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最終章 激動の最終決戦

決戦の舞台

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 そのとき、背後から声をかけられた。

「ウィルムさん! ようやく見つけましたよ!」

 切羽詰まった声に驚いて背後を見ると、そこにいたのはルークの護衛で、よく伝令役としてやって来る騎士だった。
 今も変装してハンターのようなラフな恰好をしているが、こんな時間にウィルムと接触するとは珍しい。
 いつもはルークとウィルムの繋がりを隠すために深夜来ることが多いが、息を切らして焦っている様子を見るに、それどころではなさそうだ。
 ウィルムは嫌な予感がしていた。

「なにかあったんですか?」

「至急、お伝えしなければならないことがあります」

 そうは言ったが、「ここで話すわけにはいかない」ということで、一旦ウィルムの家に移動した。
 そして、告げられたのは「領主アンフィスが暗殺された」という驚愕の事実。
 剣で胸を貫かれていた状態で発見されたが犯人は不明。常にそばにいるはずの護衛二人が行方不明となっていることから、彼らの犯行である可能性が高いとして調査が進められている。
 新たな衝撃に息の詰まるウィルムだったが、ようやく町が騒然としていた理由が分かった。
 しかし厳しいのはここからだ。

「――領主選?」

「はい。領内規定では通常、現領主が次期領主を指名し正式に引き継ぐこととなっています。しかし、現領主が不慮の事故等で指名不能となったとき、緊急時の措置として領主選を行い、新領主を選定することができるのです」

 騎士は続けて説明する。
 領主選は、領主補佐官二人のうちどちらを領主にするか決めるものであり、各地区の役所を含めた高位職の文官十三名の多数決によって決める。
 まずは二人の領主補佐官で討論を行い、文官たちはその内容を聞いて最終判断を下し、討論終了後その場で採決をとる。
 そして、票数が過半数以上をとったほうが新領主になるというわけだ。
 今回争うのはルークとカドル。
 まさしく決戦、ギルドとの決着をつけるのにふさわしい舞台だとウィルムは思った。

「それで、領主選はいつですか?」

「明日です」

「んなっ!?」

 ウィルムは絶句し目を見開いた。
 あまりにも急すぎる。
 まさかと思った。まさか、ギルド側はこのためにアンフィスを殺したのではないか。味方につけたカドルを領主の座に据え、支配を盤石なものとするために。
 騎士はウィルムの心を読んだように無言で頷いた。
 おそらくルークも見当はついているのだろう。

形勢けいせいは?」

「それは……」

 騎士の話では、文官たちの見解としては、カドルは経験豊富で安定した政務を行えること、ギルドへの資金援助など財政政策に積極的であるという印象が強い。
 対してルークは、若いながら優秀で正義感に溢れているため、ドラチナスの未来を託すに足るという評価で、アンフィスの信頼も厚かったため、悪い印象はない。ただ、カドルによくおくれをとっているため、経験不足な面が若干不安視されている。
 現在の支持としては、カドルが若干優位な雰囲気にあるものの、中立な立場の者が半数程度。明日の討論の内容で決めるのだろう。
 ウィルムは難しい顔で唸る。
 
「厳しい戦いにはなりそうですが、明日の討論でルークさんの政策を語れば、十分勝ち目はありそうですね。あの人の改革案には、それだけの利点がある」 

「戦いは既に始まっています。もしかすると、討論の前に決着がついてしまうかもしれません」

「どういうことですか?」

 神妙な表情で言う騎士へ聞き返す。
 確かにアンフィスの後ろ盾を失った今、ルークが苦しい状況なのは分かる。
 しかし、カドルがルークの案を超えるような政策を打ち出せるとも思えない。

「根回しですよ。カドル殿は今、領主選の議決権を持つ文官たちの元を回っています。もちろん、ルーク様も親しい間柄の文官に声をかけていますが、ここで差をつけられてしまうかもしれません」

 カドルは、ぎょしやすそうな文官の元へ回り、大金を握らせているという。また、金でなびかない者には、領主の人事権によって出世させることを約束したりして、強引に票を集めようとしているようだ。
 アンフィスが健在であれば、そんな行為は公平性にかけると介入するだろうが、今はカドル優勢のため、声を上げられる者はいない。
 とはいえ、カドルも必勝には七人の票が必要になる。

「領主選は明日でしょう? 一夜で半数以上の文官を回って交渉し抱き込むなんて、本当にできるんですか?」

「いえ、別に半数でなくてもいいのです。4か5は確実な票があれば、勝利する可能性は各段に上がるのですから」

「それはどういう?」

「文官たちにも立場があります。もし、自分の支持した人が領主になれなかった場合、支持しなかった新領主から敵視されることになります。そうなると、肩身の狭い思いをしなければならず、下手すれば立場を追いやられるかもしれません。ですから、圧倒的優位を演出できさえすれば、それだけで意志の弱い文官は勝ち馬に乗ろうと票を投じるのです」

「そういうことですか」

 ウィルムは肩を落としため息を吐いた。
 聞けば聞くほど、ルークの不利が浮き彫りになってくる。
 なにか手伝えることはないかと、ウィルムが頭を抱えていると騎士が言った。

「ウィルムさん、あなたのお力を貸して頂きたい」

「僕にできることなら、なんでもやりますよ」

「ありがとうございます。もし、明日の討論でルーク様の敗色が濃厚となった場合、最終手段としてギルドの悪事とカドル殿の関係を糾弾しようと、ルーク様は考えておられます。そこで、証人としてウィルム殿にも参加して頂きたいのです」

「……なるほど、そういうことだったのかっ……」

 ウィルムは目を見開いて悔しげに呟いた。
 ようやくカエデ失踪の裏が見えた気がしたのだ。
 今回の領主選でカドルが恐れているのは、アビスの件が暴かれることだ。その真実を掴んだ可能性のあるカエデを野放しにしておくと、ルークが利用するかもしれない。だからこそ、それを潰すために彼女を狙ったと考えられる。
 ウィルムは苦悩に眉を寄せた。
 彼一人では、ギルドを糾弾するにたる証拠が出せない。かき集めようにも、明日の朝まででは時間がなさすぎる。

「ウィルムさん?」

「……分かりました。できるだけのことはやってみます」

 それでも断ることはできなかった。
 ルークが領主になって、ギルドに干渉することができれば、カエデのこともきっと助けられるはず。
 今のウィルムには、明日の領主選でルークを勝たせる以外に道はない。
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