56 / 66
最終章 激動の最終決戦
濃厚な敗色
しおりを挟む
「えぇいっ、ペテンめ! 皆、騙されるな! どうせこの者は、自分がひいきにしている領外の商会を送り込み、己の私腹を肥やそうとしているだけだ。税率の引き下げなど、領民から支持を得るための綺麗ごとにすぎない!」
ルークははらわたが煮えくり返る思いだった。
どの口が言うのかと。
すべてカドルに当てはまることではないか。
己の私利私欲のためにギルドと手を組み、政治を思い通りに操ろうとしている。これをペテンと言わずなんと言うのか。
しかしルークは、そんな見え透いた挑発には乗らず、あくまで冷静に反論する。
「綺麗ごとなどで済ませるつもりはありません」
「ほぅ? では証明してみせようか?」
「はい? どういう意味ですか?」
ルークは違和感を覚えた。
カドルの浮かべている不敵な笑みは、決して強がりには見えない。絶対の有利を確信しているものだ。
しかし、この状況でいったいなにができるのか。
ルークが思考を巡らせていると、カドルは壁際に立つ自分の護衛騎士に目配せした。
頷いた騎士は、大会議室の入口へ歩いていき扉を開け放つ。
するとそこには、二人の騎士とそれに押さえ付けられたボロボロの騎士の姿があった。その騎士はぐったりとこうべを垂れて両肩を掴まれており、ボサボサな髪に赤く腫れあがった頬を見ても、酷い暴行にあったことは疑いようもない。
屈強な騎士たちは、罪人のように押さえ付けられた騎士を無理やり歩かせ、部屋に入ったところでひざまづかせる。
驚愕に目を見開き固まったルークへ、カドルは勝ち誇ったような薄い笑みを浮かべた。
「この者は、そなたの護衛で間違いないな?」
「……なぜ」
ルークは蚊の鳴くような声で唖然と呟いた。
今、彼らの目の前で罪人のようにこうべを垂れている騎士は、昨日ウィルムの元へ送った護衛だったのだ。
彼は傷だらけの顔をわずかに上げ、申し訳なさそうに告げる。
「……ルーク様、申し訳ございません」
「カ、カドル殿っ! これはいったいどういうことですか!? なぜあなたが私の大切な部下を捕らえているのです!? すぐに解放してください!」
彼の謝罪の言葉を聞いた途端、ルークの冷静さは失われ感情的になってしまう。
カドルは部下たちに「離してやれ」と告げ、ルークの護衛は解放された。しかし彼は、悔しそうに唇を噛んで俯いたまま立ち上がらない。
カドルは悪びれた様子もなく、ルークを見据えて言い放つ。
「これは失礼。彼がある鉱石商の家に入ったところを部下が目撃したようでね。怪しいと思い、証人としてここに連れて来た」
「証人?」
「ルーク補佐官、そなたは鉱石商ウィルム・クルセイドと繋がっているな?」
そのとき、文官たちの間で波紋が広がる。
その表情は様々。
ウィルム・クルセイド、彼は先日のアビス襲撃の件で見事それを撃退した英雄でもあり、以前に詐欺容疑をかけられた鉱石商でもある。
顔を見合わせる文官たちの中には、嫌悪感も示す者もいれば、だからなんだと平然としている者もいる。
ルークは、なにもやましいことなどないと言うように、カドルから目を逸らさず堂々と答えた。
「鉱石商のウィルムとは、親しくさせてもらっています。それがなにか?」
「どうも怪しいな」
「なにがです?」
苛立ちを孕んだルークの視線を受け流し、カドルはグレイヴへ目を向ける。
グレイヴは一歩前に出て問いに答えた。
「ウィルム・クルセイドは、この町に現れた新種アビスを討伐しました。それどころか、その弱点が火であることをあばき、大量のフレアダイト鉱石を売り払って、火属性の武器を急速に広めたのです」
「その通り、言わばドラチナスの救世主でしょう。なにが怪しいと言うのですか?」
「ではなぜ、彼はそんな絶妙なタイミングでフレアダイト鉱石を仕入れることができたのでしょうか? なぜ、出現して数日しか経っていなかったのに、誰も知らない新種の弱点を鉱石商の彼が知り得たのでしょうか?」
「それは……」
ルークは言葉に詰まる。
正直に答えたところで、事情を知らない文官たちがどう思うか分からないのだ。
ルークは忌々しげに頬を歪ませる。彼らに最大の勝機を潰されてしまったと悟った。
カドルはそんなルークの様子を見て冷笑し、さらに追いつめようとする。
「怪しすぎるな。そして、そんな鉱石商と繋がっているルーク補佐官、そなたも怪しい。もしや、先ほどの詭弁の正当性を高めるために、そなたが仕組んだことではないのか?」
「バカな! 私が新種の出現を意図的に画策したとでも言うつもりですか!?」
「ふんっ、そのほうが納得できるというもの。そうなると、領主様を暗殺したのもそなたである可能性が浮上してくるな」
