り消し炭となる。
 同時に、牛鬼がとうとう目の前まで到達し、脚を振り下ろしてきた。
 勢いよくトドメの一撃が振り下ろされるが――

「――闇焔やみほむら断空だんくう

 彼は既に姿を消していた。
 漆黒の炎を花のように散らせ、まるで陽炎のように。
 牛鬼の凶悪な爪は地面を深くえぐっただけだ。
 一瞬の静寂に飲まれた次の瞬間、牛鬼の左の後ろ脚がボトリと落ちる。
 綺麗な切断面では、黒い炎がチリチリと燃え、やがて血が噴き出した。
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