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第五章 生贄の反逆
宣戦布告
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ウィルムがしばらく頭を悩ませていると、カエデはいつの間にか泣き止んでいた。
「――これを」
カエデは、テーブルの隅に置いていた紙の束に震える色白の手を乗せ、ウィルムの目の前に移動させる。
ウィルムが首を傾げ彼女の泣き晴らした目を見ると、そこには強い決意が宿っていた。
カエデは呼吸を整え、ゆっくりと告げる。
「あなたの元にやって来た理由は、もう一つあるの」
そう言って一枚目の紙をめくると、次のページには文字がギッシリと詰まっていた。
ウィルムは眉を寄せ、紙の束を手にとってめくり始める。
そこに書かれていたのは、一部の薬草に対する詳細な内容だった。
幻覚を見せるものだったり、皮膚を変異させたりと、様々な種類の特徴が書かれていたが、そのどれもが危険な性質を孕んでいる。副作用もかなり危険なものだ。
だがウィルムがそれを見たところで、カエデの意図は分からない。
「これはいったい……」
「そこに書いてあるのは、フローラの研究室で大量の購入記録が見つかったものよ」
「え? それって……まさかっ!?」
ウィルムは最初、キョトンと目をしばたかせたが、すぐにその意味に気付き目を見開く。
カエデは正解だと言うように、神妙に頷いた。
「おそらく、新種を生み出すための薬品に使われているのよ。勝手に研究室に忍び込んで、最近の使用記録を調べたわ」
カエデは後ろめたさも感じさせず堂々と告げる。
その表情にはなんの迷いもなかった。
「そうだったのか。でも、そんなことして見つかりでもしたら」
「大丈夫よ。あなたが教えてくれたんじゃない。フローラの裏の研究は、グレイヴ会長の屋敷で行われているって。だから、シャーム店長たちが夜中そこへ向かったのを確認してから行動したわ」
「なるほど、さすがだね」
カエデのしたたかさは、ウィルムの想像を遥かに超えていた。
しかしこれも、親友を失ったことがキッカケなのだから、なんとも救われない。
カエデは悲痛に顔を歪ませながらも、目を潤ませウィルムを見つめた。
「もし本当に、そこに書いてある薬草を調合してあんな姿になったのなら……アビスを元の姿に戻す方法はないわ……」
「っ! そう、なのか……」
「だから……お願い、ウィルム。リサは優しい娘なの。これ以上、人殺しなんて残酷なことさせないつで!」
そう懇願してきた。
ウィルムのことを信じもせず、己の信念を無理やり通そうとしたから、取り返しのつかないことになったというのに。明らかに、彼女の自業自得だ。
それが恥を捨て、弱さを見せてでも頼み込んでいる。
かつての凛々しい彼女の姿はどこにもない。
そんな彼女の姿を見つめてウィルムは拳を握りしめた。
「任せろ――」
ウィルムはすぐに手紙を書き、エルダの元へと送った。
『フレアダイト鉱石』を大量に仕入れたいと。
ようやくシーカーの出資金の出番というわけだ。
カエデの話では、新種アビスの開発に使われたと推測できる薬草の調合結果を鑑みるに、ある副作用の影響が大きいという話だった。
それは、熱に対して非常に弱くなっているということ。
つまり、火属性の武器が有効になる可能性が高い。
フレアダイト鉱石は、結晶内に熱を宿した鉱物資源で、鍛冶屋に持っていけば火属性の武器を生産できるのだ。
それが普及しさえすれば、新種アビスの脅威をしのげる上に、ギルドの野望を打ち砕くことができる。
これは言わば、ギルドへの宣戦布告だ。
「――アクア、兄さん、みんな……僕は必ず仇を討つよ」
ウィルムは愛しき仲間たちの姿を思い浮かべ、戦地へと向かうのだった。
「――これを」
カエデは、テーブルの隅に置いていた紙の束に震える色白の手を乗せ、ウィルムの目の前に移動させる。
ウィルムが首を傾げ彼女の泣き晴らした目を見ると、そこには強い決意が宿っていた。
カエデは呼吸を整え、ゆっくりと告げる。
「あなたの元にやって来た理由は、もう一つあるの」
そう言って一枚目の紙をめくると、次のページには文字がギッシリと詰まっていた。
ウィルムは眉を寄せ、紙の束を手にとってめくり始める。
そこに書かれていたのは、一部の薬草に対する詳細な内容だった。
幻覚を見せるものだったり、皮膚を変異させたりと、様々な種類の特徴が書かれていたが、そのどれもが危険な性質を孕んでいる。副作用もかなり危険なものだ。
だがウィルムがそれを見たところで、カエデの意図は分からない。
「これはいったい……」
「そこに書いてあるのは、フローラの研究室で大量の購入記録が見つかったものよ」
「え? それって……まさかっ!?」
ウィルムは最初、キョトンと目をしばたかせたが、すぐにその意味に気付き目を見開く。
カエデは正解だと言うように、神妙に頷いた。
「おそらく、新種を生み出すための薬品に使われているのよ。勝手に研究室に忍び込んで、最近の使用記録を調べたわ」
カエデは後ろめたさも感じさせず堂々と告げる。
その表情にはなんの迷いもなかった。
「そうだったのか。でも、そんなことして見つかりでもしたら」
「大丈夫よ。あなたが教えてくれたんじゃない。フローラの裏の研究は、グレイヴ会長の屋敷で行われているって。だから、シャーム店長たちが夜中そこへ向かったのを確認してから行動したわ」
「なるほど、さすがだね」
カエデのしたたかさは、ウィルムの想像を遥かに超えていた。
しかしこれも、親友を失ったことがキッカケなのだから、なんとも救われない。
カエデは悲痛に顔を歪ませながらも、目を潤ませウィルムを見つめた。
「もし本当に、そこに書いてある薬草を調合してあんな姿になったのなら……アビスを元の姿に戻す方法はないわ……」
「っ! そう、なのか……」
「だから……お願い、ウィルム。リサは優しい娘なの。これ以上、人殺しなんて残酷なことさせないつで!」
そう懇願してきた。
ウィルムのことを信じもせず、己の信念を無理やり通そうとしたから、取り返しのつかないことになったというのに。明らかに、彼女の自業自得だ。
それが恥を捨て、弱さを見せてでも頼み込んでいる。
かつての凛々しい彼女の姿はどこにもない。
そんな彼女の姿を見つめてウィルムは拳を握りしめた。
「任せろ――」
ウィルムはすぐに手紙を書き、エルダの元へと送った。
『フレアダイト鉱石』を大量に仕入れたいと。
ようやくシーカーの出資金の出番というわけだ。
カエデの話では、新種アビスの開発に使われたと推測できる薬草の調合結果を鑑みるに、ある副作用の影響が大きいという話だった。
それは、熱に対して非常に弱くなっているということ。
つまり、火属性の武器が有効になる可能性が高い。
フレアダイト鉱石は、結晶内に熱を宿した鉱物資源で、鍛冶屋に持っていけば火属性の武器を生産できるのだ。
それが普及しさえすれば、新種アビスの脅威をしのげる上に、ギルドの野望を打ち砕くことができる。
これは言わば、ギルドへの宣戦布告だ。
「――アクア、兄さん、みんな……僕は必ず仇を討つよ」
ウィルムは愛しき仲間たちの姿を思い浮かべ、戦地へと向かうのだった。
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