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第五章 生贄の反逆
布石
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――時は今へ戻る。
ウィルムの乱入により、新種アビスの討伐を目の当たりにしたことで、民衆は大いに沸いていた。
騎士たちはアビスの死体の状態を確かめ、領民たちはウィルムを囲む。
興奮を抑えられずわめき立てる彼らの間をすり抜け、鍛冶屋の親方が前に出てウィルムの横に並んだ。
「さすがは、俺の鍛えた『炎剣フレアベルク』だ!」
「はい、これのおかげで難なくアビスを倒すことができました」
ガハハハと笑って満足そうにウィルムの肩を叩く親方。
ウィルムは頷いてフレアベルクを頭上に掲げた。紅蓮に輝く刀身から溢れ出す熱気が、周囲に伝播する。
それによって民衆の注目は、灼熱纏う炎剣へ集まった。
「おぅっ、みんな見たか!? なにが新種アビスだ。所詮は火に弱いただの怪物さ! 火属性の武器さえあれば、新種だろうが恐れるに足らねぇ!」
親方の力強い叫びに民衆がざわめき出す。
彼らの瞳が希望に輝く。
それこそがウィルムの真の狙いだった。
新種アビスの討伐は、彼の活躍を見せつけ名誉挽回するためのものではない。新種の弱点をあばき、火属性の武器を普及させるための宣伝、言わばデモンストレーションだったのだ。
新種がドラチナスに現れることは完全な想定外だったが、それが起死回生の一手となった。
ギルドは明らかに失策を犯したと言える。
「――フレアダイトさえあれば、アビスどもにひと泡吹かせられるぜ!」
親方の扇動によって、民衆はフレアダイトが大量に乗った台車に注目する。
その横にはエルダとフェア、それに日雇いのエルフが数人。
彼女たちはウィルムからの手紙を受け取ってすぐにフレアダイトの仕入れを済ませ、自らドラチナスまで運んでくれたのだ。
「お、俺に売ってくれぇぇぇっ!」
「こ、こっちにも!」
ハンターや商人を中心に、フレアダイト鉱石を手に入れようとエルダたちの元へ殺到する。
ウィルムはそれを見届けると頬を緩ませ、呆けているルークの元へ歩み寄った。
彼の護衛の騎士たちも、新種の死骸のほうは別動隊に任せ、ルークの元へ戻っている。
ルークは信じられない光景でも見ているかのように、小さな声で呟いた。
「いったい、なにが起こっているんだ……」
「新種の弱点が判明したんです」
「火、か……しかしどうやって?」
「実は、フローラの薬師の一人が協力してくれたんです。彼女がこっそり調べてくれたおかげで、新種への変異に使われた薬草が判明し、そこから弱点が分かりました」
「そうだったのか……では、あれは?」
「ヴァルファームの村イノセントの鉱石商です。フレアダイト鉱石を仕入れるために協力してくれました。仕入れどころか、ここまで手伝ってくれて本当に助かってます。おかげで、思っていたよりも遥かに早くフレアダイトが広まりそうです。これですぐに、町中へ流通し火属性の武器もたくさん生産できるでしょう。これ以上、ギルドの思い通りになんてさせません」
ウィルムの商人としての手腕に、ルークは感嘆の声を漏らした。
頬は緩み表情は活気に満ちている。
「……驚いたな、君は大した商人だ。正直震えたよ」
「いえ、みんなの協力があったおかげです。偶然も重なって、なんとか上手くいきました」
「なにはともあれ、これでようやくギルドと戦える、ってわけか。ウィルム、礼を言わせてくれ。君がいなければ私は諦めていたかもしれない」
ウィルムは照れくさく思いながらも、ゆっくり首を横へ振った。
「これからが正念場です」
「ああ、当然ギルドが黙っているわけがない。ここからは私の領分だ。任せてくれ」
