上 下
63 / 66
最終章 激動の最終決戦

末路

しおりを挟む
 シャームは自分の雇ったハンターが殺されたというのに、邪悪な笑みを浮かべて肩を揺らしていた。
 そして大仰に両手を広げ、バケモノへ向かって叫ぶ。

「さあ、邪魔者を蹴散らしてしまいなさい。完全に体が溶ける前に!」

 ウィルムは確信する。
 このバケモノは、ギルドの研究の失敗作、言わばアビスの不完全体だ。
 おそらく素体が竜人でなかったことで、こんな姿になってしまったのだろう。
 シャームの言葉から察するに、獣人族では注入した薬の副作用に耐え切れず、体の崩壊が止められないようだ。
 それなら勝ち目はある。
 あの爛れた皮膚では斬撃を受けれないはずだ。
 ウィルムが瞬時に頭を回転させて攻略法を思案していると、バケモノは次の行動に出た。
 
「……?」

 ウィルムは困惑する。
 アビスもどきは、背後を振り向いていたのだ。
 おそらくシャームの声に反応したのだろうが、なにがしたいのか分からない。
 バケモノがシャームへ向かってのっそり歩き出すと、シャームは浮かべていた笑みを凍りつかせ後ずさる。

「ど、どうしたのです? 敵は後ろ――」

「――ヴヲォォォォォッ!」

「ぐわぁっ!」

 バケモノ、シャームの言葉を遮りその細い体を片手で掴み上げた。
 シャームは恐怖で歯をガチガチと鳴らし、顔面蒼白で「や、やめろ!」と必死に叫びながら体をよじるがビクともしない。
 握力は想像以上に強いようで、ギチギチと締め付け、シャームはうめき声しか上げられなくなった。
 そして――

「――ぎゃぁぁぁぁぁっ!」

 バケモノに喰われてしまうのだった。
 悪役らしく呆気ない末路。
 ウィルムは凄惨な光景に呆気にとられるが、すぐに首を横へ振って我に返る。
 これは絶好の機会だと思った。
 バケモノがシャームを喰っている隙に攻撃すれば、確実に倒せる。
 ウィルムはすぐに、先ほど気絶させた獣人の剣を拾い駆け出そうとしたが、

「――待て」

「ジャック?」

 ジャックの声に止められた。
 彼はウィルムを見ておらず、茫然とバケモノの後ろ姿を眺めているだけだ。

「もう終わりだ」
 
「え?」

 それ以上なにも言わないジャックの視線を辿ってみると、ようやく異変に気付く。
 バケモノの体の崩壊が早まっていたのだ。
 既に左腕は膝から先が落ち、元々細かった足も小枝のようになってしまっていた。
 彼らがなにもせずとも、シャームを喰い終わるとすぐにバケモノの体は溶け落ち、濁ったドロドロの液体の上に骨だけが散乱していた。

「酷い姿だ……」

 ジャックは悲しげに呟き、ウィルムへ振り向いた。
 そして装束の内側に手を入れ一本の注射器を取り出す。それは先ほどシャームが打っていたのと同じもの。
 ゾクリとウィルムの背筋に悪寒が走る。

「なっ、まさか!?」

 しかしジャックは、内包された透明な液体を不気味そうに怪訝な表情で見回した後、横へ放り投げる。
 注射器は岩に当たって砕け、中の液体が飛び散った。
 液体は空気に触れると煙を発生させ、いかに危険なものであるかを物語っていた。
 彼の意外な行動にウィルムは目を丸くする。
 
「……薬、使わなくて良かったのか?」

「バカ言うな。俺は騎士とは違って、誰かに忠誠を誓ったわけじゃない。だから、刺し違えてでも標的を殺すってのはごめんだ。それに、そこまでしてあんたに勝って、仮に元の姿に戻れたとしても、依頼主が死んだんじゃ、タダ働きにしかならないしな」

「そうか、それは安心した」

 ウィルムはホッと息を吐く。
 ジャックの言葉に嘘はないようで、彼が先ほどまで発していた鋭利な殺気は消え失せていた。
 しかし、状況は決して良くない。
 目の前の危機はなんとか去ったものの、既にかなりの時間が経ってしまっている。
 今頃、ルークは領主選で苦境に立たされているはずだ。
 カエデの手掛かりも得られなかった今、ウィルムの次の一手は既に決まっていた。

「ジャック、君に依頼があるんだ」

 ウィルムは表情を引き締め告げた。今まで敵対していた相手に協力を求めようとする。
 その転身の早さに、ジャックは飽きれたようにケラケラと笑うが、

「まいどどうも」

 ただ当たり前のように仕事を引き受けたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

魔法少女と呼ばないで

青の雀
ファンタジー
俺は定年間際になり、ようやく今までの己の人生を振り返り、つくづくと思うところがある。学校を卒業するまでは、いかに成績を優秀のままで保つかということに尽力をし、社会に出てからは、いかに人より早く出世をし、お金儲けに邁進することができるかという競争人生を送ってきた。 人生において、定年という大きな節目を目前にして、これからどう生きるかを真剣に考えているとき、異変が起こる。 定年後は、生まれ故郷の京都へ帰り、趣味のための勉強に励むつもりでいる。少年の頃は、受験のための勉強しかしてこなかったので、定年後は、足しげく図書館へ通い、勉強するつもりでいる。 それなのに、出張先で異世界から来た魔物を退治する魔法少女に突如変身してしまった。 驚きと困惑の中、地球侵略を狙う異世界の魔王を相手に戦う美少女の姿のTV中継や配信に、全世界が熱狂するが、その正体は普通のオッサンだったという事実が隠されている。 果たしてリーチは、地球を守ることができるのかいなや!? 死なずに転生したオッサン魔法少女の恋と青春と冒険のお話にするつもりです。

第4王子は中途半端だから探偵することにした

kkkkk
ファンタジー
俺の名前は、ダニエル。ジャービス王国という小さな国の第4王子だ。 念のために説明しておくと、俺は異世界に転生していないし、前世の記憶もない。そして、この世界には魔法はない。普通の世界だ。 俺が戦っているのは魔王や勇者でもなく経済事件。ジャービス王国内で発生する経済事件を解決するのが俺の役目だ。 派手なアクションで犯人を捕まえるようなハードボイルドな事件の解決は期待しないでほしい。俺は喧嘩が弱いのだ。 不本意ながら内部調査部長に就任することになった俺。 部長だと気分が上がらないから、経済事件を解決する『探偵』になったという設定にしておこう。 剣も魔法もハードボイルド要素もない、地味な探偵だ。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...