「ふざけないで頂きたい! そこまでの侮辱、到底許せるものではありません!」
怒鳴るルーク。
しかし状況はいつの間にか彼の圧倒的不利になっていた。
ギルド側を糾弾するはずが、なぜかルークがその黒幕に仕立てられそうになっている。
「くっ……」
ルークとてカドルとギルドとの繋がり、そして裏での暗躍とアビス開発の真実をあばきたいが、上手くはいきそうになかった。
重要な証人がここにいない今、言葉だけを並べたところで負け惜しみにしか聞こえない。
だが、このまま領主選の採決に入っては、間違いなくルークが負ける。
ルークははらわたが煮えくり返る思いだった。
どの口が言うのかと。
すべてカドルに当てはまることではないか。
己の私利私欲のためにギルドと手を組み、政治を思い通りに操ろうとしている。これをペテンと言わずなんと言うのか。
しかしルークは、そんな見え透いた挑発には乗らず、あくまで冷静に反論する。
「綺麗ごとなどで済ませるつもりはありません」
「ほぅ? では証明してみせようか?」
「はい? どういう意味ですか?」
ルークは違和感を覚えた。
カドルの浮かべている不敵な笑みは、決して強がりには見えない。絶対の有利を確信しているものだ。
しかし、この状況でいったいなにができるのか。
ルークが思考を巡らせていると、カドルは壁際に立つ自分の護衛騎士に目配せした。
頷いた騎士は、大会議室の入口へ歩いていき扉を開け放つ。
するとそこには、二人の騎士とそれに押さえ付けられたボロボロの騎士の姿があった。その騎士はぐったりとこうべを垂れて両肩を掴まれており、ボサボサな髪に赤く腫れあがった頬を見ても、酷い暴行にあったことは疑いようもない。
屈強な騎士たちは、罪人のように押さえ付けられた騎士を無理やり歩かせ、部屋に入ったところでひざまづかせる。
驚愕に目を見開き固まったルークへ、カドルは勝ち誇ったような薄い笑みを浮かべた。
「この者は、そなたの護衛で間違いないな?」
「……なぜ」
ルークは蚊の鳴くような声で唖然と呟いた。
今、彼らの目の前で罪人のようにこうべを垂れている騎士は、昨日ウィルムの元へ送った護衛だったのだ。
彼は傷だらけの顔をわずかに上げ、申し訳なさそうに告げる。
「……ルーク様、申し訳ございません」
「カ、カドル殿っ! これはいったいどういうことですか!? なぜあなたが私の大切な部下を捕らえているのです!? すぐに解放してください!」
彼の謝罪の言葉を聞いた途端、ルークの冷静さは失われ感情的になってしまう。
カドルは部下たちに「離してやれ」と告げ、ルークの護衛は解放された。しかし彼は、悔しそうに唇を噛んで俯いたまま立ち上がらない。
カドルは悪びれた様子もなく、ルークを見据えて言い放つ。
「これは失礼。彼がある鉱石商の家に入ったところを部下が目撃したようでね。怪しいと思い、証人としてここに連れて来た」
「証人?」
「ルーク補佐官、そなたは鉱石商ウィルム・クルセイドと繋がっているな?」
そのとき、文官たちの間で波紋が広がる。
その表情は様々。
ウィルム・クルセイド、彼は先日のアビス襲撃の件で見事それを撃退した英雄でもあり、以前に詐欺容疑をかけられた鉱石商でもある。
顔を見合わせる文官たちの中には、嫌悪感も示す者もいれば、だからなんだと平然としている者もいる。
ルークは、なにもやましいことなどないと言うように、カドルから目を逸らさず堂々と答えた。
「鉱石商のウィルムとは、親しくさせてもらっています。それがなにか?」
「どうも怪しいな」
「なにがです?」
苛立ちを孕んだルークの視線を受け流し、カドルはグレイヴへ目を向ける。
グレイヴは一歩前に出て問いに答えた。
「ウィルム・クルセイドは、この町に現れた新種アビスを討伐しました。それどころか、その弱点が火であることをあばき、大量のフレアダイト鉱石を売り払って、火属性の武器を急速に広めたのです」
「その通り、言わばドラチナスの救世主でしょう。なにが怪しいと言うのですか?」
「ではなぜ、彼はそんな絶妙なタイミングでフレアダイト鉱石を仕入れることができたのでしょうか? なぜ、出現して数日しか経っていなかったのに、誰も知らない新種の弱点を鉱石商の彼が知り得たのでしょうか?」
「それは……」
ルークは言葉に詰まる。
正直に答えたところで、事情を知らない文官たちがどう思うか分からないのだ。
ルークは忌々しげに頬を歪ませる。彼らに最大の勝機を潰されてしまったと悟った。
カドルはそんなルークの様子を見て冷笑し、さらに追いつめようとする。
