サクリファイスリベリオン ~冤罪で追いつめられた元凄腕ハンターは、ギルドの陰謀を暴き人脈を駆使して復讐する~

高美濃 四間

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最終章 激動の最終決戦

覚悟の違い

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「ふんっ、さすがだな」

「やはり君たちが、竜人失踪に関わっていたのか」

「だから、どうした!?」

 ジャックが突き出した拳を左腕で受け止め、カウンターでローキックを放つ。
 人間であれば直撃しただけで骨が折れるほどの威力を込めるが、ジャックはバックステップで軽々と回避。
 
「分かっているのか!? 君たちがさらった竜人たちがどうなったのか!」

「興味はないな」

「ふざけるなぁっ!」

 あまりにも素っ気ないジャックの返答に、ウィルムは怒り拳を突き出した。
 だが、激情は戦いにおいて諸刃もろはつるぎとなる。
 ジャックは体を反らして直撃を避け、その手首を掴んだ。
 既にウィルムの周囲は、他の四人の獣人たちに囲まれている。
 逃げ場はない。
 それでもウィルムは、ジャックの目を見据え己の正義をぶつける。

「みんなアビスに変えられたんだぞ! ジャック、君も善悪の区別がつくのなら、ギルドの悪事になんか手を貸すな!」

「あんたこそ分かっていないな」

「なんだと?」

「さらった竜人がどうなろうが知ったことか。善か悪かなど、俺には関係ない。これが依頼だから、仕事だから、あんたを殺すんだ」

 ジャックは表情を変えず、さも当然のように告げた。
 それを合図に、周囲の獣人たちが四方向から一斉に迫る。
 
「くそっ!」

 ウィルムは手首を掴んでいるジャックの手を強引に振り払うと、大きく跳び退いた。
 獣人たちと入れ違いになって、ジャックは落とした曲刀を拾いに下がる。

「こんのぉぉぉっ!」

 四つの刃が一斉にウィルムを襲った。
 それぞれの太刀筋を見切り、冷静に避けてはカウンターを放つ。
 手数は多いがジャックほどの速さも、重さもない。
 顔面に迫る刃は顔を反らしてかわし、胴へと突き出される剣先は手の甲で横から弾き、至近距離には踏み込ませまいと手刀で牽制する。
 二、三と同時に刃を振るわれれば、裂傷も避けられないが、ウィルムの怒りに反応して肌に浮き出した竜鱗は硬く、浅い傷を作りながらも互角以上に立ち回っていた。
 どれだけ窮地に追い込まれても必ず活路を見出す。針に糸を通すような、並の神経ではできない芸当に、獣人たちも次第に焦りを募らせていく。

「な、なぜだ……いくら竜人とは言っても、大勢でかかればどうだってできるはずだろ!?」

 牛の角を生やした獣人が、ウィルムの放つ覇気に畏怖を抱き手が震えて刃の軌道が反れる。
 それを見逃すウィルムではない。
 急所には届かないと悟り、あえて肩口を斬らせることで、隙だらけの胸部へ渾身の一撃を放つ。

「はっ!」

 捨て身の掌底は獣人の胸へ直撃し、まるでハンマーで叩きつけられたかのように吹き飛ばす。
 突然敵の陣形に穴が空き、両手で剣を振り上げていた獣人に隙ができる。

「っ!?」

 ウィルムが隙だらけの敵へ一瞬で肉薄し、剣を振り下ろされるより速く蹴り上げる。
 
 ――バコンッ!

 高く振り上げられた足は、小気味いい音を立て獣人の顎にクリーンヒット。
 一撃で意識を刈り取った。
 その隙を突こうと、すかさず豹男がダガーを握り突貫してくるが、ウィルムは回し蹴りで意識を失った獣人の体を蹴り飛ばしぶつける。

「ちぃっ!」

 細身の体では筋肉ダルマの重量を受け流しきれず、よろけて後退。
 右斜め前に残った最後の一人が剣を握り、恐怖に顔を歪めて叫んだ。
  
「な、なんなんだコイツはっ!?」

 恐怖心に刈られながらも、がむしゃらに剣を振るってくるが当たらない。
 ウィルムは隙だらけの連撃を容易く見切り、手刀で手首を打って剣を落とさせる。
 そして体を貫く勢いで隙だらけのみぞおちに、拳をねじ込んだ。
 衝撃が体を突き抜け、背後の空間まで揺らす。

「がはっ!」

 ウィルムが数歩下がると、獣人は苦悶の表情で腹部を押さえガクンと両膝を落とし、白目をむいて倒れた。
 ようやく敵の猛攻が止み、ウィルムは深く息を吐いた。
 体中のいたるところから血が溢れ出しているが、その闘気は揺らがない。
 力の差は歴然だった。だがそれも当然のこと。
 かつて村で戦っていた竜人ハンターと今のギルドハンターとの違い。
 それは、「なんのために戦うか」という信念によるもの。
 竜人たちはハンターではあったが、金のためではなく、愛する家族や村の仲間を守るために戦っていた。
 だが、目の前のハンターたちにはそれがない。
 
「俺たち竜人とあんたたちとでは、一戦一戦に賭ける覚悟が違う! そんな誇り高き仲間たちを侮辱することは許さない……彼らの屍の上に築かれた虚栄なんて、決して認めない!」

 ウィルムの魂の叫びに反論できる者はいない。
 曲刀を再び手にしたジャックはゆっくりとウィルムの前に立ち、神妙な面持ちで彼を見据えた。 
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