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最終章 激動の最終決戦
最後のカード
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「そんなに怪しいとおっしゃるのであれば、ウィルムをここへ呼んではどうです?」
「往生際が悪いぞ。そなたの画策を待っている時間などないわ」
苦し紛れとも言えるルークの提案を、カドルは余裕の表情でつっぱねる。
闘争心をむき出しにして睨み合う領主補佐官二人。
討論は泥仕合の様相を呈してきていた。
文官たちは緊張の面持ちで成り行きを見守り、会議室は重苦しい雰囲気に包まれている。
やがて、カドルは催促するような鋭い視線を幹事へ向け、その意図をくみ取った幹事は控えめに咳払いし告げた。
「討論のほうは、そろそろ頃合いかと存じます。採決に移っても問題でしょうか?」
「構わん」
「――ま、待ってください! まだ話は終わっていません!」
「見苦しいぞルーク殿。もう議論の余地はあるまい」
「このまま変な言いがかりをつけられたまま、終われるわけないでしょう!?」
ルークが必死に訴えるが、カドルは余裕の表情を崩さず淡々と反論し、幹事も人の良さそうな丸顔を困ったようにしかめるだけだ。
それもそのはず。今の雰囲気をかんがみれば、誰もがカドルの勝利を確信している。
そうなると中立の立場の者も、後々の自分の立場を考えてカドルへ投票するのは自明の理だ。
ルークはそれ以上なにも言わず、表情を消し静かに俯いた。
一瞬の静寂。
彼はとうとう敗北を認めたのだと、誰もがそう思った。
しかし――
「………………なにがおかしい?」
カドルが不審げに眉をしかめ問いかける。
俯いていたルークの頬をわずかに吊り上がっていたのだ。
しかし、ルークからは返答はない。
ただ、彼はまだ諦めていないのだと、そう予感させる不思議な雰囲気を発していた。
だだその理由に、ルーク以外の誰も気付いていない。
彼の部下の一人が先刻の騒動の間際、姿を消していたことに……
「幹事!」
「は、はいっ! そ、それでは採決に――」
カドルに圧力をかけられ、幹事が慌てて進行しようとしたそのとき、会議室の扉がゆっくりと開いた。
「――来たか」
ルークがゆっくりと顔を上げる。
その顔には不敵な笑みを浮かべていた。
何事かと一同が注目した視線の先、領主選に介入してきたのは一人の女性だった。
その背後にはルークの護衛騎士。
「……な、なんだとっ!?」
一番驚いていたのはグレイヴだった。
長い黒髪を後ろで一つに束ね、黒のブラウスの上から大きめの白衣を羽織ったその美しい女は、凛々しく堂々と円形に並べられた机の前に立つ。
その美貌に皆が目を奪われる中、ルークが勝ち誇ったように告げた。
「ご紹介します。彼女は薬屋フローラの薬師――」
「――『カエデ』と申します」
ルークはとうとう、最後の切り札を切った。
領主選の行方を左右するのは文官たちの支持ではない。ギルドの秘密を握る彼女の存在だ。
ルークは先日の新種アビス襲撃の際、ウィルムから薬師の協力者がいると聞いていた。それを聞いてすぐに、カエデの周囲へ部下を放っていた。
もしギルドとの決戦になった際、彼女の存在が勝敗を左右すると直感していたからだ。
そして期せずして、アンフィスが倒れる数日前にギルドが裏で動き出し、カエデの身の危険を察知したため、ルークはギルドよりも先に彼女を保護した。
ウィルムへこのことを伝えていなかったのは、アンフィス暗殺による騒動があってそれどころでなかったことと、情報漏えいの危険性を減らすためでもある。
ルークとしては本来、ウィルムと共にこの場へ立たせる予定だったが、彼の身になにかが起こった以上はやむを得ない。
「どういうことだ、ルーク殿。なぜ部外者をここへ連れて来た?」
「部外者ではありません。それを言うなら、カドル殿も同じではありませんか?」
ルークは涼しげな表情で言い返し、グレイヴたちを見やる。
グレイヴは深刻な表情でカエデを睨みつけており、ホルムスは青ざめて挙動不審になっていた。
効果はバツグンだ。
「言っただろう。グレイヴ殿たちはこの領主選に無関係ではないと」
「それは彼女も同じです。彼女こそが新種アビスの秘密を知る、『証人』なのですから」
「……なに?」
カドルが眉間に深いしわをつくり低い声を発する。
周囲で文官たちが顔を見合わせ、どういうことだとささやき出した。しかし、まだルークの悪あがきだと疑う者もいて怪訝そうな視線を向けている。