「怪しすぎるな。そして、そんな鉱石商と繋がっているルーク補佐官、そなたも怪しい。もしや、先ほどの詭弁の正当性を高めるために、そなたが仕組んだことではないのか?」
「バカな! 私が新種の出現を意図的に画策したとでも言うつもりですか!?」
「ふんっ、そのほうが納得できるというもの。そうなると、領主様を暗殺したのもそなたである可能性が浮上してくるな」
「ふざけないで頂きたい! そこまでの侮辱、到底許せるものではありません!」
怒鳴るルーク。
しかし状況はいつの間にか彼の圧倒的不利になっていた。
ギルド側を糾弾するはずが、なぜかルークがその黒幕に仕立てられそうになっている。
「くっ……」
ルークとてカドルとギルドとの繋がり、そして裏での暗躍とアビス開発の真実をあばきたいが、上手くはいきそうになかった。
重要な証人がここにいない今、言葉だけを並べたところで負け惜しみにしか聞こえない。
だが、このまま領主選の採決に入っては、間違いなくルークが負ける。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
私にモテ期とか冗談でしょ? アラサーオタ喪女に突然の逆ハーレム
ブラックウォーター
恋愛
アラサー、独身、彼氏なし、趣味サブカル全般。
28歳の会社員、秋島瞳は単調な毎日を過ごしていた。
休日はDVDやネット動画を観て過ごす。
食事は外食かズボラ飯。
昨日までは…。
同期でやり手の上司、克己。
エリートで期待のルーキー、勇人。
会社創業者一族で貴公子、龍太郎。
イケメンたちになぜか付き合ってくれと言われて…。
なんの冗談?私にモテ期っておかしいって!
なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!
るっち
ファンタジー
土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!
俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています
【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~
朱村びすりん
ファンタジー
~あらすじ~
炎の力を使える青年、リ・リュウキは記憶を失っていた。
見知らぬ山を歩いていると、人ひとり分ほどの大きな氷を発見する。その中には──なんと少女が悲しそうな顔をして凍りついていたのだ。
美しい少女に、リュウキは心を奪われそうになる。
炎の力をリュウキが放出し、氷の封印が解かれると、驚くことに彼女はまだ生きていた。
謎の少女は、どういうわけか、ハクという化け物の白虎と共生していた。
なぜ氷になっていたのかリュウキが問うと、彼女も記憶がなく分からないのだという。しかし名は覚えていて、彼女はソン・ヤエと名乗った。そして唯一、闇の記憶だけは残っており、彼女は好きでもない男に毎夜乱暴されたことによって負った心の傷が刻まれているのだという。
記憶の一部が失われている共通点があるとして、リュウキはヤエたちと共に過去を取り戻すため行動を共にしようと申し出る。
最初は戸惑っていたようだが、ヤエは渋々承諾。それから一行は山を下るために歩き始めた。
だがこの時である。突然、ハクの姿がなくなってしまったのだ。大切な友の姿が見当たらず、ヤエが取り乱していると──二人の前に謎の男が現れた。
男はどういうわけか何かの事情を知っているようで、二人にこう言い残す。
「ハクに会いたいのならば、満月の夜までに西国最西端にある『シュキ城』へ向かえ」
「記憶を取り戻すためには、意識の奥底に現れる『幻想世界』で真実を見つけ出せ」
男の言葉に半信半疑だったリュウキとヤエだが、二人にはなんの手がかりもない。
言われたとおり、シュキ城を目指すことにした。
しかし西の最西端は、化け物を生み出すとされる『幻草』が大量に栽培される土地でもあった……。
化け物や山賊が各地を荒らし、北・東・西の三ヶ国が争っている乱世の時代。
この世に平和は訪れるのだろうか。
二人は過去の記憶を取り戻すことができるのだろうか。
特異能力を持つ彼らの戦いと愛情の物語を描いた、古代中国風ファンタジー。
★2023年1月5日エブリスタ様の「東洋風ファンタジー」特集に掲載されました。ありがとうございます(人´∀`)♪
☆special thanks☆
表紙イラスト・ベアしゅう様
77話挿絵・テン様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる