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第四章 大資本の激突
決着
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「今一度お願いします。口座凍結の解除と、資金を返却してください」
「それはできません」
「なぜ?」
「当店の規則なのです。一度凍結した口座は、いかなる理由があっても元に戻すことはできません。そのときに回収された資金も同様です」
「規則、ですか?」
シーカーはもはや呆れたというように薄ら笑いを浮かべた。
副店主はその態度が癪に障ったのか、顔をしかめ明らかに不機嫌そうな表情を作る。余裕のなさが明らかに分かる。
だがシーカーは攻勢を緩めたりしなかった。
「規則だろうがなんだろうが、自分たちの勘違いで大事な客が苦しんでいるんだ。商人なら過ちを認め、規則を変えてでも誠意を見せるのが筋というものでしょう? それができないというのなら、あなた方に金庫番を名乗る資格はない」
「んなっ!?」
副店主が唖然とした表情で声を漏らす。
その後ろで作業をしていた店員たちも顔をしかめ、ヒソヒソとささやきあっていた。
副店主は額に青筋を浮かべ、低い声で告げる。
「これ以上、我々を侮辱とするというのなら、容赦はしませんよ」
「損得勘定すら忘れてしまったのですか? その選択が……大事な客を切り捨て、他国の商人を敵に回すことが、あなた方の得になるというのですか? それとも、背後に誰かがついているのですか? ウィルムさんを追いつめたいと思う何者かが……」
「あなたの知ったことではない」
「ふふふっ」
そのとき、シーカーは突然笑い出した。
静まり返った店内に不気味な笑い声が響く。
彼自身の持つ、底知れない不気味な雰囲気が溢れ出しているようだ。
副店主は戸惑いに眉をしかめながらも、シーカーを睨みつけた。
「いったいなにがおかしい」
「いえ、まさかこんなところに、真っ白な未開拓市場があるとは想像もしていなかったもので」
「なに?」
「ドラチナス金庫、底が知れましたね。その程度の能力しかない金貸しが牛耳る市場なんて、私程度の資本家でも簡単に崩せるということです」
「なんだと……」
「私はヴァルファームの都、フォートレスの投資家だ。大資本を有する大商会や財団との繋がりもある。彼らに今回の件を伝えたらどうなるでしょうね?」
「ま、まさかっ!?」
「ドルガンでの商売の拠点とすべく、大量の資金を投じて市場の支配を奪おうとするでしょう。それに対抗しうる余力があなた方にありますか?」
「くっ……」
「そして、そのキッカケを作ったあなたの責任は大きい。どうするのが得で損なのか、ここまで言えば分かるでしょう?」
シーカーはトドメの一撃を放った。
副店主とはいえ、ギルドの立場を揺らがすような事件を起こしたとなれば、彼の罪は重い。
もちろんギルドの上層部が許すはずもないだろう。
副店主は顔を青ざめ、唇が小刻みに震えている。
シーカーは彼を捨て置いて、再び背後を振り向き固唾を吞んで見守る民衆へ告げた。
「あなた方も損得勘定を忘れないことです。感情にばかり振り回されているから、この程度の商人につけこまれる。だからせめて、一人で必死に戦い続けている誇り高き竜人の邪魔をするな! それがきっと、あなた方にとっての得になる」
シーカーは最後に強く言い放った。
彼らしくない、情熱を込めて。
そのとき改めて、強い味方を得たという実感がこみ上げ、ウィルムは胸が熱くなった。
「それはできません」
「なぜ?」
「当店の規則なのです。一度凍結した口座は、いかなる理由があっても元に戻すことはできません。そのときに回収された資金も同様です」
「規則、ですか?」
シーカーはもはや呆れたというように薄ら笑いを浮かべた。
副店主はその態度が癪に障ったのか、顔をしかめ明らかに不機嫌そうな表情を作る。余裕のなさが明らかに分かる。
だがシーカーは攻勢を緩めたりしなかった。
「規則だろうがなんだろうが、自分たちの勘違いで大事な客が苦しんでいるんだ。商人なら過ちを認め、規則を変えてでも誠意を見せるのが筋というものでしょう? それができないというのなら、あなた方に金庫番を名乗る資格はない」
「んなっ!?」
副店主が唖然とした表情で声を漏らす。
その後ろで作業をしていた店員たちも顔をしかめ、ヒソヒソとささやきあっていた。
副店主は額に青筋を浮かべ、低い声で告げる。
「これ以上、我々を侮辱とするというのなら、容赦はしませんよ」
「損得勘定すら忘れてしまったのですか? その選択が……大事な客を切り捨て、他国の商人を敵に回すことが、あなた方の得になるというのですか? それとも、背後に誰かがついているのですか? ウィルムさんを追いつめたいと思う何者かが……」
「あなたの知ったことではない」
「ふふふっ」
そのとき、シーカーは突然笑い出した。
静まり返った店内に不気味な笑い声が響く。
彼自身の持つ、底知れない不気味な雰囲気が溢れ出しているようだ。
副店主は戸惑いに眉をしかめながらも、シーカーを睨みつけた。
「いったいなにがおかしい」
「いえ、まさかこんなところに、真っ白な未開拓市場があるとは想像もしていなかったもので」
「なに?」
「ドラチナス金庫、底が知れましたね。その程度の能力しかない金貸しが牛耳る市場なんて、私程度の資本家でも簡単に崩せるということです」
「なんだと……」
「私はヴァルファームの都、フォートレスの投資家だ。大資本を有する大商会や財団との繋がりもある。彼らに今回の件を伝えたらどうなるでしょうね?」
「ま、まさかっ!?」
「ドルガンでの商売の拠点とすべく、大量の資金を投じて市場の支配を奪おうとするでしょう。それに対抗しうる余力があなた方にありますか?」
「くっ……」
「そして、そのキッカケを作ったあなたの責任は大きい。どうするのが得で損なのか、ここまで言えば分かるでしょう?」
シーカーはトドメの一撃を放った。
副店主とはいえ、ギルドの立場を揺らがすような事件を起こしたとなれば、彼の罪は重い。
もちろんギルドの上層部が許すはずもないだろう。
副店主は顔を青ざめ、唇が小刻みに震えている。
シーカーは彼を捨て置いて、再び背後を振り向き固唾を吞んで見守る民衆へ告げた。
「あなた方も損得勘定を忘れないことです。感情にばかり振り回されているから、この程度の商人につけこまれる。だからせめて、一人で必死に戦い続けている誇り高き竜人の邪魔をするな! それがきっと、あなた方にとっての得になる」
シーカーは最後に強く言い放った。
彼らしくない、情熱を込めて。
そのとき改めて、強い味方を得たという実感がこみ上げ、ウィルムは胸が熱くなった。
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