グレイヴに関しては、額に青筋を浮かべ今にも怒りが爆発しそうだ。
「往生際が悪いぞ。そなたの画策を待っている時間などないわ」
苦し紛れとも言えるルークの提案を、カドルは余裕の表情でつっぱねる。
闘争心をむき出しにして睨み合う領主補佐官二人。
討論は泥仕合の様相を呈してきていた。
文官たちは緊張の面持ちで成り行きを見守り、会議室は重苦しい雰囲気に包まれている。
やがて、カドルは催促するような鋭い視線を幹事へ向け、その意図をくみ取った幹事は控えめに咳払いし告げた。
「討論のほうは、そろそろ頃合いかと存じます。採決に移っても問題でしょうか?」
「構わん」
「――ま、待ってください! まだ話は終わっていません!」
「見苦しいぞルーク殿。もう議論の余地はあるまい」
「このまま変な言いがかりをつけられたまま、終われるわけないでしょう!?」
ルークが必死に訴えるが、カドルは余裕の表情を崩さず淡々と反論し、幹事も人の良さそうな丸顔を困ったようにしかめるだけだ。
それもそのはず。今の雰囲気をかんがみれば、誰もがカドルの勝利を確信している。
そうなると中立の立場の者も、後々の自分の立場を考えてカドルへ投票するのは自明の理だ。
ルークはそれ以上なにも言わず、表情を消し静かに俯いた。
一瞬の静寂。
彼はとうとう敗北を認めたのだと、誰もがそう思った。
しかし――
「………………なにがおかしい?」
カドルが不審げに眉をしかめ問いかける。
俯いていたルークの頬をわずかに吊り上がっていたのだ。
しかし、ルークからは返答はない。
ただ、彼はまだ諦めていないのだと、そう予感させる不思議な雰囲気を発していた。
だだその理由に、ルーク以外の誰も気付いていない。
彼の部下の一人が先刻の騒動の間際、姿を消していたことに……
「幹事!」
「は、はいっ! そ、それでは採決に――」
カドルに圧力をかけられ、幹事が慌てて進行しようとしたそのとき、会議室の扉がゆっくりと開いた。
「――来たか」
ルークがゆっくりと顔を上げる。
その顔には不敵な笑みを浮かべていた。
何事かと一同が注目した視線の先、領主選に介入してきたのは一人の女性だった。
その背後にはルークの護衛騎士。
「……な、なんだとっ!?」
一番驚いていたのはグレイヴだった。
長い黒髪を後ろで一つに束ね、黒のブラウスの上から大きめの白衣を羽織ったその美しい女は、凛々しく堂々と円形に並べられた机の前に立つ。
その美貌に皆が目を奪われる中、ルークが勝ち誇ったように告げた。
「ご紹介します。彼女は薬屋フローラの薬師――」
「――『カエデ』と申します」
ルークはとうとう、最後の切り札を切った。
領主選の行方を左右するのは文官たちの支持ではない。ギルドの秘密を握る彼女の存在だ。
ルークは先日の新種アビス襲撃の際、ウィルムから薬師の協力者がいると聞いていた。それを聞いてすぐに、カエデの周囲へ部下を放っていた。
もしギルドとの決戦になった際、彼女の存在が勝敗を左右すると直感していたからだ。
そして期せずして、アンフィスが倒れる数日前にギルドが裏で動き出し、カエデの身の危険を察知したため、ルークはギルドよりも先に彼女を保護した。
ウィルムへこのことを伝えていなかったのは、アンフィス暗殺による騒動があってそれどころでなかったことと、情報漏えいの危険性を減らすためでもある。
ルークとしては本来、ウィルムと共にこの場へ立たせる予定だったが、彼の身になにかが起こった以上はやむを得ない。
「どういうことだ、ルーク殿。なぜ部外者をここへ連れて来た?」
「部外者ではありません。それを言うなら、カドル殿も同じではありませんか?」
ルークは涼しげな表情で言い返し、グレイヴたちを見やる。
グレイヴは深刻な表情でカエデを睨みつけており、ホルムスは青ざめて挙動不審になっていた。
効果はバツグンだ。
「言っただろう。グレイヴ殿たちはこの領主選に無関係ではないと」
「それは彼女も同じです。彼女こそが新種アビスの秘密を知る、『証人』なのですから」
「……なに?」
カドルが眉間に深いしわをつくり低い声を発する。
周囲で文官たちが顔を見合わせ、どういうことだとささやき出した。しかし、まだルークの悪あがきだと疑う者もいて怪訝そうな視線を向けている。
グレイヴに関しては、額に青筋を浮かべ今にも怒りが爆発しそうだ。
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