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第四章 大資本の激突
協力者
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ウィルムはルークを居間に案内し、茶を出して向かいのソファに腰掛ける。
木製のテーブルを挟んで向かいに座るルークの後ろに、護衛の騎士が二人が立ち無言でたたずんでいた。
ルークの話では、今日たまたま休暇をとっていた仲の良い文官が、ドラチナス金庫二番店を通りがかったらしい。
そこで繰り広げられていたシーカーと副店主の争いを一部始終見届け、ルークに報告したという。
それでウィルムに興味を持ったルークが、人通りの少なくなる深夜を狙って訪れたというわけだ。
「話を聞いたときは耳を疑ったよ。まさか、この町でドラチナス金庫を相手に立ち回り、一矢報いる商人がいるなんてね。恐れ入った。そこで相談したいことがあるんだ」
「相談ですか?」
「ああ。君も知っているかもしれないが、実は今ドラチナスは苦境に立たされている。ドルガン国内の不況の影響を受けてね。放っておけば、ドラチナスの市場は縮小し続け、民は貧困化し領内財源が確保できなくなることによって、経済危機に陥る可能性が高い」
「それは穏やかではないですね」
ウィルムは難しい表情で頷く。
しかし今の彼にとって、経済危機など二の次だった。
たとえ絶望的な未来が待っていようと、ギルドと戦うつもりだ。
そんな心情を感じとったのか、ルークは「本題はこれからだ」と言う。
「実は、それを口実にギルドが資金援助を求めてきたんだ」
「なんですって!?」
「もちろん、そんなことをしたってその場しのぎにしからないのは分かっているから、まだ保留にしている。これを打開するには抜本的な解決策が必要だ。君はどう考える?」
ルークの問いかけに、ウィルムは口をつぐんで彼の目を見た。信用できるかどうか、それを見極めることが重要だ。
これから話すことは、相手を見誤れば身を滅ぼすことになりかねない。
ただし、上手く行けばギルドに決定的な打撃を与える切り札と成り得るのだ。
「すべての元凶はギルドでしょう。あれを解体しなければ、どの道結果は同じです」
「君もそう思うか?」
その問いは紛れもない同意だった。
ウィルムは内心でほくそ笑む。
強大な敵へ立ち向かう術を得た気がした。
ウィルムはルークの目をしっかりと見据え、神妙な表情でゆっくり丁寧に語り始めた。隠された真実を。
「ギルドに資金を与えるのは、ドラチナス領民を犠牲にするのと同じです」
「それはどういうことだい? あまりに直接的な物言いじゃないか」
「ギルドはおそらく、竜人をアビスに変異させる技術を隠し持っています。資金援助などしたら、アビスの脅威によって市場を活発化させようとするでしょう。つまり、悪事に加担するということです」
「んなっ……」
ルークは目を見開き絶句した。
背後の騎士たちも顔を見合わせ、首を傾げている。
信じられないのも無理はない。
ウィルムは特別期待はせずに、淡々とこれまでの経緯について語った。
竜人失踪事件、アビスの正体、アビスからフローラの白衣が見つかったことを。
すべてを聞き終えたルークは、眉間にしわを寄せ苦しそうに唸った。
「なんてことだ……しかし申し訳ないが、そんな壮大で陰謀めいた話を簡単に信じることはできない」
「構いません。僕はただ、ギルドが許せないだけですから。ルーク補佐官と目的が一致している限りは、協力させて頂きます」
「……分かった。理由はどうあれ、私たちの目的は同じだ。ドラチナスの経済を正常化させるには、市場を支配するギルドを解体する必要があると私は思っている。そして、今はまだ形にはなっていないが、奴らを葬るための改革案もある」
ルークは神妙な表情で、ギルドを解体するための秘策を語った。
それを聞いたウィルムの表情が輝く。あまりに大胆で革新的なそのアイデアは、彼にとっても確かな希望だった。
「――力を貸してくれるか?」
「もちろんです。奴らを叩き潰すために」