ルークが勇ましい笑みを浮かべ拳を握る。
ウィルムは神妙な表情で深く頷いた。
ウィルムの乱入により、新種アビスの討伐を目の当たりにしたことで、民衆は大いに沸いていた。
騎士たちはアビスの死体の状態を確かめ、領民たちはウィルムを囲む。
興奮を抑えられずわめき立てる彼らの間をすり抜け、鍛冶屋の親方が前に出てウィルムの横に並んだ。
「さすがは、俺の鍛えた『炎剣フレアベルク』だ!」
「はい、これのおかげで難なくアビスを倒すことができました」
ガハハハと笑って満足そうにウィルムの肩を叩く親方。
ウィルムは頷いてフレアベルクを頭上に掲げた。紅蓮に輝く刀身から溢れ出す熱気が、周囲に伝播する。
それによって民衆の注目は、灼熱纏う炎剣へ集まった。
「おぅっ、みんな見たか!? なにが新種アビスだ。所詮は火に弱いただの怪物さ! 火属性の武器さえあれば、新種だろうが恐れるに足らねぇ!」
親方の力強い叫びに民衆がざわめき出す。
彼らの瞳が希望に輝く。
それこそがウィルムの真の狙いだった。
新種アビスの討伐は、彼の活躍を見せつけ名誉挽回するためのものではない。新種の弱点をあばき、火属性の武器を普及させるための宣伝、言わばデモンストレーションだったのだ。
新種がドラチナスに現れることは完全な想定外だったが、それが起死回生の一手となった。
ギルドは明らかに失策を犯したと言える。
「――フレアダイトさえあれば、アビスどもにひと泡吹かせられるぜ!」
親方の扇動によって、民衆はフレアダイトが大量に乗った台車に注目する。
その横にはエルダとフェア、それに日雇いのエルフが数人。
彼女たちはウィルムからの手紙を受け取ってすぐにフレアダイトの仕入れを済ませ、自らドラチナスまで運んでくれたのだ。
「お、俺に売ってくれぇぇぇっ!」
「こ、こっちにも!」
ハンターや商人を中心に、フレアダイト鉱石を手に入れようとエルダたちの元へ殺到する。
ウィルムはそれを見届けると頬を緩ませ、呆けているルークの元へ歩み寄った。
彼の護衛の騎士たちも、新種の死骸のほうは別動隊に任せ、ルークの元へ戻っている。
ルークは信じられない光景でも見ているかのように、小さな声で呟いた。
「いったい、なにが起こっているんだ……」
「新種の弱点が判明したんです」
「火、か……しかしどうやって?」
「実は、フローラの薬師の一人が協力してくれたんです。彼女がこっそり調べてくれたおかげで、新種への変異に使われた薬草が判明し、そこから弱点が分かりました」
「そうだったのか……では、あれは?」
「ヴァルファームの村イノセントの鉱石商です。フレアダイト鉱石を仕入れるために協力してくれました。仕入れどころか、ここまで手伝ってくれて本当に助かってます。おかげで、思っていたよりも遥かに早くフレアダイトが広まりそうです。これですぐに、町中へ流通し火属性の武器もたくさん生産できるでしょう。これ以上、ギルドの思い通りになんてさせません」
ウィルムの商人としての手腕に、ルークは感嘆の声を漏らした。
頬は緩み表情は活気に満ちている。
「……驚いたな、君は大した商人だ。正直震えたよ」
「いえ、みんなの協力があったおかげです。偶然も重なって、なんとか上手くいきました」
「なにはともあれ、これでようやくギルドと戦える、ってわけか。ウィルム、礼を言わせてくれ。君がいなければ私は諦めていたかもしれない」
ウィルムは照れくさく思いながらも、ゆっくり首を横へ振った。
「これからが正念場です」
「ああ、当然ギルドが黙っているわけがない。ここからは私の領分だ。任せてくれ」
ルークが勇ましい笑みを浮かべ拳を握る。
ウィルムは神妙な表情で深く頷いた。
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