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最終章 激動の最終決戦
ウィルムの戦い
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ウィルムがシャームの後を追っていると、町の西南にある公園の草むらの奥へ進み、やがて森へと足を踏み入れた。
近くに採取フィールドの洞窟があるが、ハンターたちは南端の正門から出てフィールドへ向かうため、新種も旧アビス出現せず採取ポイントもないこのエリアには、基本的に立ち寄らない場所だ。
ウィルムが強い警戒心を抱きながら歩いていくと、土砂の隆起した低い崖の下でシャームが足を止める。頭上まで原生林が生い茂っているため、空は見えない。
シャームが背後を振り向くと、顔には陰湿な笑みを貼りつけ鋭い眼光を放っていた。
「今一度問います。カエデ君の居場所はどこですか?」
「は?」
想定外の問いにウィルムは眉をしかめる。
その意図が分からない。
カエデの居場所を知るため、シャームの誘いに乗ったというのに、なぜ自分へ問いが返されているのか。
遠くで不気味な獣の金切り声が響き渡り緊張感が増す。
ウィルムが無言で後ずさると、シャームはこれ見よがしに肩を落とし深いため息を吐いた。
「そうですか……あなたには振り回されてばかりだ。だからせめて、ここで潔く死になさい」
驚くほど低く冷たい声で告げられた。
「死ね」と。
ウィルムの背筋に怖気が走り、反射的に身構える。
ガサガサと崖の上から草を掻き分ける足音が漏れ、ウィルムが見上げると、そこには武装した五人の男の姿があった。
「やはり、アルビオン商会か……」
ウィルムは苦しげに頬を歪ませ、これまで自分を襲撃してきた犯人の確証を得る。
崖の上に立つのは、かつてイノセントからの護衛依頼を引き受けてくれた、筋骨隆々の獣人が三人、以前ジャックと行動を共にしていた豹顔の細身の獣人が一人、そして黒装束を纏い、古傷を負ったいかつい顔と鋭い眼光をフードの内側から覗かせているジャックだ。
それぞれ、刃幅が広く重量感ある片手剣や、暗殺に特化したダガー、長剣よりは短い刃渡りの曲刀を装備している。
「あなたはもう終わりです。せいぜい、ギルドに盾突いたことを後悔しなさい」
シャームがそう告げると共に、ハンターたちが足をバネのように曲げて地を蹴り、刃の切っ先をウィルムへ向け、崖から飛び降りてくる。
ウィルムは深く息を吸って腰を落とし両腕を構えると、覚悟を決めた。
――ヒュンッ!
ウィルムは頭上から振り下ろされた獣人の斬撃を飛び退いてかわす。
すると、その左横に着地した細身の豹男が急接近してくる。
前傾姿勢でダガーを振り下ろしてくるが、二人の距離はあと二メートル弱。明らかにリーチが足りない。その油断が命取り――
「くっ!」
ウィルムは慌てて体を横へ反らす。
彼はダガーをただ振り下ろしたのではない。投擲したのだ。
いったい誰がこの至近距離でダガーを投擲すると思うだろう。
戦闘開始直後だからこその奇策。
しかし、ダガーはウィルムの脇腹に掠ったものの、ギリギリで避け切った。
「はぁぁぁっ!」
今度はウィルムが反撃する番だ。
足を踏み出し、握った拳を豹男へまっすぐに叩きつける。
敵は両腕をクロスさせ打撃を受け止めると、そのままの勢いで飛び退いて距離をとった。
直後、その横から猛スピードでウィルムへ迫る者がいた。
曲刀を手にしたジャックだ。
「うらぁっ!」
「っ!?」
ウィルムは低姿勢から振り上げられた斬撃を間一髪かわすが、次々に連撃が繰り出される。
空を切り変幻自在に宙を走る刃。
しなやかな太刀筋は読みづらく、肩、脇腹、頬と、またたく間に切り傷を作っていく。
まるで暴風のような連続攻撃だ。
反撃の糸口を掴めず、ウィルムがなんとか受け流していると、左右から獣人二人が駆けてくる。
もし三方向から攻撃されれば、ひとたまりもない。
「はぁぁぁっ!」
ジャックの上段での斬り払いを見切ったウィルムは、屈んでかわすと同時に拳を上に引き、勢いよく地面を拳を打ち付ける。
砂塵が巻き上がり、一瞬の目くらましを作った。
これでジャックは反撃を警戒し、追撃はできない。
ウィルムはすぐに飛び退いて距離をとろうとするが、ジャックはそれを読んでいた。
視界の悪い中、一直線に突っ込んで来る。
「甘い!」
振り下ろしてきた曲刀、それを握る手首へ狙いをつけ、ウィルムは蹴り上げる。
見事ジャックの右手首に直撃。その手から曲刀が飛んだ。
しかしジャックは怯まず、左ストレートを放ってくる。
ウィルムは右腕で受け、衝撃によろけ後ずさる。
「ジャック……」
近くに採取フィールドの洞窟があるが、ハンターたちは南端の正門から出てフィールドへ向かうため、新種も旧アビス出現せず採取ポイントもないこのエリアには、基本的に立ち寄らない場所だ。
ウィルムが強い警戒心を抱きながら歩いていくと、土砂の隆起した低い崖の下でシャームが足を止める。頭上まで原生林が生い茂っているため、空は見えない。
シャームが背後を振り向くと、顔には陰湿な笑みを貼りつけ鋭い眼光を放っていた。
「今一度問います。カエデ君の居場所はどこですか?」
「は?」
想定外の問いにウィルムは眉をしかめる。
その意図が分からない。
カエデの居場所を知るため、シャームの誘いに乗ったというのに、なぜ自分へ問いが返されているのか。
遠くで不気味な獣の金切り声が響き渡り緊張感が増す。
ウィルムが無言で後ずさると、シャームはこれ見よがしに肩を落とし深いため息を吐いた。
「そうですか……あなたには振り回されてばかりだ。だからせめて、ここで潔く死になさい」
驚くほど低く冷たい声で告げられた。
「死ね」と。
ウィルムの背筋に怖気が走り、反射的に身構える。
ガサガサと崖の上から草を掻き分ける足音が漏れ、ウィルムが見上げると、そこには武装した五人の男の姿があった。
「やはり、アルビオン商会か……」
ウィルムは苦しげに頬を歪ませ、これまで自分を襲撃してきた犯人の確証を得る。
崖の上に立つのは、かつてイノセントからの護衛依頼を引き受けてくれた、筋骨隆々の獣人が三人、以前ジャックと行動を共にしていた豹顔の細身の獣人が一人、そして黒装束を纏い、古傷を負ったいかつい顔と鋭い眼光をフードの内側から覗かせているジャックだ。
それぞれ、刃幅が広く重量感ある片手剣や、暗殺に特化したダガー、長剣よりは短い刃渡りの曲刀を装備している。
「あなたはもう終わりです。せいぜい、ギルドに盾突いたことを後悔しなさい」
シャームがそう告げると共に、ハンターたちが足をバネのように曲げて地を蹴り、刃の切っ先をウィルムへ向け、崖から飛び降りてくる。
ウィルムは深く息を吸って腰を落とし両腕を構えると、覚悟を決めた。
――ヒュンッ!
ウィルムは頭上から振り下ろされた獣人の斬撃を飛び退いてかわす。
すると、その左横に着地した細身の豹男が急接近してくる。
前傾姿勢でダガーを振り下ろしてくるが、二人の距離はあと二メートル弱。明らかにリーチが足りない。その油断が命取り――
「くっ!」
ウィルムは慌てて体を横へ反らす。
彼はダガーをただ振り下ろしたのではない。投擲したのだ。
いったい誰がこの至近距離でダガーを投擲すると思うだろう。
戦闘開始直後だからこその奇策。
しかし、ダガーはウィルムの脇腹に掠ったものの、ギリギリで避け切った。
「はぁぁぁっ!」
今度はウィルムが反撃する番だ。
足を踏み出し、握った拳を豹男へまっすぐに叩きつける。
敵は両腕をクロスさせ打撃を受け止めると、そのままの勢いで飛び退いて距離をとった。
直後、その横から猛スピードでウィルムへ迫る者がいた。
曲刀を手にしたジャックだ。
「うらぁっ!」
「っ!?」
ウィルムは低姿勢から振り上げられた斬撃を間一髪かわすが、次々に連撃が繰り出される。
空を切り変幻自在に宙を走る刃。
しなやかな太刀筋は読みづらく、肩、脇腹、頬と、またたく間に切り傷を作っていく。
まるで暴風のような連続攻撃だ。
反撃の糸口を掴めず、ウィルムがなんとか受け流していると、左右から獣人二人が駆けてくる。
もし三方向から攻撃されれば、ひとたまりもない。
「はぁぁぁっ!」
ジャックの上段での斬り払いを見切ったウィルムは、屈んでかわすと同時に拳を上に引き、勢いよく地面を拳を打ち付ける。
砂塵が巻き上がり、一瞬の目くらましを作った。
これでジャックは反撃を警戒し、追撃はできない。
ウィルムはすぐに飛び退いて距離をとろうとするが、ジャックはそれを読んでいた。
視界の悪い中、一直線に突っ込んで来る。
「甘い!」
振り下ろしてきた曲刀、それを握る手首へ狙いをつけ、ウィルムは蹴り上げる。
見事ジャックの右手首に直撃。その手から曲刀が飛んだ。
しかしジャックは怯まず、左ストレートを放ってくる。
ウィルムは右腕で受け、衝撃によろけ後ずさる。
「ジャック……」
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