二人は笑みを浮かべながら手を握り合い、ギルドを打倒すべく協力し合うことを誓うのだった。
木製のテーブルを挟んで向かいに座るルークの後ろに、護衛の騎士が二人が立ち無言でたたずんでいた。
ルークの話では、今日たまたま休暇をとっていた仲の良い文官が、ドラチナス金庫二番店を通りがかったらしい。
そこで繰り広げられていたシーカーと副店主の争いを一部始終見届け、ルークに報告したという。
それでウィルムに興味を持ったルークが、人通りの少なくなる深夜を狙って訪れたというわけだ。
「話を聞いたときは耳を疑ったよ。まさか、この町でドラチナス金庫を相手に立ち回り、一矢報いる商人がいるなんてね。恐れ入った。そこで相談したいことがあるんだ」
「相談ですか?」
「ああ。君も知っているかもしれないが、実は今ドラチナスは苦境に立たされている。ドルガン国内の不況の影響を受けてね。放っておけば、ドラチナスの市場は縮小し続け、民は貧困化し領内財源が確保できなくなることによって、経済危機に陥る可能性が高い」
「それは穏やかではないですね」
ウィルムは難しい表情で頷く。
しかし今の彼にとって、経済危機など二の次だった。
たとえ絶望的な未来が待っていようと、ギルドと戦うつもりだ。
そんな心情を感じとったのか、ルークは「本題はこれからだ」と言う。
「実は、それを口実にギルドが資金援助を求めてきたんだ」
「なんですって!?」
「もちろん、そんなことをしたってその場しのぎにしからないのは分かっているから、まだ保留にしている。これを打開するには抜本的な解決策が必要だ。君はどう考える?」
ルークの問いかけに、ウィルムは口をつぐんで彼の目を見た。信用できるかどうか、それを見極めることが重要だ。
これから話すことは、相手を見誤れば身を滅ぼすことになりかねない。
ただし、上手く行けばギルドに決定的な打撃を与える切り札と成り得るのだ。
「すべての元凶はギルドでしょう。あれを解体しなければ、どの道結果は同じです」
「君もそう思うか?」
その問いは紛れもない同意だった。
ウィルムは内心でほくそ笑む。
強大な敵へ立ち向かう術を得た気がした。
ウィルムはルークの目をしっかりと見据え、神妙な表情でゆっくり丁寧に語り始めた。隠された真実を。
「ギルドに資金を与えるのは、ドラチナス領民を犠牲にするのと同じです」
「それはどういうことだい? あまりに直接的な物言いじゃないか」
「ギルドはおそらく、竜人をアビスに変異させる技術を隠し持っています。資金援助などしたら、アビスの脅威によって市場を活発化させようとするでしょう。つまり、悪事に加担するということです」
「んなっ……」
ルークは目を見開き絶句した。
背後の騎士たちも顔を見合わせ、首を傾げている。
信じられないのも無理はない。
ウィルムは特別期待はせずに、淡々とこれまでの経緯について語った。
竜人失踪事件、アビスの正体、アビスからフローラの白衣が見つかったことを。
すべてを聞き終えたルークは、眉間にしわを寄せ苦しそうに唸った。
「なんてことだ……しかし申し訳ないが、そんな壮大で陰謀めいた話を簡単に信じることはできない」
「構いません。僕はただ、ギルドが許せないだけですから。ルーク補佐官と目的が一致している限りは、協力させて頂きます」
「……分かった。理由はどうあれ、私たちの目的は同じだ。ドラチナスの経済を正常化させるには、市場を支配するギルドを解体する必要があると私は思っている。そして、今はまだ形にはなっていないが、奴らを葬るための改革案もある」
ルークは神妙な表情で、ギルドを解体するための秘策を語った。
それを聞いたウィルムの表情が輝く。あまりに大胆で革新的なそのアイデアは、彼にとっても確かな希望だった。
「――力を貸してくれるか?」
「もちろんです。奴らを叩き潰すために」
二人は笑みを浮かべながら手を握り合い、ギルドを打倒すべく協力し合うことを誓うのだった。
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