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最終章 激動の最終決戦

決着の時

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 ウィルムが感情を抑えた声で「ジャック」と呼ぶと、それまで入口のところで待機していたジャックが横まで歩み寄る。
 ウィルムは興奮を鎮めるように息を整え、文官たちへ向けて告げた。
 
「紹介します。アルビオン商会のハンター、ジャックです。俺はここに来る前、彼の率いるハンター一味の襲撃を受けました」

「「「っ!?」」」

 衝撃の事実に会議室が騒然とする。

「どういうことなんだ……」

 ルークも目を見張り困惑に眉をしかめていた。
 ウィルムがなぜ全身傷だらけなのかは分かっただろう。
 だが、なぜ自分を襲撃した犯人を連れて来たのかは、誰も理解を示せていない。
 ましてや、ジャックには拘束もなにもしておらず、いつでもウィルムを攻撃できる状態。誰もが危険に思ったことだろう。
 しかし、そうはならない。
 今のウィルムとジャックは金で繋がれた、依頼主と受注者の関係だからだ。
 先の戦いの最後、シャームが死に依頼主を失ったジャックは、ウィルムの提示した多額の報酬金での依頼を快く引き受けた。
 それは、これまでの竜人襲撃に関するすべての情報の提供と、この場での証言。

「彼はすべてを話してくれました。領主選当日、俺を襲撃するように依頼したのは、ギルドだったのです。その証拠に、家には副会長のシャームさんが現れ俺をハンターたちの元へ誘導しました」

「そういうことだったのか」

 ルークが納得したように呟くと、ウィルムは頷いた。
 窮地に陥ったグレイヴは、未だしらばくれようと首を横へ振り「し、知らない」と呟いて後ずさる。
 壁際ではホルムスが顔面蒼白になって、醜い丸顔に大量の脂汗を浮かべている。
 彼らの反応を見れば、ウィルムの言葉が嘘でないことは明白。
 カドルも顔を引きつらせ口を閉ざしていた。

「それだけではありません。これまでの竜人失踪。それらも、彼らアルビオン商会のハンターたちが秘密裏に、ギルドから依頼されて実行したものだったのです」

 ウィルムはジャックに目配せし、これまでの依頼の内容を話させる。
 それは今までギルドが行ってきたあらゆる悪事。
 ドラチナスで働く者にとって、誰も看過できない悪の所業。
 ジャックの証言の合間に、ウィルムとカエデが説明を加え、竜人失踪とアビス出現の全貌がついに明らかになった。
 文官たちは唖然とした表情で、誰も頭の整理がついていないようだ。
 そしてウィルムは、怒りを抑えた低い声でグレイヴへ問う。

「これでもまだ、言い訳できますか?」

「ぅっ……」

 グレイヴは茫然とした表情で床にひざまづき、ガクンと肩を落とし俯いた。
 そこへ追撃するように、怒りで頬を歪ませたルークが言い放つ。

「これでアビスの謎も、竜人の失踪もすべてが分かった……つまり、五年前から起こったすべてのことがギルドの自作自演。一部の特権階級だけが富を築くための陰謀。大切なドラチナス領民を犠牲にして、経済発展だと? 領民をバカにするのも、いい加減にしろ!」

 そして、顔面蒼白でその様子を見ていたカドルへ向き直る。

「カドル殿、ここまで聞いてそれでも、ギルドにドラチナス経済を任すおつもりか?」

「そっ、それは……」

 カドルがなにも言い返せず口ごもっていると、ルークは幹事へ目を向け堂々と告げた。

「幹事殿、討論に決着はつきました! 採決を!」

「は、はいぃっ!」

 激動の領主選、ついに決着。
 終始ギルドの扱いが争点となり、一度はギルドとの繋がりの深いカドルが優勢となったものの、カエデやウィルムといった、権力に抗う強い意志を持った者たちが流れを変えた。
 そして今、領主選幹事によって文官たちの採決がとられ、集計の結果がすぐに出る。
 満場一致でルークの勝利だ。

「そんな……」

 カドルは茫然自失とした表情で呟く。
 しかし当然の結果だ。
 この状況で、ギルドを支援すると言ったカドルを支持する者など誰もいない。
 皆、希望ある選択をしたのだ。
 そして、ルークはすぐに騎士を呼び、ぐったりとうな垂れるグレイヴとホルムスを騎士団の駐屯所へ連行させた。

「終わったのか。これでようやく」

 ウィルムは声を震わせ、唇を固く結んでギュッと目を瞑る。
 そして体を震わせる彼の背にそっと細い手が添えられた。
 ウィルムには一瞬、それがアクアの手のような錯覚を覚え、目から涙がこぼれ落ちる。

「――ありがとう、ウィルム。あなたのおかげで、この町は生まれ変わるの。本当にお疲れさま」

 カエデがしんみりと囁くように告げると、ウィルムは肩を震わせた。
 ルークは表情を引き締め、深く頷いて文官一同を見渡す。
 そして、大きく深呼吸すると堂々と告げた。

「私はっ、この町を変えてみせます。我ら領民が、バケモノに屈することなく、自らの力で羽ばたけるように!」

 戦士たちとギルドの最終決戦は、希望に満ちた、盛大な拍手を合図に幕を閉じたのだった
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